法律は時代とともに見直しが行われ、その都度改正されていく。相続税に関する法律も例外ではなく、特にこの数年、大幅に改正が行われてきた。ただし相続そのものが非日常的であるためか、今一つ関心が薄いようだ。今回は、ここ数年で改正が行われている相続税に関する事柄について、詳しく説明したい。

井上 通夫
井上 通夫
行政書士。大学卒業後、大手信販会社、大手学習塾などに勤務後、福岡市で行政書士事務所を開業。現在、相続・遺言、民事法務(内容証明、契約書、離婚協議書等の作成)、公益法人業務、各種許認可業務など幅広く担当。

相続税改正にまつわるQ&A

相続税改正
(画像=PIXTA)
Q


なぜ改正されたのか?

前書きでも説明したように、今後ますます訪れる少子高齢化に対応した改正だと言える。また相続税の基礎控除を下げることで、税収の増加を目論み、一方で生前贈与を促進させて、できるだけ高齢者にお金を使ってもらい、経済を活性化したいという狙いも伺える。

前書きでも説明したように、今後ますます訪れる少子高齢化に対応した改正だと言える。また相続税の基礎控除を下げることで、税収の増加を目論み、一方で生前贈与を促進させて、できるだけ高齢者にお金を使ってもらい、経済を活性化したいという狙いも伺える。


Q


最も大きく改正された点は?

何といっても、相続税の基礎控除額が引き下げられたことが、最も大きな改正点である。これによって、今まで相続税とは無縁だった世帯も、相続税を意識することになった。

何といっても、相続税の基礎控除額が引き下げられたことが、最も大きな改正点である。これによって、今まで相続税とは無縁だった世帯も、相続税を意識することになった。


Q


注意すべき点は?

基礎控除額の引き上げにより、できるだけ生前に遺産を減らそうという風潮が広がった。その結果、さまざまな方法で生前に財産を使って遺産を減らす方向にあり、特例も設けられている。しかし、要件を理解していないと、遺産から控除されない事態が生じるので、注意が必要である。

基礎控除額の引き上げにより、できるだけ生前に遺産を減らそうという風潮が広がった。その結果、さまざまな方法で生前に財産を使って遺産を減らす方向にあり、特例も設けられている。しかし、要件を理解していないと、遺産から控除されない事態が生じるので、注意が必要である。


相続税の改正(基礎控除)

相続税は、被相続人の財産にそのまま税率をかけて算定するわけではなく、その前に一定の金額を引くことになっている。これを「基礎控除額」と言う。つまり遺産総額が基礎控除額よりも少なければ、相続税がかからないことになる。

改正前の基礎控除額は、「5000万円 +(1000万円 × 法定相続人の数)」であった。法定相続人が3人の場合、基礎控除額は「5000万円 +(1000万円 × 3)= 8000万円」となる。したがって、遺産総額から8000万円を引いた金額に相続税がかかることになる。

しかしこの基礎控除額は、2015年(平成27年)1月1日以降に発生した相続から、「3000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」に改正された。法定相続人が3人の場合、基礎控除額は「3000万円 +(600万円×3)= 4800万円」となる。よって、改正前に比べると基礎控除額は3200万円も低いことになる。

この例からも分かるように、基礎控除額の改正により、今まで相続税を納税する必要がなかった世帯にも、相続税がかかる可能性が出てくるようになったのである。

この事態を如実に表す数字がある。国税庁が公表している数値、相続税を納めた世帯の割合を表した統計である。

この統計によると、改正前の2014年度(平成26年度)の課税割合は4.4%だったが、改正された年の2015年度(平成27年度)には8.0%まで上がっている。翌年の2016年度(平成28年度)は8.1%、2017年度(平成29年度)は8.3%、2018年度(平成30年度)は8.5%と、8%台で推移しているのである。

これらの数字を見ても、基礎控除額の引き下げによって、相続税が課税される世帯は確実に増えていることが分かる。

相続税の改正(未成年者控除)

相続人に未成年者がいる場合、相続税の額から一定の金額が差し引かれる。

計算式は、以下のとおりである。

(20歳 - 相続開始日の未成年者の年齢)× 10万円

つまり未成年者控除の額は、未成年者が満20歳になるまでの「年数1年につき」10万円で計算した額ということになる。

年数の計算では、1年未満の期間がある場合、切り上げて1年として計算しなければならない。例えば、相続開始日の未成年者の年齢が16歳10ヵ月の場合は10ヵ月を切り捨てて、16歳で計算する。つまり、20歳までの年数は4年になり、未成年者控除額は「10万円 × 4年 = 40万円」となる。

ただし2022年(令和4年)4月1日から、1成人年齢18歳となるため、未成年者控除は18歳未満の相続人に適用されることになる。

相続税の改正(相続税率の変更)

基礎控除額の改正が2015年(平成27年)に行われたと説明したが、同時に相続税に関しても大きな改正が行われた。億円を超える相続財産にかかる相続税率の引き上げである。具体的には、以下のように改正された。

遺産が2億円を超えて3億円までの税率は40%から45%に引き上げられた。また、遺産が3億円を超えて6億円までは50%のままだが、遺産が6億円を超えると50%から55%に引き上げられた。

つまり遺産総額が多いほど、さらに税率が引き上げられたことになる。冒頭のQ&Aにも記載したが、財産を持っている世帯に、生前にできるだけお金を使ってもらおうという意図が伺える。

相続税の改正(小規模宅地等の評価見直し)

相続税対策の一つに、小規模宅地等の特例がある。

被相続人が住んでいた土地や事業を行っていた宅地について、一定の要件を満たせば、評価額を80%または50%減額できるというものである。これによって、相続税の対象となる土地の価格を大幅に減額できる。

この制度の中で、被相続人等の事業(貸付事業を除く)のために使われていた宅地等を「特定事業用住宅地」と言い、被相続人の親族または遺贈によって取得したものである。この土地についても、400㎡を上限として、評価額が80%減額されることになっている。

しかしこの制度も改正され、2019年(令和元年)4月1日以降の相続等について、相続開始前3年以内に事業のために使われた「特定事業用宅地」を特例措置から除外することになった。あまりにも減額の幅が大きかったために、一定の規制が設けられたのだ。

相続開始前3年以内に事業のために使用された事業用宅地等でも、その土地の上に事業のために使用されている減価償却資産の価格が、宅地等の相続時の価格の15%以上であれば、特例の対象となる。

相続税の改正(贈与税の変更)

相続税率の変更に合わせて、贈与税率の最高税率も50%から55%に引き上げられ、税率段階も6段階から8段階へ細分化された。

ただし子どもや孫が父母や祖父母から贈与を受けやすくするために、改正した税率を2つに分けて、20歳以上の人が直系尊属(父母、祖父母)から贈与を受けた財産に対する税率については、それ以外の贈与に比べて低くなっている。

例えば、20歳以上の人が直系尊属から600万円を贈与された場合、税率は20%だが、それ以外の同じ600万円の贈与の場合、30%となっている。

相続税法の改正

●遺言書

遺言書に関しては、大きく2つの点が改正された。

1つ目は、自筆証書遺言の書き方である。

自筆証書遺言は、遺言の内容、日付、名前をすべて自分で記載し、捺印したものでなければ、無効となっていた。しかし今回の改正で、財産目録については、パソコンで作成することが可能となった。

自筆証書遺言を何度も書き直す場合、財産目録は手書きでなくても構わないので、かなりの負担減となる。また財産目録についても、必ずしもリストを作る必要はなく、通帳のコピーや不動産登記簿などで財産を特定できればよいことになった。

2つ目は、自筆証書遺言の保管方法である。

今までは、自分で遺言書を作成し、自宅のどこかに保管するケースが多かった。しかしこのような方法で保管すると、被相続人が亡くなった後、遺言書が発見されなかったり、発見された後でも家庭裁判所での「検認」という手続きが必要だったりして、相続人に負担がかかっていた。

そこで、2020年(令和2年)7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管できるように改正された。遺言書を作成した本人が法務局に預けるため、遺言の内容について後で疑義が生じることが少なくなり、従来のような検認の手続きも不要になる。当然ながら、遺言書を紛失することもない。

●預貯金の払戻制度

今までは、被相続人が亡くなり、相続人が遺産分割協議書を作成するまで、または相続人全員の同意がなければ、被相続人の口座から預貯金を引き出すことができなかった。その結果、葬儀費用や当面の生活費などを相続人で工面しなければならなかった。

そこで、「預貯金の払戻制度」が創設され、2019年(令和元年)7月以降、一定額を相続人が単独で引き出すことが認められるようになった。金融機関に直接申し出て引き出す場合は150万円まで、家庭裁判所に申し立てを行って引き出す場合は、それ以上の金額を引き出せるようになった。ただし預貯金の状態などによって、引き出せる金額は異なる。

●配偶者の居住

今までは、夫が自分名義の自宅を残して亡くなった場合、妻が自宅を相続し、子どもが預貯金を相続すれば、配偶者はそのまま自宅に住めるが、生活費が手元に残らなかった。

一方、遺言書がない場合で、子どもがおらず、相続人が妻と夫の兄弟姉妹のときに相続財産を分割する際は、自宅を売却して金銭を工面するケースも出てきた。このような場合、妻は自宅に住み続けることができなくなっていた。

このような不都合を解消するために、「配偶者居住権」が作られた。2020年(令和2年)4月1日から、自宅の価値を「所有権」」と「配偶者居住権」に分割し、自宅に住む権利を妻に対して、優先的に認めようとするものである。

  

この権利によって、夫が亡くなった後、妻は「配偶者居住権」だけを相続できるようになった。自宅に住み続けながら、預貯金も相続できるため、生活の不安解消にもつながる。

●夫婦の自宅贈与

配偶者に財産を贈与すると、「贈与」がかかるが、婚姻期間が20年以上の場合、夫婦間の贈与は2000万円までは、贈与税は課税されない。しかし夫が妻に自宅を贈与した場合、夫が亡くなったときには、この贈与はなかったことになるため、自宅を相続財産として、他の相続人と相続の配分を決めなければならない。

  

このような不都合を解消するため、2019年(令和元年)7月から、婚姻期間20年以上の夫婦間で、自宅を贈与した場合、相続の配分を決める際には、贈与を受けた自宅は相続財産に入れなくてもよいこととなった。

改正に伴う相続税対策

●生前贈与

生前贈与は、最も手軽ですぐにできる相続税対策である。1人年間110万円までの贈与には、相続税がかからないため、できるだけ多くの相続人に早い時期から110万円ずつを贈与すれば、相続財産からかなりの金額を減らすことができる。

また、前述のように、配偶者への生前贈与は2000万円までは非課税であり、自宅を贈与した場合には、その自宅を相続財産に入れなくてもよいので、この制度を利用すれば相続税対策にもなる。

●生命保険の活用

相続財産のうち、生前に不動産を減らすことは難しいが、現金を減らすことは比較的容易である。当面使う予定のない預貯金があれば、その分を生命保険に使うという方法が有効だ。

被相続人が亡くなり、相続人が保険金を受け取った場合、「500万円 × 法定相続人の数」の金額までは非課税となる。つまり被相続人が生命保険に加入するだけで、大幅な節税となるのだ。

●遺言の利用

公正証書遺言は、公証役場で作成、保管するため、遺言内容の不備や紛失の心配はない。しかし、公正証書遺言は、金銭的負担がかかる。

しかし今回の改正によって、自筆証書遺言を法務局で保管できるようになり、財産目録をパソコンで作成できるようになったため、自筆証書遺言の作成のハードルが下がったと言える。

●住環境の整備

特に資産がない世帯でも、地価が高い都市部では、高い相続税が課される可能性がある。小規模宅地等の特例が適用できれば、土地の評価額の80%を減額できるため、かなりの相続税対策になる。

例えば、子どもが親と同居することで、小規模宅地等の特例が適用できる住環境を整備できる。そのためには、次の要件を満たしておかなければならない。

・被相続人の自宅を相続する人が、配偶者である
・被相続人の自宅を相続する人が、同居親族で10ヵ月の申告期限まで所有し居住し続ける
・被相続人が1人暮らしであり、自宅を相続する人が、3年以内に自己(または自己の配偶者)の所有する自宅に住んでおらず、10ヵ月の申告期限まで所有し続ける
・被相続人と生計を同じにする親族の自宅の土地を配偶者が相続する
・被相続人と生計を同じにする親族の自宅の土地をその生計一親族が相続し、10ヵ月の申告期限まで所有し、居住し続ける