歴史上類を見ない高齢化社会の到来で、中小企業を中心に事業承継問題が話題にあがることが増えてきました。しかし、「事業継承」と「事業承継」を混同しているような言説も見られるようです。今回は、しばしば混乱をきたす「事業継承」と「事業承継」の違いを見ていきましょう。

「継承」と「承継」の意味

事業承継
(画像=andrey-popov/stock.adobe.com)

まずは、「継承」と「承継」の意味について、それぞれ辞書で見てみましょう。

小学館の『大辞泉』によると、「継承」は「前代の人の身分・仕事・財産などを受け継ぐこと。」とあり、「承継」は「前の代からのものを受け継ぐこと。」とあります。

少し分かりにくいですが、「承継」において後継者が受け継ぐべきものは、身分や仕事、財産といった形あるもの、社会的に価値のあるもの以外に、理念や伝統といった精神的なものも含まれます。

このように見ると、「継承」と「承継」の違いが理解できるのではないでしょうか。

「事業承継」は事務作業だけではない

話を「事業継承」と「事業承継」に戻します。「事業承継」とは、後継者に社長の地位や自社株、事業資産を引き継ぐだけではありません。事業を展開する中で培われた社風や伝統、創業の精神なども含めて、次代に受け継いでいくステップなのです。

代替わりの事務的な作業だけならば、法に則り、専門家の力を借りれば、時間がかかっても成し遂げることは可能です。しかし、経営精神といった“目に見えないもの”は外部の人間から伝授するのは難しいでしょう。ここが「後継者選びは難しい」と言われる所以です。

後継者決定から実際に引き継ぐまでは数年がかり

経済産業省の「中小企業白書2019」によると、後継者が決定してから実際に事業を引き継ぐまでにかかった期間は1年以上3年未満が27.9%、3年以上5年未満が8.5%、5年以上が8.5%と、半数近く(44.9%)のケースでは1年以上の期間をかけて引き継ぎを行っていることが分かります。特に親族内承継に限ると1年以上かけて引き継ぎする割合が51.9%と半数を超え、5年以上の割合は12.8%と増加しています。

また、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」によると、全国の経営者の平均年齢は 59 歳 9 ヵ月と過去にない水準まで高齢化が進んでおり、早急な対応が必要です。しかし、実際には70 代、80 代の経営者ですら、後継者問題に着手している企業は半数に満たないと言います。

親族による承継、より難しく

かつては、同族経営の中小企業を中心に、実子や親族から後継者を選ぶのが一般的でした。しかし、少子化や人口減による国内マーケットの縮小で事業成長が難しく、実子に継がせるのがしのびないという経営者もいます。中小企業の事業承継には大きく分けて「親族による承継」「従業員による承継」「M&A」の3種類があり、親族による承継は年々減りつつあります。

日本政策金融公庫総合研究所が2020年1月に発表した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」によると、回答した4,759社のうち52.6%が廃業予定企業でした。その理由を問うと「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」が43.2%、次いで「事業に将来性がない」(24.4%)、さらに、「子供がいない」「子供に継ぐ意志がない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を理由とした回答が29.0%と、3割近くに達しています。

なお、この調査では廃業を予定している企業であっても、約 3 割が「同業他社よりも良い業績を上げている」と回答している点は注目です。今後10年の業績についても、約4割の経営者が「現状維持は可能」と見通しており、廃業理由は業績の不振によるものだけではなさそうです。

憲法で保証された職業選択の自由をより尊重する考え方が広まり、実子や親族が必ずしも家業の承継を強制される時代ではなくなっていること。また、従業員による承継を目指そうとしても、終身雇用制の崩壊などで、事業を承継するほどの責任感ある従業員が育ちにくいという風潮があることなどが影響しているのではないでしょうか。

M&Aによる第三者への「継承」も視野に

ここまで見てきたように、事業承継は決して簡単な作業ではありません。ただ、親族による承継や従業員による承継が難しくなっている昨今、精神性よりも事業継続や従業員の生活保障といった現実的な観点を優先するのであれば、M&Aによる第三者への「継承」も視野に入れて、後継者対策を検討するべきではないでしょうか。(提供:自社ビルのススメ


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