消費税増税は国民ほぼ全員に関わるものであるため、さまざまなメディアでも大きく取り上げられました。一方、それ以外の税金は、あまり関心を呼ばないことが多々あります。2020年以降の所得税の改正も、その一つかもしれません。今回は、2020年の所得税改正によって具体的に何が起こるのか、詳しくみていきましょう。

税制改正は企業経営に直接影響を及ぼす

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(画像=Nishihama/Shutterstock.com)

多くの会社員が税金にあまり関心を抱かないのは、源泉徴収と年末調整(要するに天引き)があることが理由として挙げられるでしょう。しかし、企業経営者はそういうわけにはいきません。毎年のように変わる税制改正に無関心でいると、企業経営にも影響を与える可能性があるためです。

平成30年(2018年)成立した税制改正で、2020年以降の所得税が改正となりました。所得税なので、個人所得への課税の話であり、法人への課税の話ではありません。しかし、850万円超の給与所得者は増税となるため、経営者個人に大きく関わってくるといえるのではないでしょうか。

今回の所得税改正のポイントは以下の5点になります。

・基礎控除の控除額は10万円引き上げ
・給与所得控除の控除額は10万円引き下げ
・公的年金等控除の見直し
・青色申告特別控除の見直し
・配偶者控除や扶養控除の適用要件の見直し

ここでは、基礎控除と給与所得控除について見ていきましょう。

基礎控除の控除額10万円引き上げ

課税される所得金額は、所得金額からいくつかの控除を差し引いたものですが、誰にでも適用されるのが基礎控除です。これまでは、一律38万円でしたが、2020年以降は10万円引き上げられて48万円となりました。

しかしそれは、合計所得金額が2,400万円以下の場合です。2,400万円超2,450万円以下ですと32万円、2,450万円超2,500万円以下で16万円、2,500万円超は基礎控除なしとなります。

これまでは一律適用だった基礎控除が、所得制限を入れた形となりました。

給与所得控除の控除額10万円引き下げ

給与所得控除とは、会社員などの給与所得者に適用される控除です。会社員が仕事のために自己負担でスーツや革靴、カバンなどを用意することを考慮して設けられているものです。事業所得における経費に当たるものと言えます。

今回の改正では以下のようになります。

(給与等の収入金額)162.5万円以下 (控除額)55万円
(給与等の収入金額)162.5万円超180万円以下 (控除額)収入金額×40%-10万円
(給与等の収入金額)180万円超360万円以下 (控除額)収入金額×30%+8万円
(給与等の収入金額)360万円超660万円以下 (控除額)収入金額×20%+44万円
(給与等の収入金額)660万円超850万円以下 (控除額)収入金額×10%+110万円
(給与等の収入金額)850万円超 (控除額)195万円

全体的には、改正前の給与所得控除額が10万円引き下げられています。基礎控除額が10万円引き上げられているので、改正前と相殺されて課税所得は変わらないことになります。

ただし850万円超の場合、控除額は195万円が上限となりますので、課税所得も大きくなります。その分税負担増となりますので、給与所得が高い方は注意が必要です。ちなみに改正前は、1,000万円超で220万円上限でした。

モデルケースとして、給与所得1,000万円のビジネスパーソンの基礎控除及び給与所得控除額を算出してみましょう。改正前ですと、基礎控除38万円、給与所得控除220万円で合計258万円でした。他に控除がないと仮定すると、課税所得は742万円です。

改正後は基礎控除48万円、給与所得控除195万円で合計243万円となり、課税所得は757万円となり課税所得は15万円も大きくなります。

平成30年度税制改正で決まった中小企業支援税制

850万円超の給与所得者の所得税増税が決まった平成30年度税制改正では、同時に中小企業支援のための税制も定められています。企業経営ではこうした税務メリットを生かさない手はありません。

中小企業支援税制としては、主に以下のような制度があります。

事業承継税制の抜本拡充【対象:相続税・贈与税】

事業承継税制は、会社の後継者が取得した株式などの資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。平成30年度税制改正ではこの制度の大幅拡充がなされ、対象株式数の上限66%を撤廃し、猶予割合を100%に拡大することで、承継時の贈与税・相続税の現金負担がゼロとなります。

事業承継税制の適用にあたっては、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定が必要となります。

親族外への事業承継(M&A)時の減税措置の創設【対象:登録免許税・不動産取得税】

親族外への事業承継の際にはM&Aが活用されますが、経営力向上計画の認定を受けると、その際に発生する登録免許税・不動産取得税が軽減されます。

設備投資に係る固定資産税の特例【対象:固定資産税】

生産性向上につながる新規設備投資の固定資産税が、3年間最大ゼロになる制度です。これは、設備投資によって旧モデルよりも年平均1%以上の生産性が向上し、労働生産性が3%以上向上するものが要件となります。

所得拡大促進税制の延長・拡充【対象:法人税・所得税】

従業員の給与を前年度より増加させた場合、最大で増加額の25%を法人税から控除できる制度です。

少額減価償却資産の特例を延長【対象:法人税・所得税】

ICT機器など30万円未満の減価償却資産を購入した際、合計300万円まで全額損金算入(即時償却)できる制度です。

このように平成30年度税制改正では、高額給与所得者への所得税増税の一方で、賃上げや設備投資を促す項目が盛り込まれています。円滑な事業承継のための優遇税制も、中小企業経営と従業員の雇用を守るための制度と言えます。

以上のような税制改正の特長をふまえることで、より適切な節税対策が見えてくるのではないでしょうか。(提供:自社ビルのススメ

(参照:中小企業庁「中小企業・個人事業主向け知って役立つ!使ってトクする!税制改正」


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