「外部経済」「外部不経済」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?これは経済学の教科書に登場する用語です。CSR(企業の社会的責任)経営やESG(環境・社会・ガバナンス)経営の必要性が叫ばれている昨今、重要なキーワードになっています。そこで今回は「外部経済」「外部不経済」という切り口から、CRE戦略について考えていきましょう。
CRE(企業不動産)の「外部性」という視点
企業が所有したり活用したりしている不動産は、市場を通さずに第三者に何らかの影響を与えています。これを「外部性」を持つといいます。この外部への影響がプラスの場合は「外部経済」、マイナスの影響を与える場合は「外部不経済」と呼ぶわけです。例えばオフィスビルの照明が夜道を照らし、防犯に一役買っている場合は外部経済となります。
また空調の排気ダクトから排出される熱風が通行人や近隣に迷惑をかけている場合は外部不経済です。CRE(Corporate Real Estate:企業不動産)は当然私有財産であり、金銭的価値を持ちます。それはいわば「市場の内側」の話です。CRE戦略において市場の視点はもちろん「外部経済を最大化し、外部不経済を限りなくゼロに近づける視点」が求められています。
都市防災とBCP
外部経済最大化・外部不経済最小化の経営視点とは、どのようなものであるべきなのでしょうか。これは、ESG経営とほぼ重なるものといえます。ESGとは環境(Environment)や社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉であり、環境・社会・ガバナンスに配慮した経営ということです。
例えば最新の省エネ・創エネ性能を有し、吹き抜けによる自然採光や自然換気の取り入れ、屋上には太陽光発電を備えているZEB(Net Zero Energy Building:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やグリーンビルディングの構築などは、CO2排出の大幅削減を実現する環境配慮のCREとして評価されます。
とくに都市部のオフィスビルでは、都市防災とBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が注目されており、ESG経営を基軸とした外部経済最大化・外部不経済最小化は欠かせないものといえるでしょう。
一例として森ビル株式会社では、建物に制振壁や制振ダンパーなど最新の耐震性能を持たせることはもちろん、停電時のために自家発電システムも導入しています。
また東日本大震災以降問題となった「帰宅困難者」対策では、六本木ヒルズで5,000名、虎ノ門ヒルズで3,600名、その他の主要施設でも帰宅困難者を受け入れることで港区と協定書を締結しているのです。受け入れ場所の確保、食料・資機材などの備蓄、情報提供の対応を行っています。
(参照:森ビル株式会社「安全・安心」 )
このように「外部性」を持つ企業不動産は、街づくりにダイレクトに結びついているのです。人口減少や税収減により、街づくりや地域の課題を自治体のみで解決していくことには限界があります。今後、企業は自社の利益追求のみでなく、地域への貢献や環境への貢献などが評価され、そのステータスとプレゼンスは、企業価値向上にも結びつくことが理解できるのではないでしょうか。
先進的なワークプレイスとワークスタイル
先進的なワークプレイスとワークスタイルの創造という視点も重要です。企業が用意する創造的なオフィスには、その企業に勤める人だけでなく、様々な業界の取引先、外部ベンダーなどが集います。さらには、クリエイター、研究者、起業家、行政、地域住民等々、背景の異なる人びとが引き寄せられることになります。
職住接近が好まれる昨今では、企業のオフィスビルの建設が住宅、ホテル、商業施設の進出の呼び水となります。ひいては、地域の雇用の創出と地方自治体の税収増にもつながります。
企業不動産マネジメントの一元化
「外部経済」「外部不経済」まで視野に入れたCRE戦略には、専門部署の設置が必然と言えます。ところが、日本企業のなかでCRE戦略を専門に扱う部署を設置している企業は、まだ少ないのが現状です。
また、CRE戦略の策定では、広い視野と専門的知識が求められます。不動産情報(物件所在地、面積データ、取引履歴、所有不動産の簿価と時価、賃借料・租税公課・水道光熱費等のコストなど)をICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を駆使して一元管理し、継続的な収集と分析が求められます。そのため、経営層のコミットメントと専門部署責任者による的確な報告も必要になります。
今後より一層高度なCRE戦略のためには、このような「企業不動産マネジメントの一元化」が求められていくでしょう。(提供:自社ビルのススメ)
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