「働き方改革」の一環として、オフィスを新規移転・拡張すると同時に、オフィス環境を整備する企業が増えています。中でも注目されているのが、固定席をもたないフリーアドレス制の導入です。ただ、フリーアドレス制の導入には賛否両論があります。そこで今回は、カルビー株式会社など導入済み企業の例を参考に、その効果を見てみましょう。
フリーアドレスの導入増加、オフィス賃料の高止まりも一因に
ザイマックス総研の「大都市圏オフィス需要調査2018春」によると、フリーアドレス制度を設けている企業は25.1%。2017年春時点で16.7%だったことと比較すると、この1年でオフィスの使い方に大幅な変化が生じていることが見て取れます。
その理由の一つとして考えられるのは、賃料の高止まりです。38.3%の企業が入居中のオフィスについて「かなり狭い」「やや狭い」と回答しており、利用人数が「増えた」企業は41.1%に上ります。オフィス面積を「拡張したい」企業は23.5%となっていますが、賃料の上昇で二の足を踏む企業もあり、フリーアドレス席やテレワークの導入などで、オフィス面積を抑えつつ有効活用しようという企業が増えているようです。
フリーアドレスを導入する企業の中には、外回りで不在がちな営業担当者などの座席スペースを有効活用するという企業もあります。固定席では、不在がちな従業員の席も常時確保しなければなりませんが、フリーアドレスの場合、例えば在籍率が50%ならデスクスペースを2倍広く使えることになります。執務スペースとしてではなく、ミーティングスペースとして活用することも可能でしょう。
オフィス家具大手の内田洋行によると、国内企業の1人当たりの執務スペースのベンチマーク(2014年調べ)は、固定席が15.7 平方メートル、フリーアドレスは10.2 平方メートルです。
また、固定席の場合、毎日顔を合わせるメンバーが決まっているため、部署を超えたコミュニケーションやコラボレーションなどが生まれやすい環境とはいえません。また、昨今、社会の関心が高まっているさまざまなハラスメントやメンタルヘルスの問題なども、周囲の目が行き届きにくいこともあるでしょう。
その点、フリーアドレスであればさまざまな部署の人が行き交うため、部署を超えたコミュニケーションが生まれやすく、組織の風通しもよくなることが期待できるのです。
フリーアドレスがうまくいかないのはなぜか
一方で、フリーアドレスにも弊害はあり、「集中できない」「移動が面倒」といった声も聞かれます。
オフィス改革の旗手として名高いカルビーでさえも、フリーアドレスの導入当初は壁にぶつかることがあったといいます。1つは紙の使用量削減の問題。一人ひとりの執務スペースを減らし、さらにフリーアドレスで固定席をなくしたことで、持ち歩くことができる書類の量も限られてきます。トップダウンで「紙を減らせ」と言ってもなかなか改革は進まず、まずはミーティングを減らし、資料を減らすことから始めたそうです。
また、コミュニケーションを阻害しないよう、社員にスマホを支給し、内線もスマホでやりとりをしています。
フリーアドレスが失敗する背景には、経営側に「オフィス面積の削減」といったコスト面での意向が強すぎるあまり、人事制度やIT機器の導入を含めた「働き方」全体のグランドデザインができていないというケースがあるようです。
1つの部署がまとまって座り、毎日顔を突き合わせる島型のレイアウトなら、部下が何をやっていて何時に帰宅しているのかといった管理がしやすいでしょう。しかし、各人がバラバラの場所に座り、自らの裁量を持って仕事を進めるフリーアドレス制では、上司のコミュニケーション力やマネジメント力が問われます。また、チャットツールやスマホ、グループウェアなどのITツールをうまく使いこなしてコミュニケーションを図る必要も出てきます。
カルビーの担当者は、フリーアドレスという「自由に座る席を変えられる仕組み」ではなく、働き方改革の一環というもっと大きな視座でとらえていると話します。大きな枠組みでいえば、在宅勤務やリモートワークも、フリーアドレスのひとつです。公平を期すために従業員を管理するのではなく、「どこにいても働ける」という考え方を持つことが、フリーアドレスの浸透に必要だと指摘しています。
また、従業員側の意識改革も必要です。フリーアドレスでは毎日違う人と席を並べる必要があり、自分を律することや、対応力や適用力が求められます。
加えて、作業に集中したい人の専用席を設けるなど、レイアウトの工夫も必要でしょう。
フリーアドレスは、コスト面だけでなく「働き方」全体のグランドデザインを描いた上で、導入を検討する必要があると言えるでしょう(提供:自社ビルのススメ)
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