(本記事は、岩下 智の著書『面白い!のつくり方』CCCメディアハウスの中から一部を抜粋・編集しています)
自分の「面白さのツボ」を見つけるには
表現することに慣れている人もそうでない人も、自分自身を客観的に見ることは、容易ではありません。内面的なことももちろんですが、そもそも自分の顔や態度などを、自分が他人を見ているような感覚で見ることは不可能です。できることなら幽体離脱でもして、一度でいいから他者の視点で自分がどんな人間なのか見てみたいと、私は昔から思っています。でもおそらく、いろんな意味で幻滅してしまうことは間違いないでしょう(笑)。
映像に撮られた自分を見るだけでも、自分の声や表情、動きなどが、あまりにも想像とかけ離れていて驚くことがあります。それだけ、自分が思い描いている自分像というのは、他人が見ている実際の自分とは全く異なるものなのでしょう。
また、自分を客観視するどころか、主観的に見ることでさえ難しいこともあります。
「やりたいことがわからない」というのは、自分のことがわからない典型的な例でしょう。
これはよくよく考えると不思議なことですが、たしかに難しい問題です。私も若い頃は特にそうでした。私が思うに、やりたいことがわからないのは、まだいろんなことをやっていないからなのではないでしょうか。当たり前と言えば当たり前なのですが......。
とにかくたくさんのことをやってみることが大切で、色々やっているうちに本来自分がやりたかったことが、段々と見えてくるものなのではないかと思います。
「自分が好きな面白さ」についても、似たようなことが言えます。「自分が好きな面白さがわからない」ということは、自分が面白いと感じることについて、まだたくさんの面白いものに出会っていない(と思っている)だけなのかもしれません。
このように、自分の外面も内面も、自分のことはわかっているようで意外とわかっていないのです。さらに言うならば、「自分の魅力」について、本当に理解できている人は少ないのではないでしょうか。外見的なことならわかりやすいかもしれませんが、それだって人によって感じ方も違うはずです。
例えば、自分のチャームポイントは目で、あまり好きじゃないのは口だと思っていても、周りの人から見たら、口の方がよっぽど魅力的に見えている可能性もあります。内面的なことであれば、尚更です。自分としては内向的な性格だと思っていても、他人から見たら決してそんなことはなく、むしろ大人しいけど社交的な人に見えているかもしれません。
面白さも同様です。「自分の面白さ」について、ハッキリと理解することは困難です。
「自分の面白さ」というのは、つまり「自分の魅力」そのものです。自分が本来持っている魅力を客観的に理解するには、他人に聞くのが一番早いのかもしれません。
しかし、もし自分が過去に表現した「面白いもの」が手元にあるとしたら、客観的に「自分の面白さ」を見つめ直すことは、それほど難しいことではありません。自分が作ったものや表現したものというのは、言うなれば「自分を映し出す鏡」のようなものだからです。
デザイナーという職業柄、私はこれまで色々なものを作らせてもらいました。しかし、毎日作ることを仕事にしていると、過去に作ったものを振り返って見直すような時間は、あまり多くありません。そこで、改めて自分が作ったものを並べて見直してみたところ、ようやく自分の「面白さのツボ」が少し見えてきたような気がしています。
私の持論としては、デザイナーはアーティストではないので、自分の作風というものをあまり意識しないようにしています。広告であれば、ブランドや商品のイメージに合わせて、トーン&マナーを臨機応変に対応していくべきだと考えています。しかしながら、過去に作ったものを改めて見直してみると、何となく共通点が見出せたりしてしまうことがあります。
やはり同じ人間が作るものなので仕方ないことですし、決して悪いことではないのですが、作るものが無意識のうちに自分の好きな表現・得意な表現というものに少し偏っているのかもしれません。自分の作風というものは、意識せずともにじみ出てしまうものなのです。
このような経験から考えると、自分の「面白さのツボ」を客観的に見つけるためには「過去に自分が作ったものの中から、面白いと思うものを改めて観察することで、その傾向を見出す」という方法が考えられます。
主な仕事に「Honda FIT」「KIRIN のどごし夢のドリーム」「bayfm SAZAE RADIO」など。国内・海外の広告賞受賞多数。筑波大学非常勤講師。
著書に「EXPERIENCE DESIGN」「IDEATION FACTORY」(どちらも共著/中国伝媒大学出版社)。
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