「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」の施行で、自社株を使った「株式対価M&A」が実施しやすくなりました。株式対価M&Aでは、TOB(株式公開買い付け)などが容易になったため、買い手企業にとっては短期間での事業拡大や新規参入が期待できます。中小企業やスタートアップを買収できる可能性が高まり、税制上のメリットもある株式対価M&Aがしやすくなった背景を探ります。

法改正で自社株を使ったM&Aの実施が容易に

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(画像=tsyhun/Shutterstock.com)

2018年5月16日、通常国会で「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」が成立しました。経済産業省はこの改正の趣旨として、「我が国経済の成長軌道を確かなものとし、産業の発展を持続させるべく、企業の経営基盤を強化するため、産業競争力強化法により、必要な支援措置を講じます」と発表しています。

経済産業省は、その支援措置の一環として「特別事業再編計画」の中で、株式対価M&Aについて下記のように言及しています。「自社株式を対価として他の会社の株式を取得し、当該他の会社の経営資源を活用して成長発展分野における事業活動を行う計画を認定します。認定を受けた計画に基づく株式等の取得に応じた当該他の会社の株主に生じる株式の譲渡損益の計上を繰り延べる税制措置が受けられる制度です」。

これにより、後述するような税制上のメリットが発現することになります。では、株式対価M&Aの意味と税制上の特例について見てみましょう。

株式対価M&Aとは何か

株式対価M&Aとは、買収する会社が自社株式を買収の対価として実施するM&Aの手法です。買収する会社にとっては、買収資金を調達することなく対象会社の株式を取得できるため、手元資金の少ない新興企業でもM&Aをしやすいというメリットがあります。また、買収される側の株主も買収する会社の株式を保有することになるため、買収によるシナジー(相乗)効果を享受できるでしょう。

事業再編計画で一定の要件を満たせば税制の特例も

株式対価M&Aが増えてきた要因の一つが、税制上の優遇を受けられることです。優遇の内容としては、経済産業省が策定した「平成30年度経済産業関係 税制改正について」の中で、「第4次産業革命に対応し、企業の迅速かつ大胆な事業ポートフォリオの転換を支援するため、欧米で一般的な株式対価M&Aに係る株式譲渡益の課税繰り延べ措置を講ずる」と規定されています。

この措置によって、「自社株式を対価とした事業買収に応じた株主について、株式の譲渡損益の課税繰延措置を講ずる」というルールが平成32年度末まで適用されます。適用されるためには、計画期間3年で下記の内容を達成するという一定の条件があります。

  • 生産性の向上
  • 財務の健全性
  • 雇用への配慮
  • 事業構造の変更
  • 前向きな取組
  • 新事業活動
  • 新需要の開拓
  • 経営資源の一体的活用

M&Aの選択肢が増え、買い手企業に追い風

ひと昔前であれば、優良企業を相手とするM&Aは資金力の豊富な大企業でなければ難しいものがありました。それが2018年の法改正でM&Aの選択肢が増え、大手・中小を問わず買い手企業にとっては追い風が吹いています。一つには、市場の優位性や技術力などがある中小企業やスタートアップを買収できる可能性が高くなります。

また、高い技術を持ちながら後継者不足に悩む企業から、事業承継を目的としたM&Aを持ち込まれる案件が増えることが予測されるでしょう。これらの動きをタイムリーに捉えて、株式対価M&Aによって買収できることは、会社の成長にとってチャンスが広がることになります。以上、株式対価M&Aについて見てみましたが、株主還元の一環として自社株買いが盛んな昨今では理にかなった買収方法といえるでしょう。

キャッシュフローの悪化につながる現金の流出を伴わない株式対価M&Aが、今後の企業買収の主流になる可能性は高く、経営者にとっては目が離せない状況が続きそうです。(提供:自社ビルのススメ

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