◉八百屋は「仕入れ」が大事
ここからがミソなのですが、株式市場だとあくまで「仲介業者」でしかないので、東京証券取引所の上場しているある銘柄を、同じタイミングで買うとするならば、Aという証券会社だろうがBという証券会社だろうが全く同じ値段で買い付けが出来る訳です。
なぜなら、あくまで仲介しているだけで、アクセスしている「取引所」は同じだからです。ところが、債券市場ではみんな仕入れ値が微妙に違っていたりします。
証券会社が仕入れてくるのは主に、
・財務省の新規発行債券の入札
・業者間市場(ブローカーズブローカー)での売買
・顧客である投資家が売ってきた債券の買い入れ
の3つがあります。
ここでは個別の細かい説明は省略しますが、要するにこれらのいずれかから仕入れる必要があります。しかも、ある程度種類(銘柄の数)や量も揃えておかないと顧客(投資家)のニーズに答えられないかもしれないわけです。
だから相場の先行きを読みつつ、証券会社は前もって債券の在庫を持っておく必要がある訳です。
この辺、やっぱり八百屋と似ていますよね。自分でカボチャなりほうれん草なり先に仕入れておかないと、売れるものも売れないといった具合です。だから、顧客がある債券を買いにきた時も、どの価格で仕入れたかによって提示できる売り値もまた微妙に変わってしまう訳です。
あっちの八百屋はキャベツが1個150円だけど、こっちの八百屋だと120円で売っている、という具合に。そうすると同じキャベツなら120円の方を普通は買いますよね。
◉値段の分かりにくいものほど「抜きやすい」=「儲けやすい」
これだけ聞くと最終的には値下げ商売みたいになってしまってあまり儲からなくなりそうに聞こえるかもしれません。
ただ債券市場においては以下の2つのポイントがあります。
それは、
・決まった値段がある訳ではないので、あくまで売る人と買う人が合意すればどんな価格でもいい
・値段が読みにくい債券(流通額が小さい社債など)ほど、鞘が抜きやすい
ということです。
ここからは八百屋とは少し違うのですが、八百屋の場合だと消費者はカボチャを買いにいくことはあっても、売りにいくことはまずないですよね?債券の場合は、投資家は買うだけでなく「売る」ということもするわけです。
そうなったときに、証券会社は投資家に提示する「売り値」と「買い値」は全く同じではなく、そこには多少の差をつけている訳です(スプレッド、と呼ぶことにします)。
その差というのも、国債などの流通量が多い債券などだと、ある程度市場価格というのもみんなイメージとして持っているので、大きなスプレッドはつけにくいわけです。ところが、社債などの流通量が少ない債券では、それだけ世の中でほとんど売買されなかったりするために、価格が読みにくい、だからその分スプレッドを大きくしたりします。
これは証券会社にとってすごく重要なことです。というのは、株式の場合だと流動性があろうがなかろうが、もらえる手数料は同じ。一方で債券だと手数料はないものの、売り値と買い値の差で儲けることが出来る。
証券会社の場合自分で在庫を抱えることになるので、当然投資家から売り注文ばかり来たりすると大量の在庫を抱えないといけなくなり、そのまま価格が暴落して損をする、といったリスクも当然あります。ただほとんどの場合は高く売って安く買うことが出来る「安パイ」なゲームをやっていることになり、しかも手数料制にするよりも相場に対する腕次第でははるかに儲かりやすい。
だからこそ証券会社の儲けられるディーラーなどは数億円単位のボーナスを平気でもらう訳ですけどね。
というわけで、証券会社にとって債券ビジネスと言うのは極めておいしい商売なのですね。
【債券投資の教室シリーズ】
債券投資の教室vol1〜証券会社の債券ビジネスのカラクリ〜
債券投資の教室vol2〜預金?国債?社債?個人投資家が知っておくべき債券の比較法〜
債券投資の教室vol3〜個人投資家にとって債券市場が身近でない3つのワケ〜
債券投資の教室vol4〜孫正義氏の辣腕とソフトバンクが発行した4000億円の「個人向け社債」〜
債券投資の教室vol5〜変動型個人向け国債が圧倒的に有利な3つのワケ〜
債券投資の教室vol6〜債券取引の現場、機関投資家が債券を売買するとき〜
債券投資の教室vol7〜債券取引の現場、証券会社が債券を売買するとき〜
BY GEL