本記事は、オリバー・バークマン氏の著書『HELP!「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案』(河出書房新社)の中から一部を抜粋・編集しています。

会議
(画像=weedezign/stock.adobe.com)

社内会議はなぜ廃止すべきか?

誰もが嫌っているというのに、社内会議を廃止しようという考えは、いまだに革新的で非現実的だと思われている。だが、ウェブサイト運営で成功したジム・バックマスターのように、「いかなる会議も開かない」というシンプルな方針を掲げているような人もいる。もしあなたが会社の経営者なら、なぜ自分にはバックマスターと同じことができないのか、考えてみるだろう。ユーモア作家デイヴ・バリーに言わせると、「会議とは、いわば会社や大きな団体がマスターベーション代わりに習慣的に行っている非常に身勝手な中毒行為である」

また、世界最大の家電量販チェーン「ベスト・バイ」で行われた実験についての報告書によると、「完全結果志向の職場環境」では、従業員は自らのやるべき仕事を完遂する限りいつどこで働いてもかまわないことになっている。この方針の犠牲になった第1号が「会議」なのだ、と。報告書作成者は言う。「われわれがすべき仕事について話し合うのに、なぜそんなに多くの時間を費やさなければならないのか?」。

会議が功を奏しない理由はいくつかある。経営コンサルタントのデイル・ドーテンの言葉を借りれば、「会議は、その場にいる人の中で最も動きの鈍い人のペースで進められる。だから、1人を除いてほかの全員が退屈し、自分たちが十分に活用されていない気分になる」。会議の主目的は情報の伝達だ。人々が最も効率良く情報を吸収するのは、それを読んだり、メールで議論したりするよりも直接耳で聞く場合なのだ、という思い込みが根底にあるのだろうが、実際の「聴覚学習者」はごく少数だと推定されている。パワーポイントを使ったプレゼンテーションなんかも最悪だ。2003年のスペースシャトル・コロンビアの悲惨な事故は燃料タンクのトラブルが原因だったとされているが、その原因究明に使われたスライドがパワーポイントだったためNASAのエンジニアたちが燃料タンクのトラブルに気付くまでに時間がかかった、という。パワーポイントはいろいろな情報を箇条書きの階層式リストにまとめるが、これは人間の脳の働きに最もふさわしくない方法なのだ。

問題のカギは、価値のある会議とそうでない会議を区別することにある。従業員がそれぞれの立場を述べ合う「状況報告」会議なのか? もしそうだとすると、わざわざ会議を開くよりもメールや紙に書いたものを交換する方がうまくいくだろう。そうすることで、少数派である「優れた」会議︱参加者の心と心の交流を目的とする会議 ―― だけが生き残れるのではないか。例えばブレインストーミングなどがそうだ。

企業の経営者に対して、従業員に「やる気」を起こさせる方法を指南する本は数え切れないほどある。しかし、やる気」が問題なのではない。ほとんどの人は、そもそも仕事をしたいという欲求を持っている。人々が不平をもらすのは、今している仕事が会議などで中断されたときなのだ。2006年の調査では、会議が自分たちの業務改善に役立ったと答えたのはわずか一グループだけだった。同時に彼らは「成果を追求する」ことに消極的だった。言い換えると、会議を楽しんでいる人たちは物事を完遂することを望まない人たちなのだ。

仕事の邪魔をされない方法

他人に邪魔されずに自分の仕事に集中するにはどうすればいいか?

とはいえ多くの人は行動科学者たちが「割り込み駆動式」と呼んでいる仕事に従事しており、随時飛び込んでくる伝言や依頼に即座に反応することも給与計算に織り込まれている。こうなったら、コールセンターのオペレーターに(それと投資斡旋の銀行マンやジャーナリストにも)頼んで、1時間ほど電話をかけないようにはさせられないものだろうか?

自己啓発の大先生たちに助けを求めてみることにしよう。

【「2分ルール」の適用】

生産性に関するコンサルタントとして世界的な権威であるデビッド・アレンが言い出したのは、一見馬鹿みたいに単純だが、あなたの人生を本当に変えてしまうほどの影響力のあるアイデアだ。それは、「2分以内でできると思うことは、ただちに実行しなさい(その他のことは、メモにして後で実行しなさい)」というもので、ここで重要なのは「2分」という時間である。それはあなたが今行っている仕事の感覚を失わずにいられる時間なのだ。心理学者で「割り込みに詳しい科学者」でもあるメアリー・チェルヴィンスキーが発見した事実に鑑みても、これは重要なことだ。彼女が発見したのは、一旦仕事を中断された事務員のうち、所定の時間(2分)が経つといざ再開しようとしたときに元の仕事に戻れなくなってしまう人が40パーセントもいた、という事実だった。

【他人の視線を避けるために有効な物を使う】

机の上に鉢植えを置いたり、本を積み上げたりするのは、必ずしも同僚の視線をそっくりさえぎることにはならないが、そうした単なる象徴的な存在でも、人々は意外に敏感に反応するものなのだ。私は、特大のヘッドホンをつけて何日もオフィスで過ごしたことがある。面白いことに、誰が見ても電源に繫がっていないことは明らかなのに、1人として私の邪魔をする者はいなかった。

【自ら作業を中断しないこと】

注意散漫の主因がネットサーフィンであるなら、ブラウザの優先サイトを調整すべきだろう。あなたのホームページをブロガーのマーク・トウによる「仕事に戻れ」というページに設定するといい。そこには、「仕事に戻れ」と大きな字で書かれており、あなたがしようとしていることを明示し、かつ監視するという優れたシステムが組み込まれている。これによって、あなたは現在していることを今まで以上に鋭敏に意識して、これまでのような、集中しているのでもリラックスしているのでもない中途半端な時間を大幅に短縮することができるというわけだ。

ほかにも、仕事の邪魔をされないようにする方法はいくつかある。中には、気の弱い人には向いていない方法や、あなたの社会的立場にマイナス効果をもたらすような方法なんかもある。私があなたに勧めるとすれば、ブルーチーズを机の上に置いておくことくらいかな。

どうでもいいことだけが議論される法則

イギリスの作家C・ノースコート・パーキンソンは「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」(パーキンソンの法則)という格言を残した(もっとも、彼がこの法則を考え出すのに一生かかったわけではないので、この格言の正しさを自ら実証したことにはならないのだが……)。パーキンソンはこのほかにも、会社生活における数々の不合理でバカバカしい行為に鋭い洞察の目を向けている。例えば、彼の著書『パーキンソンの法則』(森永晴彦訳、至誠堂)には、この「パーキンソンの法則」ほど有名ではないが、同様に的を射た「パーキンソンの凡俗法則」というのが紹介されている。

この法則は、ある会社の幹部が集まって2つの新規プロジェクトを検討するという架空の物語の形をとっている。1つは原子炉の建設、もう1つは会社の自転車置き場の建設だ。原子炉は複雑で膨大な金がかかるし、専門外の人間が議論したところで困惑を招くばかりだ。だから会議でも積極的に発言する者が少なく、議案は2分半で承諾された。しかし、自転車置き場となると知らない者はいないし、誰もがそれぞれの意見を持っている。「自転車置き場は1時間半ほどかけて議論され、それでも結論が出ず、さらに多くの情報を集めることとして次回に持ち越されるだろう」と、パーキンソンは書いている。

これは「自転車置き場の議論」として知られるものだ。あることに費やされる時間はその費用と重要性に反比例する、というのである。些細な事項が些細でない事項を容赦なく締め出していく。原子炉に、もし何らかの技術的な見落しがあればメルトダウンを起こすかもしれない。でも、そんなことは気にしなくていい。今まであれこれと時間をかけて専門的に検討してきた膨大な量の社内文書があるので、それをさらに吟味すればいいことだ。

このことは重要性の最も低いことがやたら頻繁に注目の的になる政治やマスコミの世界にも通じることだが、パーキンソンの論点は単に「小さなことならあまり怖がらずに取り扱うことができる」ということだけではない。誰もがやっていることだが、メンバーの1人ひとりが個々のエゴに駆られて動く場合、それぞれのエゴが無意識のうちに共謀し、あまり重要でないことがその焦点になりがちだ。各人は、自分がプロジェクトに参加し、十分注意を払いながら、事態の改善に尽くし、「付加価値を与えている」ことを、上司や自分自身に対して誇示したいと願う。

しかし、自分たちのよく知らない複雑な問題については、それができない。恥をかく恐れがあるからだ。また、自分たちの専門事項についても人々は長々と話したがらない。専門外の人からあれこれと細かく詮索されたくないのだ(パーキンソンの例で言うと、原子核の専門家は口を閉ざして一切発言しない。「専門家は、原子炉とは何かの説明から始めなければならない。そして、それを聞く人は誰も、そんなことを知らなかったなどと認めようとしない。だから、何もしゃべらない方がいい、と考えるのだ」)。はっきり言ってしまえば、どうでもいいことだけが議論されるということだ。

実際、それが些事であるからという理由で夢中になるのは、われわれの人生にはよくあることだ。パーキンソンの凡俗法則は、「学問的な机上の政策は、利害関係が少ない分かえって性質が悪い」という辛辣なコメントを思い起こさせる(一般には、冷戦時代のアメリカ国務長官ヘンリー・キッシンジャーの言葉とされている)。この見解は、間違いなく、一般企業の経営戦略にも適用される。また、私自身にも思い当たることがある。それは私が作成した「やることリスト」の中で本当に重要ないくつかの仕事を手つかずのまま残し、多くの些細な事項ばかりを何とかして実践したときに感じる幻想の達成感である。とにかく、パーキンソンの二つの法則は、いずれも皮肉たっぷりではあるが、些細な忠告でないことは間違いない。われわれが今行っている仕事は、与えられた時間をすべて満たすまで膨張する ―― そして、その仕事はというと、多くの場合は最も重要な仕事ですらないのだ。

HELP! 「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案
オリバー・バークマン
1975年、リヴァプール出身。ケンブリッジ大学社会政治科学部学位取得。イギリスの全国紙『ガーディアン』の記者。外国人記者クラブ(FPA)の若手ジャーナリスト賞受賞。英国で最も権威ある報道賞・オーウェル賞ノミネート。『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』などアメリカの有名紙、雑誌『サイコロジーズ』や『ニュー・フィロソファー』にも寄稿。著書にベストセラー『限りある時間の使い方』『ネガティブ思考こそ最高のスキル』他。

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