(本記事は、久慈直登の著書『ビジネスで使えるのは「友達の友達」』株式会社CCCメディアハウス2018年12月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

橋渡し役になるために

教育業界のオーナー社長へのドアノックに活用できる業界ニュース10選
(画像=Pressmaster/Shutterstock.com)

私たちの大半は、緊密につながったコミュニティやクラスタの中だけで行動する。これらのクラスタとクラスタの間には、隙間があることが多い。シカゴ大学の社会学者ロナルド・バートは、これらの社会的構造の隙間にある機会をネットワーク理論の概念として説明し、「ストラクチャル・ホール(構造的空隙)」と名づけた。

バートは当初、全員が知り合いで連絡を取り合っているグループを、クラスタとは見なさなかった。彼は「重複」という言葉でそのようなグループを適切に表している。全員が知り合いである地元の緊密なクラスタは、すべての関係が重複しており、誰と連絡を取っても、ほかの人と違う情報や機会はもたらされにくいのだ。

「同じ顔ぶれで過ごす時間が長いと、互いに知り合いになる」と、バートは書いている。

そして、地元のクラスタの中で全員が知り合いの場合、それぞれがアクセスできる情報も同じで、コネクションも重複する。このようなクラスタの中では、既に見てきたとおり、情報が早く伝わりやすく、コラボレーションが起こりやすいが、情報はクラスタの内部にとどまりがちで、外部から新しい情報はめったに入ってこない。

それに対し、構造的な隙間は「重複しない2つのつながりの間をとりもつ。隙間は緩衝材であり、電気回路の絶縁体のようなものだ」と、バートは書いている。クラスタ――重複するコネクション――の中にいる人々は、外にいる人にほとんど気がつかない、という意味ではない(後に説明するとおり、気がつかないことも多いのだが)。むしろ、ほかのグループに気がついていても、コネクションがないのだ。自分たちのグループ内の出来事ばかりに目が行って、自分たちとほかのグループの隙間を橋渡しすることの重要性に注意が向かない。その結果、新しい情報を得るルートがなく、自分たちの情報をグループの外部と共有するすべがない。

これについて、バートは次のように説明している。クラスタの間の隙間には有力な情報がたくさんあり、構造的空隙を埋める橋渡し役(ブローカー)は情報の流れをコントロールして、クラスタの中で待っている人々より大きな力を手にする。

「構造的な隙間を埋めるネットワークを持っている人は、多様な、そしてときに相反する情報にいち早くアクセスできて、よいアイデアを見つけるうえで競争的優位を得ることができる」

200年前のアメリカ大陸でも同じことが起きた。1人のネイティブ・アメリカンが、言語を書き表す文字をチェロキー・ネイションにもたらしたのだ。チェロキー族のセコイアは銀細工師で、周辺の白人入植者と頻繁に接していた。彼らとのつき合いの中で英語を学び、作品に自分の名前を署名できるようになった。クリーク族の内戦に米合衆国軍が介入したクリーク戦争(1813〜14年)には合衆国の陸軍兵として従軍した。

戦地に赴いた期間は短かったが、前線では、文字のやり取りによって兵士が指揮官と連絡を取り、愛する人と思いを交わすようすを目の当たりにした。そして、書き言葉によるコミュニケーションの恩恵をチェロキー族にも伝えようと決意した。

チェロキー族にとって、言葉を表記するという概念は別世界のもので、書き言葉を魔術だと見なす人もいた。セコイアは試行錯誤を繰り返し、ラテン文字のアルファベットやギリシャ文字、キリル文字、アラビア文字を真似しながら、数年をかけてチェロキー語の86個の音節すべてを表記する体系を作り上げた。

しかし、チェロキー・ネイションの人々は懐疑的で、セコイアは魔術を使ったとして裁判にかけられたという記録もある。彼は裁判でも、自分の文字表記法がいかに簡単かを披露した。数週間後には、多くのチェロキー族が彼のアルファベットを使い始めた。チェロキー・ネイション初の新聞「チェロキー・フェニックス」も刊行され、英語とチェロキー語が併記された。まさに2つのクラスタの橋渡し役だ。

テキサス州の著名な政治家サミュエル・ヒューストンはセコイアに、「あなたが発明したアルファベットは、すべてのチェロキー族が金の詰まった袋を2つずつ手に入れたくらいの価値がある」と語りかけたという。

セコイアのアルファベットは現在も使われており、オクラホマ州にあるチェロキー族の保留地のいたるところで見かける。保留地の道路標識は今もチェロキー語と英語が併記され、公立学校ではチェロキー語を教えている。文字を持たない文明において、たった1人の個人が独自の表記システムを発明したのは、人類史上でセコイアだけだ。セコイアが当時のアメリカ人コミュニティとチェロキー・ネイションの橋渡し役でなかったら、実現しなかっただろう。

現代では、クラスタの間の構造的空隙をつなぐ橋渡し役は、新しい言語やゲームを発明しなくても、より生産的でやりがいのあるキャリアを歩むことができる。

ロナルド・バートがある大手電機会社で行った実験は、グループ間の橋渡し役は周囲より報酬が高く、出世も早くて、革新的なアイデアを思いつく確率が高いことを示している。

実験では全社の供給チェーンを管理する部門のマネジャー673人に、管理体制を改善するアイデアを募った。さらに、普段から仕事の相談をしている人の名前と、その人とはどのくらい長いつき合いで、2人の関係はどのくらい深いかについても質問した。これらの答えをもとに、誰と誰がつながっているかや、ほかの人より多様なつき合いがある人は誰かなど、情報ネットワークの大まかな流れを図示した。

続いて供給チェーン管理の経験が長い2人の上級幹部が、マネジャーが出したアイデアを、実践したらどのくらいの価値を生むかという推測をもとに評価した。さらに、バートはこの会社と仕事をする機会が多かったので、マネジャーの給料やパフォーマンスの評価、昇進、現在のポストの在任期間のデータを利用することができた。これらのデータとネットワークの地図を照らし合わせると、橋渡し役――組織内のほかのクラスタやグループのメンバーと相談する人――は、そうではない人に比べて、業務改善について価値の高いアイデアを出す傾向が著しく高いことがわかった。

「社会構造の隙間の近くに立っている人は、優れたアイデアを思いつく可能性が高い」と、バートは書いている。

社内のネットワーク内の橋渡し役は、より高い報酬を手にし、パフォーマンスの評価も肯定的なものが多く、昇進しやすいこともわかった。彼らは多様な情報にアクセスすることができ、その情報を組み合わせて、会社だけでなく自分にとっても価値ある新しいアイデアを考える能力が高い。

バートの構造的空隙の理論は、さまざまな分野の研究者によって繰り返し立証されている。ただし、これらの研究はすべて、ある疑問をたくみに避けている――どうすれば橋渡し役になれるのだろうか?バートが初めて構造的空隙の理論を提唱してから20年後、ダートマス大学タック・ビジネススクールのアダム・クラインバウム教授が1つの答えを見つけたかもしれない。

クラインバウムの実験はある大手IT企業で行われた。バートの実験と同じように、従業員から協力者を募集して、彼らのつながりを調べた。ただし、本人につき合いのある相手の名前をたずねるのではなく、社内メールのデータを参照した。

実験の参加者は3万262人(企業名は公表されていないが、ネットワークの規模だけを見ても「大企業」だろう)。彼らの3カ月分のメールの履歴から、一斉送信メールと宛先にBCC(ブラインド・カーボン・コピー)があるものは除外して、従業員同士が意図的にやり取りしているものだけを分析の対象とし、社内のネットワーク地図を作成した。

これに参加者の性別や年齢など人口統計学データのほか、給与水準や過去77カ月のキャリアパス、職務権限、勤務地などの人事データを加えて完成させたネットワーク地図を見ると、意外な発見があった。橋渡し役になって構造的空隙のつながりを発展させることができる可能性が高い人を、クラインバウムは「組織の不適応者」と呼ぶ。彼らは、大半の従業員のようにゆっくり着実に出世の階段を昇ることは望んでおらず、さまざまな部署を渡り歩き、複数の職務権限を持つなど、変則的なキャリアパスをたどっていた。

「グループの中でキャリアの履歴が多様な人ほど、普通では考えられないような、分野をまたぐコミュニケーションに従事している」と、クラインバウムは書いている。

これらの発見は直感的に納得できる。組織内のさまざまなクラスタを行き来しながら活発な人間関係を維持している人は、組織図の1つのエリア内で順序よく昇進している人より、多様な人間関係を持っている可能性がはるかに高い。ただし、彼らの存在は、企業や業界でキャリアを積む一般的な方法とは大きく矛盾する。

私たちは、まじめに働いて、目の前の出世の階段を昇ることだけを考えろと教えられてきた。人にもそう言ってきた。しかし、構造的空隙の一連の研究を見ると、階段から階段へと飛び移るほうが戦略としては効果的で、組織内を水平移動し、ときには下にくだるほうが、長期的には期待できる。そのようなキャリアパスが、新しい多様なつき合いを発展させるのだ。

それに対し、従来のネットワーキングやキャリアパスの助言に従うと、新しいつながりができても重複が増えて、得られるものは少なくなるかもしれない。

個人のキャリアだけでなく組織としても、一定期間内に昇格できなければ退職を余儀なくされる「アップ・オア・アウト」を導入している企業は、知らないうちに自分の首を絞めているかもしれない。誰もが着実に昇進し続けることを優先すると、組織のイノベーションと生き残りに必要な構造的空隙はほとんど生まれない。そして、企業が存続の危機に立たされた際は、構造的空隙の新しい橋渡し役を作り出すことが、組織を救う唯一の戦略になるときもある。

米陸軍大将スタンリー・マクリスタルはバグダッドでその教訓を学んだ。彼が率いる特殊作戦部隊は、その広く深い隙間を埋めるすべがないように思えた。

ビジネスで使えるのは「友達の友達」
David Burkus(デビッド・バーカス)
オーラル・ロバーツ大学経営学部准教授。専門はリーダーシップ、 イ ノ ベ ー シ ョ ン。2015年、経営思想家ランキング 「Thinkers50」で、ビジネスの未来を形作る可能性が最も大きい新進思想リーダーの1人に選出。「Fortune 500」などさまざまな企業からリーダー向け講演の依頼を受けている。「ハーバード・ビジネス・レビュー」に定期的に寄稿しているほか、TEDトークは190万回以上見られている人気スピーカー。ポッドキャストでも受賞している。著書に『どうしてあの人はクリエイティブなのか? ― 創造性と革新性のある未来を手に入れるための本』(ビー・エヌ・エヌ新社、2014年)、『Under New Management』などがある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます