不動産運用において、「税務対策=タックスマネジメント」は最重要のパートと言っても過言ではありません。ということは、企業の不動産について考えるCRE戦略でもまた、同じことがいえます。
タックスマネジメントの中でも「減価償却」は、とても大切な役割を果たしています。減価償却は少し複雑でもあるので、会計の知識を持ち合わせていない人にとってはとっつきにくいのも事実です。しかし、この仕組みを理解していないと、タックスマネジメントにおいて大きく差が出てしまいます。
減価償却とは何か
そもそも減価償却とは、一体どういうものなのでしょうか。事業のために用いられる建物や建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、通常、時間の経過や使用によってその資産価値が減っていきます。この資産価値の減少分を費用分に計上する会計手続きを「減価償却」と呼び、これらの資産が「減価償却資産」です。減価償却資産は取得した年に全額を一度に経費として計上しません。
税務署で取り決められている資産の耐用年数に応じて、費用計上していきます。
減価償却のタックスメリット
減価償却のタックスメリットについて、実例を挙げて見ていきましょう。ある個人が収益不動産を取得し、毎年1,000万円の賃料収入(経費を引いた後の営業利益)があるケースを例として考えてみます。不動産所得の計算において毎年700万円の減価償却費が計上できるとすると、1,000万円から700万円を引いた300万円が課税所得です。
- 賃料収入1,000万円 − 減価償却費700万円 = 課税所得300万円
減価償却費は他の経費とは異なり、手元から出ていかない経費のため、実際のキャッシュの動きとは異なります。また課税所得が1,000万円と300万円とでは税負担に大きな差が出るため、タックスメリットとなるわけです。一方、営業利益500万円で減価償却費が700万円のケースでは、帳簿上200万円の赤字となります。
仮に、この個人に1,000万円の給与所得があった場合はどのようになるでしょうか。不動産所得は他の所得と損益通算できる総合課税のため、マイナス200万円と給与所得1,000万円を損円通算することで実質800万円の給与所得となり、結果的に所得税が圧縮されます。そのため、確定申告を行うことで税金の還付を受けることが可能です。
- 本業での給与所得1,000万円 −(不動産運用での営業利益500万円 − 減価償却費700万円)
= 課税所得800万円
不動産運用における減価償却
金額が大きくなりがちな不動産は、減価償却資産の代表ともいえます。金額が大きくなる分、減価償却費も大きくなる傾向です。ここでは、不動産における減価償却計算の3つのポイントを確認していきましょう。
<不動産における減価償却計算の3つのポイント>
1.不動産の取得価格のうち土地部分は減価償却に含まれない
前述したように、減価償却資産は年数の経過とともに価値が減少していくのが特徴です。その点、土地は不動産といっても時間の経過により価値が減少するわけではないため、減価償却資産には該当しません。特に中古物件の場合、減価償却資産の建物部分と減価償却資産ではない土地部分との比率において、土地部分が大きくなっているケースが多い傾向です。
この場合、思ったほど税務対策にならないことがあるため、取得時には充分に気をつけましょう。
2.耐用年数が細かく決められている
オフィスビルに多いRC造(鉄筋コンクリート造)やSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の場合、事務所用の耐用年数は50年と定められています。しかし同じ構造でも住宅用は47年、飲食店用で木造内装部分面積が30%を超えるものは34年(その他のものは41年)、工場用・倉庫用のものは38年です。用途によって耐用年数は異なるため注意しましょう。
減価償却費の計算において耐用年数は非常に重要な数字になるので、誤りのないよう調べることが必要です。また中古物件の場合は単純に法定耐用年数から築年数を引くのではなく、「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2」という計算式が使われます。これを「簡便法」といいますが、築年数が法定耐用年数を超えた場合には「法定耐用年数×0.2」となります。
・法定耐用年数が50年で、経過年数が10年の中古資産の場合
簡便法:(法定耐用年数50年 − 経過年数10年)+経過年数10年×0.2=42年
3.償却率は取得日が2007年4月1日以降とそれ以前で変わる
減価償却率は国税庁が発表している「減価償却資産の償却率表」に基づきます。気をつけるべき点は、法改正により取得日が2007年4月1日以降とそれ以前で変わるという点です。
また減価償却の償却率には、「定額法」と「定率法」の2種類があり、どちらを選択しても減価償却の総額は変わりません。
「定額法」では、毎年一定額なので計算が簡単、かつ将来の計画も立てやすいことがメリットといえます。なお、2020年5月現在は建物、建物の付属設備(エレベータやエスカレータなど)、構築物(駐車場のアスファルトなど)は定額法しか選択できないことになっています。
種類 | 内容 |
---|---|
定額法 | 毎年同額の減価償却費を計上 |
定率法 | 年が経過するにつれて減価償却費の額が減少していく計算方法 |
デッドクロスに注意
タックスメリットの大きい減価償却ですが、注意点もあります。特に注意したい点として挙げられるのは、「デッドクロス」です。デッドクロスとは、減価償却費よりも借入金の元本返済額が高くなる状態のことを指します。金融機関からの借り入れで収益不動産を購入した場合、元本返済額は経費計上できません。
その代わりに減価償却があるのですが、両者の金額は必ずしもイコールにはなりません。借入金の返済方法には「元利均等返済」がありますが、これは毎月元金と利息を含めた一定額を返済していく方法です。表面的な支払い額は一定額ですが、返済当初は利息部分が大半を占めており、返済が進むと利息部分が減り元本の割合が増えていくのが特徴になります。
利息部分は経費計上できますが元本部分はできないため、元利均等返済の場合は年数が経つと経費として計上できる額が減っていくのです。逆に元本返済額は増えていきます。一方の減価償却は、建物自体の耐用年数は長いのですが、建物附属設備部分についてはあまり耐用年数が長くありません。設備の種類によって耐用年数が異なり、例えば蓄電池電源の照明設備の耐用年数は6年、給排水設備の耐用年数は15年です。
そのため耐用年数が経過すると「減価償却費 < 借入金の元本返済額」というデッドクロス状態に陥ることになります。デッドクロスになると「帳簿上は黒字で税金(個人は所得税・住民税、法人は法人税)があるにもかかわらず、実際のキャッシュフローはマイナスになる」という状況になる可能性もあるでしょう。こうしたデッドクロスを避ける方法として、主に以下の3つの対策が考えられます。
<デッドクロスを避ける3つの対策>
1.毎月の返済額を下げる
借入期間を延ばして、「毎月の返済額を下げること」です。金融機関に返済スケジュールの見直しを申し込むわけですが、これは「リスケ(リスケジュール)」と呼ばれ金融機関は嫌がります。そのため、可能であれば他の金融機関への借り換えによって返済期間の延長を実現させましょう。
2.収益不動産を追加し新規で減価償却費を増やす
「収益不動産を追加購入して新しく減価償却費を追加する」という方法です。資金に余裕があるか、新たな借り入れが可能な場合は有効でしょう。
3.収益不動産を売却する
「所有している不動産を売却すること」です。不動産運用が黒字のうちに出口を選択することも、選択肢に入れておきましょう。
まとめ
不動産は金額が大きくなりがちなため、減価償却の仕組みをしっかりと押さえたうえで上手に活用すれば大きなタックスメリットを得ることが可能です。また、CRE(企業不動産)戦略の一つであるタックスマネジメントに強くなることも期待できます。企業活動が軌道に乗り毎年当期純利益を計上するようになるのであれば、不動産を活用したタックスマネジメントを検討する段階といえるでしょう。
それは、企業の内部留保を流動資産としてだけではなく、不動産という固定資産の形で保有することを意味します。不動産の取得と毎年の減価償却という会計処理によって、タックスメリットを得ることができるのです。
具体的には、自社の事業に使用する部分と賃貸事業に使用する部分を兼ね備えた自社ビルをおすすめします。収益不動産を活用した自社ビル運用です。これによって、本業で得た利益の一部を収益不動産に回して安定的な賃貸収入を得、さらなる内部留保構築を図ることが可能になります。
当然のことながら、賃貸オフィスから自社オフィスに移行することによって、賃料という固定費の支出をなくすこともできます。
将来的な資産性・収益性の高い東京の都心部に自社ビルを保有することは、CRE戦略における有効なタックスマネジメントといえるでしょう。ひとつの選択肢として充分に検討の余地があるのではないでしょうか。 (提供:自社ビルのススメ)
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