貯金,ダイエット,目標
(写真=Thinkstock/Getty Images)

人は、良いことと悪いことの区別はできるはずです。しかし、それでも程度の差こそあれ悪いことをしてしまうことがあります。実際に心理学の世界では、良いことをしたあとに「善悪の判断基準が甘くなってしまう」傾向があると言います。

そして、その傾向は多くの人が「お金持ち」になりたいと願っているにもかかわらず、お金持ちになれない一因にもなっているのです。それはどういうことでしょうか? 具体的に見ていきましょう。

頑張って節約したのに「自分へのご褒美」で失敗を

毎月の給料は全部使ってしまい、ぜんぜん貯金ができない……このままじゃダメだと思い、一念発起をして少しずつでも貯金をはじめようと決めました。

まずは、節約でムダな支出を徹底的に見直しました。

そこで1週間、自炊などをしてムダな食費をかけないように頑張ってみました。今週だけで4500円も節約することができました。この調子でいくと今月は本当に貯金ができそうです。

「こんなに頑張ったのだから、自分を誉めてあげたい」

目標をクリアしそうだし、週末は自分へのご褒美にちょっと奮発をして、焼き肉を食べに行こう。久しぶりに美味しい焼き肉を堪能しました。店員さんに会計をお願いすると「5000円になります」。あれっ? 4500円の節約成功で、自分へのご褒美の焼き肉代が5000円? 結局500円のマイナスになってしまいました。

ダイエットに失敗する人が陥りがちな罠

ダイエットでも同じです。1週間で体重を4キロ減らしました。すごいです。並大抵の努力では、1週間で4キロも減らすことはできません。

「こんなに頑張った自分を誉めてあげたい」

自分へのご褒美に、我慢していたケーキを食べよう……しかし、これが口火となって、体重が元に戻ってしまうケースも珍しくありません。

残念ながら、このようなケースでは「ケーキを食べる」ことへの罪悪感はありません。それどころか、頑張った自分に対して、誇らしいとさえ思ってしまうのです。

ここでは分かりやすい事例として、貯金とダイエットを取り上げました。しかし、私たちは日常生活で似たような「判断」を数多く繰り返しているのです。たとえば、午前中は仕事がはかどったから、午後は少しぐらい他のことをしても大丈夫だろう……そんな経験はありませんか?(※ちなみに、私はこのパターンによく陥ってしまいます)

自分を甘やかす心理的メカニズム

では、どうして、こんなことが起こるのでしょうか。誰かに騙されてしまったのでしょうか?

そうです。実は自分の中にいる「もう一人の甘い自分」に騙されているのです。これを心理学では、「モラル・ライセンシング」といいます。

スタンフォード大学のケリー・マクゴニガル教授は次のように説明をしています。「人は、なにか良いことをするといい気分になります。そうすると自分の衝動を信用しがちになり、その結果、多くの場合、悪いことをしても構わないと思ってしまうのです」

モラル・ライセンシングは、良いことをしたあとに「善悪の基準が甘くなってしまう」心理的メカニズムです。しかし、ときには何も良いことをしていないのに「善悪の基準が甘くなってしまう」ケースもあります。

たとえば、チャリティにお金を寄付したと「考えるだけ」で、自分は良いことをした気分になり「自分のために買い物をしたくなった」という実験結果もあります。

「もう一人の甘い自分」に騙されないために

では、このように甘やかしてしまう「もう一人の自分」が登場した場合、どうすれば良いのでしょうか? ケリー・マクゴニガル教授は、その対策方法として「原点に立ち返る」ことを勧めています。

「なぜ、良いことをしたのかを思い出せ」

マクゴニガル教授は、そうアドバイスします。本来の目標が「お金を貯める」ことであれば、その「お金を貯める」原点に立ち返ることで、「もう一人の甘い自分」に騙されることはなくなると言います。

ダイエットも同じで、ケーキを食べるのが目標ではありません。ダイエットの目標は「痩せる」ことです。原点を忘れてはいけません。私自身も午前中に原稿を書く仕事がはかどったとしても、午後にアニメを見ていたのでは、原稿はできません。最終的には原稿を完成させることが「目標」なのです(反省)。

「明日の自分」は今日とは違う?

ところで、「目標」の設定について、こんな勘違いをする人も少なくありません。

腹筋マシーンを購入した人が、1週間に5回以上トレーニングをするという目標を立てました。しかし、今週は1週間で3回しかできませんでした。そこで今週できなかった分を含めて、次の1週間は7回以上のトレーニングを「目標」に設定するケースです。

本人は実現可能な目標だと思っています。今週は無理だったけれども「来週はもっとできる」「明日はもっとできる」と考えがちです。先のことを楽観視する傾向があり、あとで取り返せるなどと思っている人に限ってそのような目標を設定する傾向があります。

しかし、それが勘違いだと言うことは、翌週に気づくことになります。

「明日から禁煙をはじめる、今日がタバコの吸い納めだ!」と思っている人は、明日は違うと思っているのです。しかし、だいたいの場合において「明日も同じ」なのです。

人間はそう簡単に変わることはできません。今日も、そして明日も同じ行動をするのです。

私は以前 「目先の欲求を辛抱したほうが、将来の成功につながる」 ことを証明したマシュマロの実験を紹介しましたが、マクゴニガル教授の「モラル・ライセンシング」もそれに通ずるものを示唆していると考えています。くれぐれも原点を忘れることのないよう、自分を甘やかしてくる「もう一人の自分」に騙されることのないようにしたいものです。

長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。

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