シリコンバレーの巨人・グーグル本社には、いたるところに瞑想ルームがあることが知られています。全世界で10万人を超える社員が在籍しているグーグルですが、その10人に一人が瞑想を行っているそうです。

また、グーグルばかりではなく、アップルやフェイスブック、ヤフーなどの名だたるICT大手企業も瞑想を企業研修に採用しています。そして、グーグルをはじめ世界中の多くの企業や医療現場などでも採用されている瞑想法が「マインドフルネス瞑想」と呼ばれているものです。

EQ(情動的知能)向上がパフォーマンス向上につながる

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(画像=fizkes/Shutterstock.com)

マインドフルネスとは「今現在起こっている経験に注意を向ける心の状態」を指します。元来は仏教の瞑想に由来し、古代インドのパーリ語「サティ」の英訳です。この瞑想はマサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士が医療分野に取り入れ、「マインドフルネスストレス低減法」というプログラムを開発したことで米国中に広まりました。

その後、カバットジン博士がグーグルで講演を行ったことをきっかけに、グーグル内でマインドフルネスが定着化することになったのですが、キーマンとなったのがグーグルのエンジニアであるチャディー・メン・タンでした。

グーグルでは、社員が就業時間の20%を本業以外のプロジェクトに使っても良いというルールがあり、このルールを使ってメン・タンがまとめたカリキュラムがマインドフルネス瞑想法「Search Inside Yourself(己の内側を探れ)」です。このカリキュラムは書籍にもなり、ロングセラーとなっています。

多くの企業が、社員向けの研修やセミナーでは社員の知的発達を促進するIQ向上型の教育プログラムを導入していますが、グーグルはEQ(情動的知能)を向上させるプログラムに取り組みました。

セールスや接客サービスに従事する人は、EQが仕事に与える影響が大きいことは、直感的に分かるでしょう。しかし、テクノロジー部門のエンジニアやプログラマーも、EQが高ければパフォーマンスも高まるという研究報告があります。

前出の『Search Inside Yourself』で、メン・タンは「EQは様々な情動面での能力の集まりであり、あらゆる技能と同じように情動面の技能もトレーニグで身につけられる」と述べています。これはウェイトトレーニングによって筋肉を鍛えることができるように、心のトレーニングによってEQを高めることは可能なのだということです。そして、その心のトレーニングこそマインドフルネス瞑想法なのです。

マインドフルネスの実践

さて、それではEQを高めるためのマインドフルネス瞑想とはどのような瞑想方法なのか、具体的に「Search Inside Yourself」に沿ってその一端を見ていきましょう。

本格的な瞑想では床にヨガマットなどを敷いて座禅を組み、親指と人差し指をつけるムドラーのポーズをとりますが、初心者は普通に椅子に腰かけて構いません。その際、心がリラックスしながらも隙のない状態にします。この「リラックスしながらも隙のない状態」というのが難しいのですが、メン・タンは「心の基本設定状態」と命名しています。

メン・タンは誰でもできるマインドフルネス瞑想法として、次の「やさしい手法」と「もっとやさしい手法」の2つを挙げています。

・やさしい手法…呼吸のプロセスに注意を向け、注意がそれるたびに元に戻す。

・もっとやさしい手法…とくに何をするでもなく、何かを「する」モードから「あるがままでいる」モードに切り替える。

これを2分ごとに行います。瞑想していると、様々な情動が湧き上がってきます。不安、怒り、嫉妬、恨み等々。それらの情動を良い・悪いという価値判断をせず、ただ客観的に眺めます。

たとえば「怒り」という情動が湧き上がると、体が震え、心拍数が上がる生理現象が起こりますが、その生理現象を察知し「私は怒りを感じている」という注意力が働けば、情動に翻弄されることなくそれをコントロールすることができるのです。

情動を知覚する能力を高めていけば、私たちは心の状態を最適化することができ、ビジネスのパフォーマンスを上げるばかりではなく、人生の幸せを感じることができるとメン・タンは言います。

(出典:英治出版「Search Inside Yourself 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法」)

日本でも広がるオフィスでの瞑想

「瞑想」と聞くと「スピリチュアル」というイメージで捉えられがちですが、グーグルはマインドフルネス瞑想を一つの科学にしました。そして、現実にグーグルはビジネスにおいて大きな成功を収めているわけですので、その効果も認めざるを得ないものがあります。

日本でもグーグルに学んで、オフィスに瞑想スペースを設置する企業が増えてきています。クラウド名刺管理サービスのSansanは、マインドフルネス瞑想を日本企業として初めて研修に採用しました。

研修に参加した社員の方によりますと、「人事と事業開発の兼務がとても苦しかった時期にマインドフルネス瞑想を試したところ、2ヶ月ほどで心が楽になった」と報告しています。また、「同僚とのコミュニケーションもうまくいくようになった」とのことです。

また、既存のオフィスに瞑想ルームを設置するのが難しい企業のために、後付けの一人用卵型ポッド「Open Vessel」という商品も販売されています。

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(画像=自社ビルのススメ)

「Open Vessel」は大人1人用の広さで、中央にベンチが置いてあり、ここで座禅を組みます。LEDライトに囲まれ、瞑想に没頭できる最適な音楽が流れるようになっていて、「リラックス」、「エナジャイズ」、「デイドリーム」などの選択肢があります。また、操作はタブレットなどの端末の専用アプリから簡単に行うことができます。

コワーキングスペースでも瞑想スペースを備えているところが登場しました。パナソニック、オカムラ、ダイキン工業、東京海上日動火災保険、ライオン、MyCity、アサヒビール、TOA、TOTOの9社は、東京・丸の内に会員制コワーキングスペース「point 0 marunouchi」を開設しました。ここには、瞑想やヨガができるメディケーションスペースが設けられています。

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(画像=自社ビルのススメ)

「point 0 marunouchi」は「未来のオフィス空間」をコンセプトにしており、各社が持つ最新の技術やデータ、ノウハウを融合して創り上げたワークプレイスを利用者に提供しています。実際に会員に体感してもらいつつ、健康的で快適に働けるオフィス空間づくりに向けた実証実験を行ない続けるプロジェクトとなっています。

このように、瞑想スペースはビジネスツールの一つとして、オフィスの中に市民権を得つつあります。

日々、デジタル機器と格闘し、仕事に忙殺されるオフィスワーカーにとって、静かに自分と向き合う瞑想の時間はとても貴重なものと言えます。ストレス軽減だけでなく、脳内が活性化され、新たな創造を生むきっかけともなり得るマインドフルネス瞑想を採用することによって、集中力と生産性の向上が期待できます。
オフィスのリニューアルをお考えの経営者は、この機会に瞑想ルームを検討してみてはいかがでしょうか。(提供:自社ビルのススメ


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