経営者であれば、いずれ訪れる「事業承継」のタイミング。しかし、何も考えていないといざというときに困ってしまいます。このままではよくないとわかりつつも、事業承継について相談できる人がいないケースもあるでしょう。ここでは、事業承継が成功した事例を紹介し、自分の事として考えて行動するための「事業承継のリアル」について考えます。

経営者なら考えておきたい「事業承継」のタイミング

そろそろ考えておきませんか? どのように受け継がれているのか「事業承継のリアル」
(画像=Rattana.R/stock.adobe.com)

経営者にとって事業承継をいつ行うかは大きな問題です。早い時期から後継者を決定し、引退の時期まで決めておくのが理想ですが実際はどうなのでしょうか。日本商工会議所が実施したアンケート「『事業承継と事業再編・統合の実態に関するアンケート』調査結果」によると、経営者の年齢別に見た「既に後継者を決めている」人の割合は、50歳未満が8.8%、50歳代が18.0%、60歳代が49.9%、70歳以上が56.2%です。やはり自分の年齢が高くなってから後継者のことを考える傾向が顕著になっています。とくに60歳が1つの節目になっているといえるでしょう。

ただし、70歳以上から考えると後継者を育てる時間があまりないので、これから紹介する各種の公的機関のアドバイスやサポートを受けて事業承継を行うことも考えなければなりません。

親族内承継と親族外承継

自分で築いてきた会社は息子などの「親族に承継したい」と考えるのが普通の経営者でしょう。首尾よく親族内承継で引き継がれた会社もあれば、事業外承継を行った会社もあります。それぞれの事例を見てみましょう。

事例1:親族内承継-地元の商工会に相談

地域の経済団体である商工会で親族内承継について相談することができます。

栃木県真岡市にある総合建設業の有限会社大森組を事業承継する後継者は、以前大手建設会社に勤務していました。前の職場では自分の役割がはっきりしていましたが、大森組では現場監督から施工まで幅広い範囲を見なければなりません。会社の規模が小さいことにカルチャーショックを受けたといいます。環境に少しずつ慣れていくなかで出会ったのが「にのみや商工会」です。同会には社内のパソコン環境の充実化や共済、補助金を活用した会社のPRなど色々と相談できる関係を築いていました。

事業承継については約1年前から相談し、決めるべきことが山ほどあることに気づかされました。大森組の事業承継計画は、連携の密なチームのバックアップを受けて進みました。専門家2名と大森組の顧問税理士がチームでサポートしたことで承継が順調に遂行されたのでした。事業承継について意識したのは、会社や社員に負担をかけずに受け継ぐかという点です。定款の変更や規約の見直しが大変でしたが、専門家の意見を聞きながら進められたことで安心できたといいます。8年後の承継を目指していますが、税制上いつ承継するのがベストかは税理士に確認しながら進めるとのことです。事業承継はタイミングを見極めるのが難しいですが、専門家の意見を聞きながら整理できたことが幸いした事例といえるでしょう。

事例2:親族外承継-事業引き継ぎ支援センターに相談

続いての事例は、親族外承継で会社の承継を成功させたケースです。毎日新聞社の子会社である株式会社山梨毎日広告社の社長は65歳を目前にして事業承継を考えるようになりました。後継者に考えたのは自分が営業部長の時代から一緒に働いていた気心の知れた後輩です。ただ、自分が社長になったときに事業承継で辛酸を舐めた経験がありました。同社に不良債権があったからです。不良債権の一部を引き継ぐ形で新会社をスタートさせたのでした。

後輩に同じ苦労をさせたくないとの思いの中、事業承継について親身に相談に乗ってくれたのが「山梨県事業引き継ぎ支援センター」です。事業引き継ぎ支援センターは、事業を譲渡したい中小企業や事業を譲受したい企業が相談できる機関です。

「株式譲渡によって事業承継をするか、一旦解散して新会社を設立するかどちらを選択すべきか」という相談を社長から受けたといいます。山梨毎日広告社の財政状況が健全であるにもかかわらず、解散して新会社を設立することを選択しました。それは親会社から独立して、預けている保証金を返還してもらって運営資金に充てたほうが今後の会社運営が円滑になると考えたからです。結果的には、親会社との話し合いの結果、会社を継続して保証金の一部を返還してもらえることになり、事業を承継することができました。

第三者承継

第三者承継とは、経営者の配偶者及び3親等以内の親族または自社の役員及び従業員以外の第三者へ事業を承継することです。第三者承継を成功させた3つの事例を見てみましょう。

事例3:第三者承継-経営承継円滑化法の活用

茨城県水戸市にある株式会社水戸ロックセンターは、鍵の専門店として30年以上地域の治安に貢献してきた会社です。経営者は当時67歳で「70歳までに誰かに事業を譲りたい」と考えていました。この頃ある会食の席で経営者の思いを知った夫婦が後継者になることを申し出ます。夫婦は経営者の元で修業を積みますが、問題は事業を譲り受ける買い取り資金の調達でした。まず会社が取引している金融機関に相談しますが、個人で引き継ぐ場合の融資制度はないといわれ、「茨城県事業引き継ぎ支援センター」を紹介されます。

同センターで「経営承継円滑化法」に基づき日本政策金融公庫から金融支援を受けることを案内され、認定申請に必要な書式・書類の説明を受けました。同センターに何度も足を運び、アドバイスを受けながら綿密な事業計画書を作成しました。認定を受けるには会社を買い取る前に代表取締役の名義を変更しなければなりませんでしたが、経営者との信頼関係を築いていたことでクリアすることができました。同センターには株式譲渡の締結までサポートしてもらったといいます。

事例4:第三者承継-事業承継型M&A

新潟県燕市にある株式会社阿部製作所は、事業承継型M&Aを成功させた会社です。新潟県のほぼ中央にある燕三条は、金属加工の歴史を持ち小中規模の会社が多い地域です。阿部製作所の会長は、同業のアベキン社長に事業を譲渡する際「アベキンの息子なら知らぬ仲ではないので、安心して任せられる」との思いがありました。アベキン社長は「雇用を守り屋号を残す」という条件にも理解を示しました。

M&Aのきっかけになったのは、地元の協栄信用組合が阿部製作所の後継者になることをアベキン社長に打診したことです。バランスシートが健全であったことや、阿部製作所の高い技術力に惹かれたアベキン社長はM&Aの提案を受け入れる決心をします。2017年に事業承継型M&Aが成立し、それから約3年で阿部製作所はアベキンの経営手法が入ったことで新たなシナジーが生まれました。このM&Aが評判を呼び、2019年にはアベキンがさらに燕市の会社を2社グループ化しています。

事例5:第三者承継-後継者人材バンクでマッチング

静岡県田方郡函南町にあるシューズハウスオオイシは「後継者人材バンク」に登録した人物に事業を譲渡し、事業承継を成功させました。地元で30年以上靴店を営んできた大石氏は、同じく靴店を経営している父親が死去し、閉店作業をするうちに自分の事業承継について考えるようになりました。そのようなとき、函南町商工会の経営指導員から「事業承継個別相談会」に誘いを受けます。

一方、シューズハウスオオイシを譲り受けることになる水口氏は起業を目指し、三島商工会議所で「創業応援塾」を受講していました。水口氏はセミナーからの流れで後継者人材バンクに登録します。水口氏はオーダーメイドインソール販売事業を志していました。店舗を持つことも考えていたといいます。この2人が三島商工会議所と函南町商工会の仲介で出会い、マッチングが成立しました。その後水口氏が株式会社アシウェルを設立し、シューズハウスオオイシは生まれ変わります。事業の譲渡が終了したあとも、水口氏と大石氏夫妻は同じ店舗で働いています。

事例出典:プッシュ型事業承継支援高度化事業全国事務局「私の事業承継」

ここまでリアルな事業承継の事例について見てきました。まずは自身で事業承継について考え、どうしても後継者が見つからなければ、事例で紹介した公的機関に相談するのもよいでしょう。事業承継を円滑に行うためにも、早めに準備を始めることが求められます。(提供:自社ビルのススメ


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