日本企業のオフィスは「島型」と呼ばれる伝統的な対向式レイアウトが主流です。また経営層の意向を末端まで効率的に伝えるトップダウン式の組織にマッチするスタイルでした。しかし近年、日本企業を取り巻く経営環境の変化に伴って「フリーアドレス制」が増えてきています。フリーアドレス制とは、社員が個々の固定デスクを持たず空いている席を自由に利用して仕事をするスタイルです。

さらに最近では、このフリーアドレス制をさらに進化させた「ABW」というオフィススタイルが注目されています。そこで本記事ではフリーアドレスの進化版の「ABW」の概要や導入事例、導入するための手順について解説します。

ABWとは何か?

ABW
(画像=dragonimages/stock.adobe.com)

「ABW」という言葉を初めて聞く人も多いのではないでしょうか。ABWは「Activity Based Workplace(アクティビティ・ベースド・ワークプレイス)」の略で、日本語にすると「仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶ働き方」という意味です。一例を挙げると以下のようなものがあります。

  • 他の部署とのコミュニケーションを生みやすくするため、気軽に会話できるカフェ風のミーティングスペース
  • より深い意見を出し合ったり企画を進行させたりするため、プロジェクターを完備した会議室
  • 集中して作業ができる一人用ブース
  • リラックスした状態でアイデアを膨らますことができるライブラリー

さらにオフィスに限らずサテライトオフィスやカフェ、自宅など自由に場所を選択し働くこともできる仕組みです。これだけだと「フリーアドレス制とどう違うのか」と思う人もいるかもしれません。しかしABWとフリーアドレス制では根本的に考え方が異なります。

フリーアドレス制の特徴

フリーアドレス制は、限られたスペースの有効活用によってオフィス賃料の軽減を図るため、コスト面を重視するのが特徴です。「営業などで外出している社員のデスクを他の社員が利用できる」「フリーアドレス導入に伴うペーパーレス化によってコスト削減できる」などがメリットとして挙げられます。

ABWの特徴

ABWは、社員の自主的な働き方に重きが置かれています。一人ひとりの社員がそれぞれのビジネスシーンにおいて以下のような選択が可能です。

  • どのようなツールを利用するか
  • どの人とコラボレーションをするか
  • 打ち合わせをしながら仕事を進めるべきか
  • 一人で作業をすべきか など

ABWのコンセプトは、オランダで生まれた新しい働き方に基盤を持つものです。「時間と場所に縛られず、いつでも、どこでも仕事をする」という考えにもとづいて社員の幸福度・参加意欲・満足度を高めることが目的とされています。フリーアドレス制が「モノ」を起点とするのに対し、ABWは「ヒト」を起点にしている点でまったく異なるものということが理解できるのではないでしょうか。

ABWの導入事例

それでは次に、実際にABWを導入した企業の事例をご紹介します。

事例紹介:アイリスオーヤマ株式会社

ABWの考えをオフィスに落とし込んでいる企業も増加傾向です。例えば生活用品・家電製品の製造販売を手がけるアイリスオーヤマ株式会社が2018年11月に開設した「東京アンテナオフィス」(浜松町・日本生命浜松町クレアタワー)では、ABWの考え方にもとづいたユニークなオフィスレイアウトを実現しています。

具体的には受付カウンターのすぐ脇に「タッチダウンエリア」というパソコン作業をしたり資料を広げたりすることができる場を作っています。ここでは、立ったままで打ち合わせを行うこともできるのです。商談室(会議室)は以下のように各インテリアが異なっているため、ビジネスシーンごとに選択することが可能です。

  • ニューヨーク ブルックリン風のもの
  • DIY風のもの
  • 自然たっぷりのもの
  • SF映画のような未来感のあるものなど

一方執務エリアは、以下の7つのエリアに分けられます。

No.エリア詳細
1フリーコミュニケーションエリアフレキシブルワークのベースとなるフリーアドレスエリア
2タッチダウンエリア移動や商談の合間などのほんの短い時間でも立ち寄ってメールチェックや仕事ができるエリア
3ウインドフロントエリア街並みを見渡せるビューフロントのフリーアドレスエリア
4トレンドショーケース(商談室)最新のインテリアトレンドを採用した9つの異なるテーマのミーティングルーム
5スタンディングミーティングエリア(TV会議システム)効率的な会議を生み出すスタンディングでのミーティングエリア
6リラックスエリアフリーアドレスエリアの一角に設けたソファタイプのワーキングエリア
7ラウンジスペース昼食時間帯と終業後に飲食が可能なエリア

生活用品や家電製品を扱っている同社らしく最新のオフィス用品や什器、照明をふんだんに活用しているのが特徴です。ABWを採用することにより「フリーコミュニケーション」「生産性と創造性」「快適性」の3つの価値を実現できたと同社は評価しています。

ABWをオフィスに取り入れるための4つの手順

大きく分けて、ABWをオフィスに取り入れる手順は以下の4つです。

① ヒアリング
② レイアウト
③ ICTの環境整備
④ マネジメント方法の改編

①ヒアリング
ABWを導入するには、まずは社内の現状調査が必須です。社員の1日の行動やオフィスで不便に感じている点、必要なワークスペース、使用頻度が低い会議室、デスクや椅子の数などについてヒアリングしたうえで準備を進めましょう。

②レイアウト
ヒアリングの結果から「どのようなワークスペースが必要なのか」を洗い出し、実際にレイアウトしていきます。例えば業務内容によっては集中できるスペースをより多く導入する企業もあるでしょう。さらに来客が多い企業の場合は開放的なコミュニケーションスペースを多めに確保したレイアウトのほうが安心です。

③ICTの環境整備
オフィス内外のICT(情報通信技術)の環境整備が必要です。特にWi-Fi環境を始めとしたIoT整備とセキュリティ対策が必要になります。

④マネジメント方法の改編
ABWでは、島型レイアウトのように上司が常に部下を見ているような環境ではなくなります。社員の自主性に委ねた働き方になるため、それにふさわしいマネジメント方法への変更や透明性のある成績評価システムなどを明確にすることが必要です。ABW導入成功の最大の鍵は「管理職と部下の信頼関係」にあると指摘されています。

ABWは社員それぞれが自発的に動きイノベーションへつながることが期待される手法です。管理職としては「人は裁量さえ与えられれば最善の仕事をする」ということを信じることが出発点になります。

ABW導入のためにも自社ビルを

ABW導入のためには、物理的にフロアの造作が必要です。一般的には賃貸オフィスでもABWレイアウトは可能ですが、根本的なカスタマイズをするのであればオーナーの制約のない自社ビル(購入した自社オフィス)のほうが良いでしょう。さらにABWは、単なる物理的なオフィスレイアウトにとどまらず企業理念の鮮明化や具現化という側面があります。

現代では働き方改革が叫ばれABWのようなフレキシブルな働き方の推進が「優秀な人材を集めていく吸引力になっている」といっても過言ではありません。自社ビル(区分所有を含めた自社オフィス)において自分たちらしいABWを実現することは、自らの企業ブランディングにもつながることが期待できるのです。商談に訪れた取引先の社員が「こんなオフィスで働けてうらやましい」と思わせるようなオフィスを実現させるためにも、自社ビル(区分所有を含めた自社オフィス)購入を検討してはいかがでしょうか。(提供:自社ビルのススメ


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