◯コンプライアンス・デュ-デリジェンス
コンプライアンスとは法令遵守の状況のことをいいます。法令遵守は企業の社会的責任として近年様々な場面でとても重視されている事項です。コンプライアンス違反に対しては法的・社会的制裁はとても厳しいものとなっているのが今日の状況です。
例えば、消防法に違反した建築物を所有している企業の事業を合併の形で事業承継した場合に、その建築物で火災が生じてしまった場合には、刑罰法規、行政法規により厳しい処分を受けるとともに社会的信用も大きく失墜することとなります。このようにコンプライアンスが重視されている今日、事業承継の際に対象事業のコンプライアンス状況に対するデュ-デリジェンスをしっかりとすることは、とても重要となります。

コンプライアンス状況の調査で特に注意したいケースとして反社会的勢力との取引・交際の有無という状況は注意する必要があります。長い経営年数を経ている事業である場合にはどこかで反社会的勢力との接点・取引などがある可能性がありえます。暴力団排除条例などの施行は比較的近年であるのに対して、交際は長い年月を経て成立しているものなので容易に関係を断ち切ることができないケースも考えられます。この場合にはデュ-デリジェンスの結果、M&Aの白紙撤回も考慮すべきとも言えます。


◉セルサイド・デュ-デリジェンスの重要性


デュ-デリジェンスは、事業の買い手が行うのが基本ですが、売り手が行うケースも増えています。売り手が行うデュ-デリジェンスを売り手側(セルサイド)の行うデュ-デリジェンスという意味で、セルサイド・デュ-デリジェンスといいます。
デュ-デリジェンスには莫大な手間と多額の費用がかかります。買い手(バイサイド)が企業価値を量るためデュ-デリジェンスを行うのは当然ですが、売り手があえてコストをかけてデュ-デリジェンスを行うのはなぜなのでしょうか。

セルサイド・デュ-デリジェンスが実施される意味としては、「磨き上げ」にあると言われます。磨き上げとは、企業価値を自ら高めるという意味です。バイサイドが行うデュ-デリジェンスには、外部からの調査であるためどうしても限界があることがあります。また、バイサイドから企業に問題があることを価格交渉の際に指摘されて承継価格が低くなってしまうのでは、経済的な損失ということができます。
そこで、売り手自らデュ-デリジェンスを行い、問題点があれば、自ら改善することで事業価値を高めるという「磨き上げ」ために行うのがセルサイド・デュ-デリジェンスです。セルサイド・デュ-デリジェンスは、網羅的に行う必要はなく、事業承継で相手方が特に関心を持ちそうな事項や相手方では調査しにくい事項に特化して行うことが効率的です。この磨き上げの中で買い手に魅力的な企業にしていくことが円満なM&Aによる事業承継の実施に役立つこととなります。

デュ-デリジェンスは、M&Aにより企業の事業承継を実施するためには不可欠な手続きということができます。また売り手としてもセルサイド・デュ-デリジェンスの実施は、企業の価値を高める上でとても有益ですので、事業承継のためのM&Aの実施に際してはセルサイド・デュ-デリジェンスを実施することがおすすめです。

【参考 オーナー企業のための事業承継】

オーナー企業のための事業承継vol1「事業承継の必要性と円滑化のための法制度とは?」
オーナー企業のための事業承継vol2「後継者選びのポイントとは?」
オーナー企業のための事業承継vol3「後継者選びのポイントは?その2」
オーナー企業のための事業承継vol4「建設業界に学ぶ許認可事業の事業承継って?」
オーナー企業のための事業承継vol5「会社の現状を把握するポイントとは?」
オーナー企業のための事業承継vol6「企業の事業承継の際の法律上の問題点とは?
オーナー企業のための事業承継vol7「家族の絆を守る後継者以外への配慮とは?」
オーナー企業のための事業承継vol8「後継者の適性・選定のポイント」
オーナー企業のための事業承継vol9「種類株式を使った事業承継?」
オーナー企業のための事業承継vol10「贈与税の注意点って?」
オーナー企業のための事業承継vol11「代表者の個人保証・担保提供の問題って?」
オーナー企業のための事業承継vol12「生命保険を利用した資金対策」
オーナー企業のための事業承継vol13「MBOという手法の活用」
オーナー企業のための事業承継vol14「M&Aによる第三者への事業承継」
オーナー企業のための事業承継vol15「M&A時のデュ-デリジェンスの意義とポイント」

BY S.K

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