(本記事は、岩下 智の著書『面白い!のつくり方』CCCメディアハウスの中から一部を抜粋・編集しています)

面白さの基本「共感」

共感
(画像=Drawlab19/Shutterstock)

まず、面白さの「感じ方」で大きく方向性を分けてみましょう。面白さの感じ方として最も大きな部分を占めるのは、おそらく「共感」です。何か対象に対して、自分が共感できるポイントがあるときに、人は「面白い」と感じるものなのです。その面白さを直感的に理解することができたときの「うれしさ」や「喜び」、「納得感」というものが根源にあるのでしょう。

わかりやすい例に、いわゆる「あるある」というものがあります。「誰もが過去に経験したこと」や「共通認識としてみんなが知っていること」などから発想して、「こういうことってあるよね」と言われたときに「あー。わかるわかる」と感じる面白さです。

例えばそれは「子どもの頃、よく横断歩道の白い所だけ歩いたりしたよね」とか「ヨーグルトのフタの裏をペロッと舐めようと思って開けてみたら何も付いてなかったときの残念さったらないよね」といったような、誰もが身近に体験したことのある、日常の気づきがベースになっています。

これは、前に辞書で調べた「面白い」の意味でいうところの(4)「心にかなう」という状態です。「自分の思っていることを、相手もわかってくれている感覚が気持ちいい状態」なのではないかと考えられます。

以前、千葉のラジオ局「bayfm」の「SAZAE RADIO」という、新しいラジオのアイデアを考案したことがありました。これは、本物のサザエの貝殻を使った、耳に当てて聞くことができるラジオです。まさに、「貝殻を耳に当てると、海の音が聞こえるよね」という「あるある」の面白さを体現したようなプロダクトなのです。誰もが持っている「共感」をくすぐることで、思わず耳に当てて聞いてみたくなる気持ち(=興味)を引き出すことを、ねらったものでした。

SAZAE RADIO
(画像=面白い!のつくり方)

では、人々の「共感」を得るためには、どうしたらよいのでしょうか。それは、相手にとって「『あー、わかるわかる』と感じる気持ち」を作り出すということですから、単純に考えれば、相手の心にかなうことを深く想像して、理解すればいいのです。それはつまり、もっと平易な言葉で言うと「相手の気持ちになって考える」ということです。

一見簡単そうにみえますが、何かを表現するためには、これは非常に大切なことなのです。前述の通り、表現にはコミュニケーションの力が必要になります。必ずそれを見る対象者がいるわけですから、その人が見たときにどう感じるか、ということを考えないことには、「面白い」なんて思ってもらえるはずがありません。

特に、広告のようにたくさんの人に伝えなければならないコミュニケーションにおいては、ターゲットの「共感」を得るということが非常に有効な手段になります。

前にも書きましたが、テレビやWeb、雑誌などを見ている人たちは、その番組やサイト、記事そのものに興味があるのであって、そもそも広告自体には興味がないのです。むしろ、邪魔者のように感じていることもあるくらいです。そんな人に少しでも振り向いてもらうためには、まず「自分に関係のある情報であること」に気づいてもらう必要があります。

そのための手段としてキャッチコピーやビジュアルなどがあるわけですが、そこで発信されている情報が自分と全く関係がないと分かれば、人は瞬時にプイッと目を背けてしまいます。だからこそ、見る人にとって「共感」できるような点をうまく利用して興味を惹くこと、まさに「共感できる面白さ」が必要になるわけです。

ターゲットとなる人の「共感」をうまく刺激して「面白い!」と思わせることができると、その人はそれを別の人に伝えたくなります。自分と興味や趣味が近く「共感」できる友人・知人に「あれ面白いよ」と教えたくなるのが、人間というものです。特に、SNSが盛んに使われるようになった現代においては、「共感性の高い情報」はシェアされやすい傾向にあります。「共感」は、連鎖するのです。

このように、「共感」というものは非常に汎用性が高く、面白さの中でも大きな部分を占めるものだと考えられます。そして当然ですが、世の中に存在するものは「共感できるもの」と「共感できないもの」に大きく二分できます。では、「共感できないもの」というのは何でしょうか。また、そこに面白さはあるのでしょうか。

面白い!のつくり方
岩下 智(いわした・さとる)
1979年東京生まれ。筑波大学芸術専門学群視覚伝達デザイン専攻を卒業後、2002年電通に入社。以来、アートディレクターとしてグラフィック広告のみならず、TVCM、Webサイト、アプリ開発、プロダクトデザイン、サービスデザイン、ゲームデザインなど様々な仕事に携わりながら、自らイラストやマンガも描く。
主な仕事に「Honda FIT」「KIRIN のどごし夢のドリーム」「bayfm SAZAE RADIO」など。国内・海外の広告賞受賞多数。筑波大学非常勤講師。
著書に「EXPERIENCE DESIGN」「IDEATION FACTORY」(どちらも共著/中国伝媒大学出版社)。
https://s-iwashita.myportfolio.com

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