昔から「机の乱れは心の乱れ」と言われるように、オフィスの整理整頓ができていないと作業効率が悪くなることは常識的に理解できます。しかし、話はそれにとどまらず、企業経営の基軸をなすものとさえ言えるのです。

ここでは2つの世界的企業、アップルとトヨタ自動車の取り組みから考えてみましょう。

オフィスの乱れがビジネスの乱れに?

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(画像=V_L/Shutterstock.com)

オフィスのデスクが散らかっていて、「あれ、あの書類どこ行ったかな?」「黄色のマーカーペンはどこだ?」と探しものをすることがあります。大塚商会の調査によると、ビジネスパーソンがオフィスで何らかの探し物をしている時間は、1年間で150時間にも上っているのです。この150時間は、デスクの整理整頓が行き届いていれば発生しない、純粋に無駄な時間と言えるでしょう。

そればかりではありません。デスクの乱れは連鎖し、オフィス空間全体が不潔で乱雑な状態になりえます。これは、有名な「割れ窓理論」のオフィス版と言えるわけです。

割れ窓理論は、米国の心理学者ジョージ・ケリングが提唱したもので、窓ガラスを割られたまま放置しておくと、他の窓が割られたりゴミが捨てられたりして地域の環境が悪化し、犯罪が多発するようになるという犯罪理論です。

オフィス空間が不快なものなり、職場環境が悪化すると、そこで働く社員に多くの心理的・身体的ダメージを与えることになります。散らかったオフィス空間は、そこで働く者にストレスと不安をあたえ、認知エネルギーを浪費させることで集中力を削いでしまうのです。

職場環境の悪化が社員のストレスを招くと、社内コミュニケーションも必然的に希薄化していくことでしょう。そしてモチベーションも低下し、業績悪化へとつながっていくのです。社員のモラルの低下から、「個人情報流出」のような事態にまで至る可能性も否めません。

スティーブ・ジョブズのアップル再建は「整理整頓」からだった

アップルの創業者の一人、スティーブ・ジョブズは、一度は追放された古巣に1996年、非常勤顧問の形で復帰、「救世主」として舞い戻ってきました。当時、倒産寸前まで業績不振にあえいでいた同社をV字回復に導いたのは有名ですが、彼がまず始めたのは「オフィスの整理整頓」でした。

iPodやiPhone、iPadなど独創的な製品のリリースはいわば表舞台で、裏側では「デスクを整理する」「床に物を置かない」などの地道なルール作りから改革を始めていたのです。

そのオフィスの整理整頓は、乱立していたプロジェクトの絞り込みにもつながりました。いわゆる「選択と集中」です。それが、前述したヒット製品の登場に結びついたことは間違いありません。

トヨタの5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)活動

わが国の事例では、トヨタ自動車の「5S」が有名です。5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」のローマ字表記の頭文字を表しています。

経済産業省発行の「5Sによる作業のムダ・ミス削減」によれば、5Sは以下のように定義されています。

・整理:「捨てること」によって業務に必要なものだけを残し、不要品を処分する。
・整頓:置き場所・置き方を決めて、ものを探すという無駄な行動を一掃する。
・清掃:必要なものをきれいな状態に保ち、いつでも使えるようにする。
・清潔:必要なものがいつでも使える状態を維持する。
・躾:決められたことを守り、習慣化する。

5Sは単なる片付け、掃除活動ではありません。業務における課題を解決し、生産管理の3要素QCD(Quality=品質、Cost=コスト、Delivery=納期)を向上させる取り組みと言えます。

最初の「整理」は、要るモノと要らないモノを徹底的に分け、要らないモノを処分することから初めます。問題は「いつか使うモノ」ですが、期限を決めることによって順次整理します。

トヨタでは、「有効期限」「担当者」などを書いた赤札をそのモノに貼り、一覧表を作って管理します。つまり不用品の見える化です。

次の「整頓」では、使用頻度と動作を考え、誰でもわかるように明示的に保管します。有名なのは「姿置き」です。工具などモノの形を型抜きのように保管場所に描いて誰もがわかるように保管します。

また、「清掃」にて大事なことは、2Sされた職場環境を綺麗に維持し、日常点検によって異常に気付くこと。「清潔」では3S「整理・整頓・清掃」がルールとして維持されていること、そして「躾」がそのルールを各自が自主的に運用していることです。最終的には、社内マネジメントと人材育成にまでつながるものになっています。

GAFA一角の巨大企業アップルも、2019年上半期自動車販売台数世界第2位のトヨタも、地道なオフィスの整理整頓を積み重ねて、世界的な企業に上りつめたのです。(提供:自社ビルのススメ

(参照:経済産業省 改善マニュアルNo.1「5Sによる作業のムダ・ミス削減」 )


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