企業の資産価値に注目が集まる中、企業が所有する不動産を有効活用するためのCRE(Corporate Real Estate)戦略も盛んに議論が交わされるようになっています。今回は、CRE戦略についての概要と、自社ビルの果たす役割について見ていきましょう。

CRE戦略とは

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(画像=zhu difeng/Shutterstock.com)

国土交通省によると、CRE戦略とは、「企業不動産について『企業価値向上』の観点から経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方」を指します。
CRE戦略は、バブル期に流行ったような不動産を購入して短期的な利益を見込む財テクや、活用の見込みがない企業不動産を売却してキャッシュを生み出しバランスシートを健全化させる財務戦略とは目指すゴールが異なるわけです。

人と人の交流生み出す「自社ビル」でCRE戦略

2000年代以降、「持たざる経営」が注目されていますが、市場成熟期にある企業の中には、CRE戦略の観点から本社統合に移行する例が出ています。昨今では、グレードの高い賃貸オフィスへの入居を好む企業も増えていますが、中には自社ビルを新たに建設して本社統合に踏み切った例もあります。
例えば、日本ヒューレット・パッカード。同社では従来「3(スリー)リング制」というオフィス戦略を採ってきました。まず、都心の利便性が良いオフィスには、客先への訪問や移動が多い営業部門が所属。ついで、デスクワークが多いバックオフィス部門は郊外のオフィスで勤務。その中間的業務を行う部門は、オフィスも都心と郊外の中間地点に置き、職能別にオフィスを振り分けることで都心のオフィスにかかる維持コストを抑制しつつ、利便性は保ってきたわけです。
同社は2011年、江東区大島に自社ビルを建設し、オフィス機能を集約しました。同社によると、この江東区大島という立地は、3リング制でいえば「中間」に当たるそうです。「中間点」にオフィスを集約することでコストを抑制しつつ、さまざまな職能のスタッフが一カ所に集うことによるシナジー効果を期待したといいます。
同社はIT市場の成長に合わせ、さまざまな企業をM&Aすることで業務領域を拡大してきました。市場が成熟期に移行する中、異なるバックグラウンドを持つ社員同士が生み出すシナジー効果が求められるようになったといいます。
社員間の交流を生み出すオフィス作りには、フロアマネジメントが重要な役割を担います。しかし、賃貸オフィスの場合、決められた間取りの中でレイアウトを決める必要があり、とくに水まわりに関しては変更の余地がありません。こういった制限があるため、理想のオフィスを実現するために自社ビル建設へと踏み切ったのです。

新オフィスでは、固定席を持たないフリーアドレスの社員を10%増やし、全体の70%となっています。固定席になりがちな人事や経理までもフリーアドレス制を導入しているといいます。つまり、社員はオフィスフロア内であればどのスペースで働いても構わないということです。
一方で、オフィス統合に伴って思い切ったスペースの削減も行いました。マシンルームやキャビネットは半減、フリーアドレスは2人に1席から3人に1席になっています。また、個人ロッカーを廃止し供用ロッカーへと変更されています。同社では、拠点統合とともにモバイルワークへのシフトも進めており、業務や個人の状況ごとに「オフィスで働くか」「モバイルワークするか」を判断する社員の自主性も重視したいという狙いがあるのです。

不動産を活用し、会社の未来を描く

CRE戦略は企業戦略の一端であり、経営資源の配分・選択・集中戦略です。
「不動産ありき」の活用を考えるのではなく、会社の形や未来を見据えた不動産活用を検討するのがCRE戦略なのです。「会社の発展」を軸とした上で、CRE戦略と向き合ってみてはいかがでしょうか。(提供:自社ビルのススメ

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