(本記事は、久慈直登の著書『ビジネスで使えるのは「友達の友達」』株式会社CCCメディアハウス2018年12月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

金持ちはより金持ちになり、人脈が広い人の人脈はさらに広くなる

裕福
(画像=Nick Starichenko/Shutterstock.com)

人脈の広さと新しく人と出会う確率の間に相関関係があると聞いて、驚く人はいないだろう。有利な立場にある人がさらに有利になることについて、世間では「金持ちはもっと金持ちに」という表現をよく使う。社会学ではこの現象を「マタイ効果」と呼んでいる。新約聖書の中の謎めいた一節が、その名の由来だ。マタイによる福音書13章で、キリストがこう言う。

「持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」

社会学者で初めて聖書のこの一節を名声、社会的地位、さらに資産に当てはめたのはロバート・K・マートン。しかし社会ネットワーク内の人間関係を研究し、マタイ効果が人脈の拡大にも当てはまることを発見したのはバラバシとアルバートだ。

バラバシとアルバートはネットワークにおけるべき乗則の出現を研究していた。そして、多くのネットワークにおいてノード(あるいは個人)が持つコネクションの数に大きなばらつきがあることに気づいた。しっかりとした平均値があり、そこから多少のずれがあるのではなく、コネクションの数はべき乗則に従っていた。上限にいるごく少数のノードが桁外れに多くのコネクションを持っていて、そこから数値はすとんと落ちるのだ。

続いて2人はべき乗則が出現する理由を解明しようとした。ネットワークの謎めいた性質は、なぜ多くのコネクションを持つ者(金持ち)にさらにコネクションを与えるのか。今では実感が湧かないが、ネットワーク・サイエンスにおけるべき乗則の発見はそれまでの常識を覆した。バラバシとアルバートより前の研究では、ネットワークモデルのほとんどはランダムに作られた、あるいは一見ランダムに作られたリンクを一定数のノードに割り当てており、ネットワークは最初から最後まで姿を変えなかった。

べき乗則の出現を説明するために、バラバシとアルバートはネットワーク・サイエンスの領域に2つの概念を導入した。

1つ目は「成長」。ネットワークモデルのほとんどは止まった時間の中で静止し、変化しない。だが現実世界のネットワーク、とりわけ人間のそれはたびたび形を変えて進化する。

最もよく見られる変化は、新しいメンバーの参加だ。新入りを迎えれば、ネットワークは拡大を余儀なくされる。そして新たなメンバーは、ネットワークのどこかでかならず誰かとつながることになる。

2つ目の概念を、2人は優先的選択と命名した。ネットワークが成長すると仮定し、新メンバーがどこかで誰かとつながらなければならないとする。2つあるノードのいずれかとつながるとしたら、新入りノードはコネクションの多いほうを選択する可能性が高い。2倍のコネクションを持つノードは、新入りノードとつながる可能性も2倍になる。ネットワークに参加した新メンバーは、優先的選択によりネットワークの隅にいる友人知人の少ない人よりも、顔の広い人と出会う確率が高くなる。

あなた自身の経験を振り返ってみるといい。スーパーコネクターはあなたに合いそうな人を大勢紹介してくれるだけでなく、ほかの人もまた、あなたをスーパーコネクターに引き合わせるだろう。新しいコミュニティに参加し、誰か1人に声をかけるとする。その人が既に顔の広い人とつき合いがあるならば、あなたの人脈も広がっていくだろう。バートはこれを現実社会の現象と見なし、現実に即したネットワークモデルを作りたいならば、かならず優先的選択を考慮に入れるべきだと主張した。

次に必要なのは裏づけだった。裏づけを得るため、2人は定評があり、なおかつよく知られたデータセットに着目した。「ケビン・ベーコン数」で表されるハリウッド俳優のネットワークだ。加えて科学論文の引用数、そして拡大を続ける巨大ネットワーク、ワールド・ワイド・ウェブも研究した。

一見、WWWは研究対象として奇異に思える。コンピューター同士のリンクからいったいどんな発見があるというのだ。だがバラバシとアルバートがこの研究を行ったのは90年代後半で、当時、ウェブサイト間のリンクの大半はまだ人間が手動で張っていた。そのため人間のネットワークの代用に使うことができたのだ。

いずれの調査も優先的選択の存在を裏づける結果となった。ハリウッドでも科学界でもウェブサイトでも、ネットワークに入った新しいノードは、コネクションの多いノードとつながる傾向にあった。その結果、最初は小さいコネクションの差は、ネットワークの拡大とともに広がった。

「優先的選択は『金持ちはより金持ちになる現象』を引き起こす。すでに多くのリンクを獲得しているノードが新入りを取り込んで、さらにけた外れに多くのリンクを獲得する」と、バラバシは説明した。

バラバシとアルバートが名門科学誌「サイエンス」で結果を発表してまもなく、ミシガン大学の物理学教授でサンタフェ研究所にも所属するマーク・ニューマンがスケールを拡大し、優先的選択の影響力を調査した。

2つの科学研究専門のデータベースから6年分の論文――分野は物理、生物、医学――の奥付を収集すると、奥付に記載された関係者は合計で170万人に上った。ニューマンはその170万人のデータから2つの大規模なネットワークモデルを構築した(片方は物理、もう一方は生物と医学)。

特に注目したのは科学者の過去の共同研究の数と共同研究者の数だった。案の定、そこにはべき乗則が出現した。共同研究者の数が多い科学者ほど、再び共同研究に取り組む傾向が強かった。コネクションの数をグラフ化したときにべき乗則が見られる要因として、最も可能性が高いのはこの優先的選択だった。言いかえるならば、ネットワークに新たに参加した科学者は既に広い人脈を持つ科学者に接触する可能性が高いため、顔の広い科学者の人脈はさらに拡大していくのだ

面白いことに、優先的選択が影響するのは人間関係だけではない。個人の選好(プリファランス)やテイスト、ものを選ぶ判断においても、同じような現象が見られるのだ。ダンカン・ワッツ、マシュー・サルガニック、ピーター・ドッズの共同研究が示したように、ネットワークに新たに参加した人々が好きなものを選択することで、人気のあるものはさらに大きな人気を博していく。

選好は時間と共にいかに形作られ増幅するのか。優先的選択のような現象は人気にも当てはまるのか。そうしたことを調査するために、ワッツら3人はある実験を企てた。音楽サイトを作成し、参加者をログインさせて、48の楽曲を聞いてもらった。気に入った曲は無料でダウンロードできるようになっていた。1万4000人以上がログインしたこのサイト、実は1つと見えて9つの「世界」に分かれていた。

第1のグループでは、楽曲とアーティストのリストが見られるようになっていた(ちなみに48曲は、すべて無名のバンドによる無名の曲だった)。残りの8グループでは楽曲とアーティスト名に加えて、ダウンロード数も表示された。こうしておけばダウンロード数の違いが曲の人気に影響を及ぼすのかどうか、実験終了まで時間をかけて観察することができる。曲の人気がクオリティのみで決まるならば、ダウンロード数が表示されない第1グループも、ダウンロード数が表示される8つのグループも理論的にはだいたい同じ結果になるはずだ。出来のいい曲は人気を博し、あまり出来のよくない曲は人気度も劣るはずだ。だが結果は違った。

どの曲もスタート時のダウンロード数はゼロだったが、後からログインしたユーザーは前からいるユーザーのダウンロードを参考にして、同じ曲をダウンロードする傾向を見せた。そのため最初は小さかったダウンロード数の差が、時間の経過と共にどんどん開いていった。

ただ、小さな差が起爆剤となって大きくブレイクする曲はグループによって異なった。実験終了時、あるグループでダウンロード数がトップだった曲は、別のグループでは48曲中14位。どのグループでも初期に最もダウンロードされた曲が、その後も人気を伸ばした。金持ちがさらに金持ちになったのだ。

新しい環境で顔の広い人物に紹介されるか、あるいは紹介を求めるのと同様に、私たちは周囲の影響を受けながら音楽や好きなものを選ぶ傾向にある。となると音楽や映画、書籍や有名人の人気もあやしくなる。評価はその作品のクオリティだけで決まるのではなく、あなたの周囲で何人の友達および友達の友達が鑑賞したかに左右されるらしい。

サルガニックたちは音楽サイトの実験で、そんな現象を鮮やかに浮かび上がらせた。自覚しているよりもずっと強く、私たちが優先的選択と社会の影響に動かされていることを、今度は歴史をひもときながら見てみよう。

ビジネスで使えるのは「友達の友達」
David Burkus(デビッド・バーカス)
オーラル・ロバーツ大学経営学部准教授。専門はリーダーシップ、 イ ノ ベ ー シ ョ ン。2015年、経営思想家ランキング 「Thinkers50」で、ビジネスの未来を形作る可能性が最も大きい新進思想リーダーの1人に選出。「Fortune 500」などさまざまな企業からリーダー向け講演の依頼を受けている。「ハーバード・ビジネス・レビュー」に定期的に寄稿しているほか、TEDトークは190万回以上見られている人気スピーカー。ポッドキャストでも受賞している。著書に『どうしてあの人はクリエイティブなのか? ― 創造性と革新性のある未来を手に入れるための本』(ビー・エヌ・エヌ新社、2014年)、『Under New Management』などがある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます