今回から2回に渡り、行動ファイナンス理論の知見を元に、投資家が陥りやすい非合理的な行動について代表的なものを7つに絞り、紹介していきたいと思います。

まず第1回となる今回は、行動ファイナンス理論について簡単に説明した後に、7つのうち3つの非合理的行動(トレンドに過信する行動、値下がり株を持ち続ける行動、値上がり株を直ぐに売る行動)について、行動ファイナンスのキーワードを元に紹介していきます。そして、関連する書籍をいくつか紹介したいと思います。

【参考】
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債券、配当狙いの株式投資、マンション経営〜富裕層の資産運用の本質とは何か?〜
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◉行動ファイナンスとは

行動ファイナンスは行動経済学の一分野で、伝統的な主流派経済学とは大きく異なったアプローチを取る研究分野です。主流派経済学では、市場均衡をもたらす一般的な仮定としての人間の合理性を置き、そこから演繹的に結論を導いていくアプローチを取ります。

一方で行動経済学は心理学から派生した分野で、実験など人間の行動を帰納的に積み上げた上で新しい理論を形成していくアプローチを取ります。そこには、人間の行動には不合理なものが混じりうるという限定合理性が念頭に有ります。

この人間の行動の合理的でない部分は、しばしば投資で最大利益を得る為の阻害になります。人間ですから完全に合理的な行動を取るのが不可能ですが、投資を実行する上で、投資家がどのような罠に陥り易いかを知っておくのは有効です。

それでは、一つずつポイントをチェックしていきましょう。

◉トレンドへの過信 ~ギャンブラーの誤謬~

「この株は上昇トレンドが続いているから、まだ上がるはずだ」とか「この株は下がり続けているから、そろそろ上昇に転じるはずだ」といった主観的な判断によって投資をする人が少なからずいます。

こうしたトレンドへの過信の非合理性が最初に検討されたのがカジノ等でのギャンブルです。「ルーレットで赤が出続けているから、そろそろ黒が出るはずだ」と言って賭けるといった行動を元に「ギャンブラーの誤謬」と呼ばれています。コインの表と裏出る確率は、コインの形状や投げ方に偏りが無ければどちらも等しく1/2で、次の出方は過去の結果には依存しないのです。
株価も程度の差はあれランダムウォーク(次の結果への移動が確率的にランダムであること)に従うという意見が主流で、トレンドへの過信は良い結果を生みにくいです。

ギャンブラーの誤謬の最たる例は、バブル状況下での投資である。一般的にバブル(株価がファンダメンタルズを上回っている状態)である時、更にリスクを取って投資を続けるのは、「他の投資家もまだ上がると思っているはずだ」と他者の思考を予測して投資を続けているわけです。多くの投資家がこの考えを共有している限りはパフォーマンスを高める事が出来ますが、それが永遠に続かない事は言うまでもないでしょう。

売り時を誤らせるポイント>>

◉値下がり株を持ち続ける ~気質効果(プライド効果)・現状維持バイアス・合同バイアス~

「この株は含み損を抱えているから、利益が出るまで売りたくない」という人も多いです。この行動をギャンブラーの誤謬の一つとして解釈する事も可能ですが、次の3つ複合要因で説明する方が良いと思われます。

まず、「この私が損失を出す筈が無い」若しくは「損失を出した事を記録に残したくない」といった個人のプライドが合理的な行動(売却して、より良い投資機会を探す)を阻害するケースがあります。これは、気質効果やプライド効果と呼ばれています。こうしたケースに陥る人は、自分のポートフォリオを他者にベラベラと喋る傾向にあるという報告もあります。周囲に言った手前、なかなか引き下がれないという事でしょうか。

また、「どうせ結果が分からないのなら行動を変えたくない」という行動を取ってしまう投資家も多いです。つまり、他の投資機会を探す方が合理的だという事が分かっていたとしても、その新しい投資先が利益を生むとは限らないが故に、思考や行動を止めてしまうといった行動です。人間は生物学的に保守的な部分が多く残っているという事が分かっており、これは現状維持バイアスと呼ばれています。

この状態が長く続くと、保有株式についてネガティブな情報が入ってきても聞く耳を持たないようになってしまう人がいます。これは合同バイアスと呼ばれ、都合の良い情報以外を無視してしまう現象を指します。

◉値上がり株を直ぐに売る ~鏡映効果~

利益が出ても直ぐに利益を確定させてしまう事も一般的に非合理的な行動とされます。利益を早々に確定させると期待利益に対して機会損失を起こしやすいだけでなく、同じ複利運用をするにしても手数料や税金などが高くつきやすく、利益が抑えられてしまう事が多いです。

基本的には値下がり株は直ぐに売るべきで、値上がり株は長く持つべきなのですが、真逆に行動してしまう、つまり「損失を出している時はリスク愛好的」になり、「利益を出している時はリスク回避的」になってしまうという事で、鏡映効果と呼ばれています。

バブル時を例に出せば、引き際は大事であるものの、全く投資をしないのも非合理的という風に考えれば分り易いと思います。

◉行動ファイナンス・行動経済学のオススメ書籍

今回は、似ているようで少し違う投資家が陥りやすい非合理的な行動を3つ紹介しました。残りの4つは次回に紹介しますが、その前に行動ファイナンス・行動経済学を学ぶ上でオススメ出来る書籍をいくつか紹介して今回は終わりにしましょう。

【入門書】

  • 友野典男『行動経済学 経済は「感情」で動いている 』光文社新書, 2006
    行動経済学のエッセンスを幅広く様々な事例と共に紹介されています。新書にしてはボリュームがあるが読みやすく、専門書に入る前の導入としては最適だと思われます。
  • ダニエル・カーネマン『ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』楽工社, 2011
    経済学に心理学の知見を活かし、現代の行動経済学の始祖となったノーベル経済学賞受賞者の関係文献がまとめたられたものです。ノーベル賞受賞式での講演、心理学を経済学に活かすまでの自伝、プロスペクト理論などを紹介した比較的読みやすい論文が収録されています。

【実用書】

  • ハーシュ・シェフリン『行動ファイナンスと投資の心理学―ケースで考える欲望と恐怖の市場行動への影響』東洋経済新報社, 2005
    行動ファイナンスについての理論を紹介した上で、投資家がどのような失敗を犯しがちになるかを様々な事例と共に議論した上で、安全な投資手法を提案しています。
  • ジェームス・モンティア『行動ファイナンスの実践 投資家心理が動かす金融市場を読む』ダイヤモンド社, 2005
    行動ファイナンス理論を元に統計分析を駆使し、効率的市場仮説では起こりえない現象(アノマリー)が何故起こるか、その中ではどういう投資手法が良いかが検討されています。

【専門書】

  • 城下賢吾, 森保洋『日本株式市場の投資行動分析―行動ファイナンスからのアプローチ』中央経済社, 2009
    モメンタム効果(トレンドが続く現象)が日本の株式市場で存在するかについて様々な統計的分析が行われています。本稿で紹介したギャンブラーの誤謬と気質効果の実証研究になります。ある程度の計量経済学の知識が必要になります。

BY T.T:経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている。