(本記事は、横山啓太郎氏の著書『健康をマネジメントする 人生100年時代、あなたの身体は「資産」である』CCCメディアハウスの中から一部を抜粋・編集しています)

日本人は健康意識を高めなければ幸せになれない

将来を考える
(画像=ESB Professional/Shutterstock.com)

国民皆保険制度に甘えている日本人

人生100年時代にあっては、日本人の健康意識の低さも不安要因です。

日本は、世界トップレベルの平均寿命をほこる長寿大国です。ところが、健康意識は非常に低いのです。

経済協力開発機構(OECD)2011年時点での各国の主観的健康度(自分を健康だと思うかどうか)を示す調査によると、日本はOECD加盟34ヵ国中で「最下位」となっています。

なぜ、日本人の健康意識は低いのでしょうか。その理由の一つとして、私は「国民皆保険制度」があると考えています。

国民皆保険は1961年にスタートしました。日本では、国民健康保険など公的医療保険への加入が義務づけられています。そのおかげで、病気やケガで入院をしたり、病院にかかったりしても医療費負担は安くすみます。この制度に甘えているからこそ、私たちは風邪だといっては気軽に病院にかかり、薬をもらったり注射や点滴を打ったりできるのです。

病気やケガで仕事を休んでも、皆保険のおかげで給料がゼロになるなんてこともありません。一定程度の額が保証され、なんとか生活していくことができます。

日本と対照的なのがアメリカです。アメリカでは国も会社も健康を守ってはくれません。アメリカには国民皆保険はありませんから、病院にかかると日本とはケタ違いのお金がかかります。仕事を休めば、それは収入減に直結します。そのせいもあって、健康に気をつかっている人が日本人より多いと考えられるのです。

成果主義が導入されているため、仕事で成果を上げられなければ退職を余儀なくされる、厳しい環境に身をおいている人もいます。肥満体や喫煙者は自己管理ができない人とみなされ、職場での評価が下がります。とくにエリート層ではその傾向が顕著です。できるビジネスパーソンは健康管理ができてあたりまえ。スポーツジムに通ったり、食事に気をつけたりしてせっせと健康維持につとめています。

自分軸で生きる癖をつける

医療の現場にいると、他人になにかを決めてもらうことに抵抗がないのも、日本人の健康意識の低さに関係しているのではないかと思うことがあります。

私は腎臓専門医として、透析患者さんを診察する機会が数多くあります。

透析の開始年齢でもっとも多いのは、75歳です。ずいぶん高齢だと思いませんか?日本では、いまや透析患者の3人に1人が75歳以上です。みなさんの家族や知人の中にも透析患者さんがいることでしょう。これは、私たちの寿命が延び、人生100年時代に向かっているからこそ、起こっている現象です。

人生70年時代は、老化が原因で腎不全におちいるほど長生きすることはまれでした。前にも述べたように、急性疾患によって多くの人は人生を終えていたからです。

いまは急性疾患になっても命は助かるようになりました。しかし、腎臓をはじめとする臓器の機能は、加齢によって確実に老化していきます。軽い生活習慣病も、生活習慣を改善しなければ長生きと老化にともなって悪化していきます。長生きになったぶん、高齢になってから透析をはじめなければならない人が増えているわけです。

しかし、80歳や90歳の方に「透析をはじめてもいいですか?」と聞いても、高齢のために自分自身で判断できないことが多々あります。その結果、透析するか否かの判断をゆだねられるのは誰でしょうか?そう、家族です。

透析は週3回するのがスタンダードとされています。ただ、患者さんが高齢だと、家族が透析のための通院や自宅での透析をサポートしなければなりません。家族は患者さんにかかりきりになり、家事や仕事に使う時間を取れなくなる事態が起こります。生活が破綻してしまうのです。

「週1回だけなら透析をしたい」と本人や家族が十分考えて主体的に判断できればいいでしょう。ところが、うやむやな気持ちで「透析をしない」と家族が申し出た場合、あとになって高齢の親を姥捨て山においてきたかのような自責と後悔の念にさいなまれるのです。苦渋の決断で透析の回数を減らしたり、透析にノーを示したとしても、離れて暮らす親族から「なんてかわいそうなことを!」という無責任な言葉を投げつけられると、やはり後悔してしまうのです。

このとき、世間の目や外野のヤジに左右されず、透析するか否かを決断するのに必要なことがあります。それは「自分の生き方」を決めておくことです。つまり、「自分がなにを優先して生きるのか」をはっきりさせておくのです。

私たちは身のまわりのすべてのことに全力を傾けられるわけではありません。日々こなしていかなければならない無数のタスクに対し、限りある肉体的・経済的リソースをどう振り分けていくか。優先順位を考えなければパンクしてしまうでしょう。

年老いた親の件が片づいても、自身が透析をするか否かを判断する日がいつかやってくるかもしれません。そのときに他人の基準や意見にふりまわされていては、私たちは自分の人生を生きることができませんし、幸せに生きることもできないのです。

健康マネジメントにおいても優先順位を考えてみてください。私たちは将来、どのような健康状態で、どんなふうに生きたいと考えるでしょうか?

そのためには他人軸ではなく、自分軸で本当に優先すべきことがなにかを考える癖をいまからつけておくべきです。将来「どうありたいか」をふまえた健康マネジメントで、私たちは不確実な人生を主体的に生きるべきなのです。

健康をマネジメントする 人生100年時代、あなたの身体は「資産」である
横山啓太郎(よこやま・けいたろう)
東京慈恵会医科大学教授・行動変容外来診療医長。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。2016年、大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長に。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医。

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