「従業員エンゲージメント」が話題になっています。もともと英語の「engagement」は、「約束・契約・婚約」などを意味することはご存じでしょうか。それがFacebookやTwitter、InstagramなどSNSの効果測定(サーベイ)の値やマーケティング用語として注目されました。SNSではフォロワー数が影響力の一つの指標です。
しかしエンゲージメントは「いいね」「クリック」「リツイート」などのリアクションをカウントします。例えばツイッターでは以下のような項目がエンゲージメントです。
・いいね
・返信
・リツイート
・ツイートの詳細閲覧
・投稿からのフォロー
・画像や動画のクリック
・リンクのクリック
・プロフィールのクリック
フォロワー数がニュートラルな数字なのに対してエンゲージメントは愛着、絆など「つながりの濃さ」を数値化したものといえます。従業員(社員)エンゲージメントは、企業における従業員の信頼性と愛着心を指標化したものなのです。
従業員満足度と従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントに似た従業員満足度(Employee Satisfaction)という言葉があります。これは日本でも定着化していて多くの企業が留意しているものです。給与や労働衛生環境、福利厚生など会社側から従業員へ「与えられるもの」の指標となっています。一方、従業員エンゲージメントは従業員側から会社へ「貢献しよう」とする意欲の指標化なのでベクトルは逆方向です。
近年では、従業員満足度と企業業績にはあまり関連性が見られません。一方、2018年に株式会社リンクアンドモチベーションの研究機関により「従業員エンゲージメントの高さと企業業績には強い相関関係がある」という調査が発表されています。
同社で従業員エンゲージメント・サーベイを実施した企業のうち、有価証券報告書が公開されている上場企業66社の従業員エンゲージメント指数と営業利益率との相関を調べたところ、「指数1ポイントの上昇につき営業利益率が0.35%上昇する」ことが分かったのです。
こうした事実から、従業員エンゲージメントという指標がにわかに注目を浴びることとなりました。
(参照:リンクアンドモチベーション「「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開 ~エンゲージメントスコアの向上は営業利益率・労働生産性にプラスの影響をもたらす~」)
従業員エンゲージメントの効果とは
従業員エンゲージメントは、SNSエンゲージメントのように明確な定義はなくさまざまなサーベイ(測定)会社が独自に数値化しているものです。しかしその高さが以下のような効果を生んでいるといわれます。
・企業業績が向上する
最も大きなメリットは、従業員エンゲージメントの高さが企業業績の高さに結びついていることです。前章で示したリンクアンドモチベーション社の調査でもわかるように、会社に貢献しようというモチベーションが高いパフォーマンスを生み出し結果として売上増につながるわけです。
・離職率が下がる
従業員エンゲージメントが向上することにより離職率が下がる効果があります。株式会社リンクアンドモチベーションの研究機関によると2019年9月「従業員エンゲージメントが高いほど退職率が低い傾向にある」と発表しました。
・優秀な人材を確保しやすくなる
従業員エンゲージメントの向上が企業業績の上昇を実現し企業価値を向上させる好循環ができれば優秀な人材を呼び込みやすくなるでしょう。
従業員エンゲージメントを高めるためには
この従業員エンゲージメントという指標ですが、日本は世界的にも低いことが分かっています。世論調査や人材コンサルティングを手がける米国ギャラップ社の調査によると日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないとのことです。米国の32%と比べてもだいぶ低いことが見て取れます。調査した139ヵ国の中では132位と最下位クラスでした。
日本企業は、従業員エンゲージメントを高めるための施策が必要なのかもしれません。例えば下記のような行動や制度の見直しなどが施策として考えられます。
・企業理念の共有
「そもそも私たちは何のために働いているのか」という根本がしっかり備わっていなければ従業員のエンゲージメントも高まりようがありません。企業の社会的使命(ミッション)と企業理念(ビジョン)が存在していて経営者がきちんと発信しているかが問われます。
・公平公正な人事制度
努力したことが正当に評価される企業であれば従業員は末永く働きたいと素直に思えるでしょう。逆に不透明なルールや非合理的な慣習で人事評価がされていれば従業員のモチベーションは保てません。
・社内コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションの活性化は会議やミーティングなどのオフィシャルな業務だけにかぎりません。懇親会や飲み会などインフォーマルな交流を通じても社内のコミュニケーションが活性化し風通しの良い雰囲気が構築できれば従業員エンゲージメントを構築しやすいといえるでしょう。
ツールを導入して従業員エンゲージメントを高めた施策の事例
最後に従業員エンゲージメントに対する課題を抱えていた企業が最新ツールを導入した例をご紹介します。
・モチベーションクラウドを導入したラクスル株式会社の事例
ラクスル株式会社は印刷・広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」を展開する企業です。「事業の急成長ペースに組織の成長がついていけなくなっている」という危機感があり従業員エンゲージメントの可視化のためにモチベーションクラウドを導入しました。予想通り低いスコアが出たそうです。
しかしサーベイ実施後時間をおくことなく全社員を集めて1泊2日のビジョン浸透合宿を行い、ビジョン・ミッション・行動指針をブラッシュアップ。その結果、2015年ごろは年間15~20%だった離職率が2016年に5~10%弱まで低下しました。
・Great Place To Workを導入した株式会社JSOLの事例
ICTソリューションを提供している株式会社JSOLは、2015年にGreat Place To Workの「働きがいのある会社調査」に参加しました。初回の結果はやはり低く特に改善すべきは、会社に対する「誇り」と職場の「連帯感」でした。頭の固い事業部長や役員を集めた合宿、部長向けの働きがいのある職場づくり研修、若手社員に対する企業ビジョンの浸透を目的として行った「ビジョン座談会」などを実行。
プログラミングを地域の子どもたちに教えるCSR活動などを積み上げ2019年版の「働きがいのある会社」ランキングでは、大規模部門(従業員数1,000名以上)で15位に選出されました。
これらの企業が導入した従業員エンゲージメントをサーベイするサービスが各社からリリースされています。他に有名なものでGeppo(ゲッポウ)なども人気です。このようなツールによる従業員エンゲージメントの「見える化」と同時に企業理念の共有や制度の見直しを進めていくことをおすすめします。(提供:自社ビルのススメ)
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