(本記事は、横山啓太郎氏の著書『健康をマネジメントする 人生100年時代、あなたの身体は「資産」である』CCCメディアハウスの中から一部を抜粋・編集しています)

「緊急でないが重要なこと」が未来を変える

習慣
(画像=Ana D/Shutterstock.com)

『7つの習慣』が健康マネジメントの助けに

ここまで、主体的な健康マネジメントの必要性について述べてきました。すぐにでも健康維持のための行動をはじめたい方もいるでしょう。しかし、ちょっと待ってください。

あたりまえのことをいいますが、人生100年はとても長い期間です。どれだけ体にいいことをするか、と上をめざすより、自分にちょうどいいことを無理なく、できるだけ長くつづけていくほうが大切です。

私たちの時間には限りがあります。その限りある時間のなかで、なにを優先して取り組むべきか。行動の優先順位を見きわめ、優先順位の高い行動により多くの時間をさくことが必要となります。

そこで読んでいただきたいのが、スティーブン・R・コヴィー博士による世界的ベストセラー『7つの習慣』(『完訳7つの習慣人格主義の回復』キングベアー出版)です。「7つの習慣」を実践しつづけることによって、人間は連続した成長を遂げることができるという内容で、ビジネスパーソンの方なら一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

じつはそのなかの「第3の習慣最優先事項を優先する」が、人生100年時代の健康マネジメントには不可欠なのです。まだ読んでいない人には、まずは「第3の習慣」の部分だけでも目を通してみることをおすすめします。

コヴィー博士は、人間活動は4つの領域に分類されるといいます。

意識しないと他人軸で生きてしまいがち

私たちの活動は「重要度」と「緊急度」で分けることができます。緊急度は「すぐに対応を迫られるかどうか」、重要度は「人生の目的や価値観にとって重要かどうか」を示しています。

私もそうなのですが、多くの人は第Ⅰ領域「緊急で重要なこと」や第Ⅲ領域「緊急で重要でないこと」に日々追われ、振り回されています。期限の決まっている仕事、差し迫った問題、危機への対応は第Ⅰ領域、日々の電話やメール、会議、報告書作成、無意味と思える付き合いなどは第Ⅲ領域といえます。

「緊急で重要」なのだから、一見、第Ⅰ領域がもっともリソースをさくべき事柄に思えるかもしれません。第Ⅲ領域も、重要度でみると低いかもしれませんが、緊急度は高いから、こちらにもリソースをさいたほうがよさそうだ──。そう思い、人生が第Ⅰ領域と第Ⅲ領域に支配される人は多いでしょう。

しかし、第Ⅰ領域や第Ⅲ領域だけに対応するのは、他人軸で生きることなのです。第Ⅰ領域と第Ⅲ領域は人の都合に振り回される事柄のため、時間のコントロールができません。つねに忙しい状態がつづきます。他人軸で生きていると、私たちは肉体的にもメンタル的にも疲弊していきます。

そのため、せっかくの残ったリソースを、まるで現実逃避するように緊急度も重要度もいちばん低い第Ⅳ領域「緊急でも重要でもないこと」についやしてしまうのです。悲しいことですが、これが私たち人間の性です。

健康マネジメントは、まさに「緊急でないが重要なこと」

では、人生100年時代の健康マネジメントは、この時間管理のマトリクスのどの領域に相当するでしょうか。

第Ⅳ領域ではないはずですが、第Ⅰ領域でもありません。いますぐやらなければ死にいたるとか、明日からでも寝たきりになるという緊急の課題ではないからです。

正解は、第Ⅱ領域「緊急でないが重要なこと」です。

第Ⅱ領域は、目の前の必要性にせまられている事柄ではありませんが、中長期的な視点をもってつづけなければ成果が出ない類の事柄です。

コヴィー博士は第Ⅱ領域「緊急でないが重要なこと」の重要性を、こう説明しています。

「第Ⅱ領域は、効果的なパーソナル・マネジメントの鍵を握る領域である。この領域に入るのは、緊急ではないが重要な活動である。人間関係を育てる、自分のミッション・ステートメントを書く、長期的な計画を立てる、身体を鍛える、予防メンテナンスを怠らない、準備する。こうした活動はやらなければいけないとはわかっていても、緊急ではないから、ついつい後回しにしてしまうことばかりだ。効果的な生き方のできる人は、これらの活動に時間をかけているのである」

つまり、自分自身の人生を充実させ、成功させるには、第Ⅱ領域「緊急でないが重要なこと」にリソースをさきつづけなければならないのです。

「第Ⅱ領域に使える時間をつくるには、第Ⅲ領域と第Ⅳ領域の時間を削るしかない」ともコヴィー博士はいいます。まずは第Ⅲ・Ⅳ領域を削って、第Ⅱ領域「緊急でないが重要なこと」に集中できる時間をつくる。それにともない、「第Ⅰ領域は徐々に小さくなっていく」ともいっています。

健康マネジメントは、まさに「緊急でないが重要なこと」であり、かつ誰にでもあてはまるものだというのが私の考えです。いままさに体に不調を感じているわけではないけれども、将来のことを考えるなら、いまから行動し、それを継続しなければならないのです。

「高僧」と同じ方向性をめざす

この「緊急でないが重要なこと」を体現できている人がいます。それは高名なお坊さんです。

檀家ばかりでなく、社会から広く尊敬を集めている、いわゆる高僧の方々には痩せた人が多いと思いませんか。私の知るかぎり、太った方はいません。それは、どんなにつらく厳しい修行にも価値を見出し、それに耐えうる肉体と精神を長い時間をかけてつくり上げてきたプロセスの結果が、体つきにあらわれているからです。

やらなくとも誰もとがめない修行にみずから飛び込み、そこに長い年月をついやす。それはまさに、「緊急でないが重要なこと」の実践にほかなりません。

私たちはもちろん、高僧の方々と同じレベルのストイックさをもって健康マネジメントをする必要はありません。それでは長続きしないことは必定です。

ただ、健康マネジメントという「緊急でないが重要なこと」を長期間つづけるという方向性においては、高僧の方々と同じなのです。

私たちは、自分の体や健康に関しては、つい後回しにしてしまいがちです。なぜなら、私たちには日々やるべきことがたくさんあるからです。やってもやっても終わらない仕事、家事、育児……。これらに比べると、健康マネジメントは緊急性のある、差しせまった課題ではないと思われてもしかたのない面があります。

ただ、これからは人生が100年になるのです。自分に厳しい生き方を100年貫けるほど、私たちの肉体や精神は強靭ではありません。

体は100年使いつづける必要があります。古くなったからと車を新車に買い換えるように、老化したからといって体を換えることはできないのです。私たちは人生の終わりをむかえるその日まで、自分の体とつきあっていかなければならないのです。

「ちょっと血圧は高めだけど、病院に行けと言われたわけじゃないから」
「残業つづきで疲れているけど、健康診断でも問題なかったし、このままいけるだろう」

このように特別の不調を感じていないいまだからこそ、健康マネジメントをはじめる価値があります。

いまはよくても、仕事をリタイアした後に大きく体調を崩しては、なんのために長年働きつづけてきたかわかりません。体の不調をかかえ、リタイア後の楽しみも味わえない状態で、30年、40年もの長い時間を生きたくはないでしょう。

そう考えるとやはり、私たちは病気になる前の段階、つまり未病段階のいまから習慣を変えていく必要があります。それが、人生100年時代の健康マネジメントなのです。

100年もあればいろいろなことができる

「長生きなんてしたくない」と思う人は、長生き自体を人生の目的のようにとらえていないでしょうか?あるいは、シワだらけで背中の曲がった、いかにも「老人然」とした人物を思い浮かべ、あんなふうになってまで生きたくない、と思っているのかもしれません。

ただ、くりかえしになりますが、いまの70歳と昔の70歳はちがうのです。平均してみれば、見た目は若々しく、健康状態もはるかに上をいきます。ピンピンコロリでいえば、「ピンピン」の状態を長く保ちやすい時代になっているのはたしかです。

長生きそのものは、人生を味わいつくすための「手段」でしかありません。「長生き=老いた体にむち打ちながらダラダラと生きる」ではなく、100年もの長い時間、自分の体をつかってどう生きるのか、なにをしたいのかを私たちは考えるべきです。

人生100年時代に主体的に向き合う方法としては、老化を抑え、病気になる前から生活習慣にアプローチする健康マネジメントがひじょうに有効です。

健康な体と100年もの時間があれば、私たちはいろいろなことにチャレンジできると思いませんか?そう考えると、人生100年時代はけっして憂鬱な時代などではありません。むしろ幸せな時代だ。そう考えることができると思うのですが、いかがでしょうか。

健康をマネジメントする 人生100年時代、あなたの身体は「資産」である
横山啓太郎(よこやま・けいたろう)
東京慈恵会医科大学教授・行動変容外来診療医長。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。2016年、大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長に。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医。

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