日本通運(以下、日通)は先日、2021年に東京・神田に自社ビルを建設し、本社を移転することを発表しました。新社屋の敷地面積は7,303.32平方メートル(2,209.25坪)。
都内複数オフィスに散らばっていた本社機能を集約し、ワンストップ化を図るそうです。一方で、汐留にある旧本社は賃貸し、CRE戦略を強化するといいます。
「陸海空のワンストップ体制」をオフィス内で構築
日通が現在本社を構えるのは、汐留の「シオサイト」と呼ばれる商業・オフィスエリア。同社の発祥にもゆかりの深い、日本最古の鉄道駅である新橋駅に隣接する地区です。
日通は2015年5月、53年ぶりとなる大規模な組織改正を行い、陸海空それぞれの事業領域でのワンストップ体制を構築しました。真のグローバルロジスティック企業となる狙いがあります。
神田に建設中の新本社社屋には、現在の汐留本社ビルに入居している本社の各部門や支店、グループ各社に加えて、新たに首都圏支店、海運事業支店、航空事業支店も移転する予定です。まさに「陸海空のワンストップ体制」をひとつのオフィス内で構築する計画といえるでしょう。
東日本大震災以降、BCP(事業存続計画)が意識される中、災害時でも事業を滞りなく遂行できるよう、拠点の分散化が図られるようになりました。ただ、コスト抑制を図る動きも目立ちつつあります。
本社機能の集約で得られるのは、コスト抑制効果だけではありません。異なるバックグラウンドや職能を持つ従業員を一カ所に集約することで、事業のワンストップ化や従業員間でのコミュニケーション活性化、事業部同士のコラボレーションを期待する声もあるのです。こうしたオフィスではしばしば、部署間の交流を図りやすいように執務スペースをオープンにし、柔軟な働き方を同時に実現するのも近年よくみられる事例です。そのためには、大規模なオフィススペースの改装が必要となるため、日通のように自社ビル建設に踏み切る企業もあります。
日通のように、幅広い事業領域や数多くのグループ会社を擁する大企業では特に、グローバルビジネスに打ち勝っていくため、縦割りの組織ごとではなく、全社一致体制での事業構築が求められるでしょう。本社の集約は、そうした動きに向けた第一歩といえます。
日通、「グループCREマネジメント部」新設で不動産事業を100億規模に
また、日通は現在の汐留本社ビルのみならず、首都圏支店が入居している中央区のNEX人形町ビル、航空事業支店が入居している港区のピアシティ芝浦ビルの各自社ビルを賃貸ビルとして運用し、収益向上を図ることも表明しました。
日通は本社移転を発表したのと同時期に、管理本部に「グループCREマネジメント部」を新設しています。
同社はリリースで、「近年の企業経営においては、全社的な経営戦略の視点に立って、企業価値最大化を目指し、その他の経営資源とともに、企業不動産を、最適かつ効率的に運用するためのCRE(Corporate Real Estate)戦略の重要性が高まっています」と指摘。
将来的には不動産事業を 100 億円規模の収益事業に拡大させ、そこで得た利益をAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった最先端技術の活用をはじめ、コア事業である物流業への積極的な投資に振り向けていく考えだといいます。その旗振り役となるのが、今回新設された「グループCREマネジメント部」であり、グループ全体のCRE戦略を策定・執行し、日通グループが所有する不動産を最適かつ効率的に運用するよう経営管理する役割を担うそうです。
企業不動産で「資産を生かす経営」に
バブル崩壊以降、企業の遊休不動産を売却し、財務基盤を健全化させる流れが主流となりました。一方で、昨今ではむやみに資産である不動産を売却しスリム化を図るだけでなく、積極的に不動産を活用して事業の安定基盤をつくり、コア事業を支える収益源とする動きも見られます。今回の日通だけでなく、東京の一等地に自社ビルを構える新聞社や放送事業といったメディア各社なども同じ方向性です。
「持たざる経営」から「資産を生かす経営」へ。日通の自社ビル建設と本社移転、CRE戦略の強化は、企業不動産を生かした経営戦略の好例といえるでしょう。(提供:自社ビルのススメ)
【オススメ記事 自社ビルのススメ】
・「都心にオフィスを持つ」を実現するには
・資産としてのオフィスを所有し戦略的に活用するには
・今の時代は「オープンフロア・オフィス」そこから生まれるイノベーションへの期待
・自社ビルのメリット・デメリット
・CRE戦略としての自社ビル