(本記事は、永井 俊輔の著書『市場を変えろ 既存産業で奇跡を起こす経営戦略』かんき出版の中から一部を抜粋・編集しています)

既存の何かの組み合わせがまったく新しい商品を生み出す

アイデア
(画像=Witthaya lOvE/Shutterstock.com)

イノベーションを起こし、LMIの図の右上を目指す。

図1
(画像=市場を変えろ 既存産業で奇跡を起こす経営戦略)

イノベーションの具体的なヒントは追って紹介するとして、まずはイノベーションが、まったく新しいものをゼロから作り出すことではなく、すでに存在している何かと何かを効果的に組み合わせることであるという点を押さえておきたい。

この原理原則は、いまから100年ほど前にシュンペーターという経済学者が定義したものだ。

イノベーションは、例えば、商品、生産方法、仕入先、売り先、組織形態、市場といったものの新たな結合(=新結合、ニューコンビネーション)から生まれる。

例えば、クレストのエサシーは、看板とカメラの組み合わせである。どちらもすでに市場にあるものだが、この二つを組み合わせることにより、イノベーションを起こすプロダクトになった。

エサシーを機能面から見ると、看板が持つ、見せる、伝えるといった機能と、カメラによる分析の機能の組み合わせともいえる。いずれにしても、ゼロから作ったものではなく、既存の何かの結合である。それがイノベーションを起こし、新たな市場を作り出すのだ。

では、何と何を組み合わせればいいのだろうか。

目についたものをやみくもに組み合わせても非効率だし、組み合わせは無限にある。

そこでポイントになるのが、ざっくりでいいので、組み合わせのパターンをあらかじめ整理し ておくことだ。

Iの世界は二つの視点で整理することができる。 一つは、イノベーションによってどんな「価値(バリュー)」が生まれたかという視点。 もう一つは、どんな「手段」によってイノベーションが生まれたかという視点だ。

本章では、後者に挙げたイノベーションの「手段」を軸にして、現時点で私が面白いと思っているテーマを紹介していく。 前半はテクノロジーを活用する商品・サービスのイノベーション、後半はビジネスモデルのイノベーションに分けてみたので、自分の商品やビジネスモデルと組み合わせるとどんなことが起きるかイメージを膨らませながら読み進めてみてほしい。

また、前者に挙げた価値については章の最後にまとめた。これから述べていくさまざまな手段 についても、最後に一覧にしてまとめてある。

イノベーションのアイデアはたくさん思いつくはずなので「価値」と「手段」を軸にして体系化しながら、整理したり、検証していく際に役立ててほしい。

では、さっそく組み合わせ候補となるテーマ案を見ていくことにしよう。

「Iの世界」の構想アイデア①カメラ・画像認識技術― 効果を測り、数値化する

画像認識
(画像=metamorworks/Shutterstock)

まずは商品やサービスのイノベーションを考えてみたい。

既存の商品やサービスと新たな何かの組み合わせは、テクノロジーや技術トレンドとの組み合わせが効果をイメージしやすいと思う。

基本的な考え方は、「既存の商品やサービスにITなどのテクノロジーを組み合わせたらどうなるか」ということだ。

テクノロジー関連では、ここ数年AI(人工知能)の注目度が高く、市場でもAI関連銘柄が高いPERをつけている。

実はAIは過去にも何度か注目されたことがあり、現在のブームは第三次AIブームとされている。AIは魔法の杖ではなく、何でもできるわけではない。とはいえ、AI関連の会社が増え、AIを活用した参考事例も増えつつあるため、自分が扱う商品やサービスなどと組み合わせる環境は整っているといえるだろう。

AIの領域は広く、画像認識、音声認識、言語認識、機械などの自動制御などさまざまな機能がある。

ここではわかりやすい例として、画像認識のAIを考えてみたい。画像認識は、例えばカメラを使って人の顔を認識したりする機能である。

カメラや画像認識技術との組み合わせは、自社商品にカメラをつけたらどうなるか考えてみればいいだろう。

クレストのエサシーも、看板やショーウインドウディスプレイなどのリアル世界の広告にカメラを付けたらどうなるだろうという発想からスタートしている。

カメラを付ければ看板の前を通る人などを分析できる。通った人数、男女比、人通りが多い時間帯がわかる。立ち止まった人、見た人、入店した人が何人いたかもわかる。

このような測定機能を自社の商品、店舗、什器などに付加したらどうなるだろうか。何か有益な情報が取れそうであれば、もしかしたらそこにイノベーションのタネがあるかもしれない。

「もしかしたら」と感じる場合は、具体的な使用例を想像してみる。

発想の発端はシンプルでいい。

カメラがあれば、看板の前を通った人数がわかる。看板を見た人数も、看板を見て入店した人数もわかる。たったそれだけのデータでも、看板の良し悪しを測る基準が作れる。看板の価値が変わり、看板のあり方を変えることができる。同じ仕組みをショーウインドウディスプレイやポスターに応用することもできるし、データを活用して店舗の売り上げを増やしたり、看板を掲出する企業から視認量や入店率に応じて課金するといった新たなビジネスモデルを作ることも可能だ。

まずは思いつきレベルでいいので、どんなデータが取れるか考えてみる。

そのデータを使って何ができそうか考えていくうちに、想像が広がり、画期的なアイデアに昇華していくことも多いのだ。

「Iの世界」の構想アイデア②IoTとセンサー―どんなデータが取れるか想像する

既存の商品やサービスがアナログである場合は、もっとも単純な発想として、インターネットとの組み合わせを考えてみることもできる。

さて、手元にある商品がインターネットにつながったらどうなるだろうか。

例えば、テレビはこれまでテレビの電波としかつながっていなかったが、インターネットにつながったことによって、テレビが一方的に番組を発信するだけでなく、見ている人が番組に参加できるようになった。

似たような発想で手持ちの商品をインターネットにつなげたときのことを考えてみる。

身の周りにはネット接続されていないものがたくさんある。身の周りのものでは、洋服、メガネ、靴などはネットにつながっていないし、生活周りでは、シャワー、トイレ、窓、食器などもネットとつながっていない。

そういう商品をインターネットにつなげるのがIoTであり、ネット未接続の商品を作ったり売ったりしているレガシー企業は、もしかしたらIoTとの組み合わせでイノベーションを起こせるかもしれない。

とくにIoTは製造業や物流業と相性が良いといわれるため、この分野のレガシー企業にはぜひ組み合わせを生み出してほしい。

物流業界では、商品にセンサー内蔵のタグをつけて、位置などを管理している例がある。小売業では、カゴに入れた商品のタグを一気に読み取り、ピッピッとスキャンするレジ業務を簡略化しているケースもある。

センサーで取得するデータの活用方法については、コマツの建機などが参考になるだろう。

コマツの建機には複数のセンサーが搭載されているため、世界のどこにあっても建機のコンディションがわかり、不具合があるときなどにはアラートを送ることができる。当然、位置情報もわかるため、盗まれたとしてもすぐにどこにあるかわかる。遠隔操作でエンジンを止めることもできるという。

組み合わせるものの例としては、歯ブラシとIoTの組み合わせも面白い。歯ブラシがブラッシングする部分や力の入れ具合を感知し、ユーザーに上手な磨き方のアドバイスなどをするサービスである。IoTというよりはAIの画像認識に近いかもしれないが、歯磨き時に口内の写真を撮り、スマホで磨き具合を確認できるものなどもある。

IoTは、簡単にいえばものとインターネットを結び、センサー経由でデータを取る仕組みである。センサーを組み込むものはいろいろ考えられるだろう。

例えば、ペンにセンサーを組み込めば、ペンの動きで筆跡がわかるようになる。文字認識のAIと組み合わせれば、手書きした文字がそのままPCなどに入力できるようになるかもしれない。畳にセンサーを組み込んだらどうなるだろうか。畳に座ったり寝たりする人の重さや体温を測ったり、運動量を測ることができるかもしれない。

このような技術やツールを開発するのはIT企業かもしれないが、発想そのものは実際にペンや畳を作っているレガシー企業のほうが得意なのではないだろうか。

いまはあらゆることをキーボードで入力するのが当たり前だが、ペン業界がIoTペンというイノベーションを起こせば、キーボードが不要になるかもしれない。

身近なところでは、オフィスの入退室に使うICタグも、スタッフの入退室データを取るという点から見ると「鍵のIoT」といえるのではないか。

これも、現実にはICカードやカードキーのベンチャー企業が市場シェアを取っているが、鍵業界のレガシー企業がイノベーションを先導できた可能性は十分にあったはずだ。

この商品をインターネットにつなげたらどんなデータが取れるだろうか。そんなことを考えてみると、IoT活用の想像も広がる。世の中が便利になり、ユーザーが喜ぶ未来が想像できれば、そのアイデアがイノベーションになり、ヒットする可能性も高い。

市場を変えろ 既存産業で奇跡を起こす経営戦略
永井 俊輔(ながい・しゅんすけ)
クレストホールディングス株式会社代表取締役社長。1986年群馬県生まれ。早稲田大学卒。株式会社ジャフコでM&Aやバイアウトに携わった後、父親が経営する株式会社クレストに入社。CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して4年間で売り上げを2倍に拡大し、同社をサイン&ディスプレイ業界の大手企業に成長させる。
2016年に代表取締役社長に就任。ショーウィンドウやディスプレイをウェブサイト同様に正しく効果検証するリアル店舗解析ツール「エサシー」を開発するなど、リアル店舗とデータサイエンスの融合を実現。成熟産業にITやテクノロジーを組み合わせ、新たな価値を生み出すLMI(レガシーマーケット・イノベーション)の普及に尽力。
2019年9月にホールディングス化に伴い、クレストホールディングスの代表取締役社長に就任。複数の事業会社を束ねるレガシーマーケット・イノベーションの企業群を構想している。

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