「創発」という言葉がビジネスの現場で頻繁に語られ、定着するようになりました。もともとは生物学や物理学の用語「emergence」(発現)が語源で、部分の性質の単純な総和以上の全体の性質が現れることを指します。

具体的には、働きアリの社会行動に見ることができます。一匹一匹のアリは、個体としての能力はたかが知れています。ピラミッド的な命令系統も存在しません。それなのにアリは食糧を見つけ、巣を作り、コロニーを運営します。

この「全体の性質が個々の性質の総和を超える」という創発現象がビジネスの場に現れた1つの典型例として、米国のシリコンバレーが挙げられます。ICT産業を牽引する企業が数多く集結することで、相互に影響し合い、イノベーションや技術革新が繰り返され、個々の企業の総和を超えるシリコンバレーICT産業全体の発展が実現されたのです。

(出典:スティーブン・ジョンソン『創発 : 蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』

創発を生み出す仕掛け

オフィス,価値,創造
(画像=Alexander Steam/Shutterstock.com)

創発は、直線的な経営計画の進捗とは異なり、ある意味偶然性や多様性、揺らぎを内包させたものと言えます。予期せぬ出会い、異質なもののぶつかり合いが創造的なイノベーションにつながるのです。

「全体の性質が個々の性質の総和を超える」という創発を、企業内で呼び起こす取り組みも盛んに行われています。それは、1+1を2ではなく、3にも4にもする取り組みと言えます。

その取り組みにおいてとくに意識されているのが、「オフィスの中の非日常」です。オフィスがルーティーンな作業場に終止していては、新たな価値は生まれません。イノベーションはある意味非連続的なものですから、新たな発見、これまでとは違った視点が必要なのです。

先進的企業の取り組み

創発、あるいはオープン・イノベーションを実現するための「仕掛けづくり」を行っている企業の取り組み事例を2例紹介します。

総合コンサルティング企業のアクセンチュアは、東京・麻布十番に創発拠点「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」を2018年1月に開設しました。社内外の専門家と、顧客である企業との連携を促す拠点となっており、アイディア出しからプロトタイプ生産までの一気通貫の設備も揃っています。

麻布十番と言えば「納涼まつり」が有名ですが、ハブ東京のメインエントランスとなる8階の中心にはやぐら風のモニュメントがあり、各ブースも屋台風に並んでいます。お祭りの賑やかさと人びとの出会いを演出し、創造意欲をかき立てる空間となっているのです。

また、コンサルティング・ファームのデトロイトトーマツでは、イノベーション創発施設「Greenhouse」を2019年6月、東京・丸の内にオープンしました。茶道をデザインコンセプトとしていて「和」を強調しながら、会話の構築と促進をサポートする落ち着いたオフィス空間となっています。

日常とは異なる空間での双方向的な対話を通じて、複雑な経営課題をひも解き、解決策の提案と行動計画の策定をめざします。

出現した創発を成長させる

創発を生み出すために、各企業は様々な工夫をしています。多くの企業で採用されたフリーアドレスデスク制もその一つです。さらに進んで、オフィス内に設置したコワーキングスペースを自社の人間だけでなく、外部に開放するという取り組みもあります。

そうしたハード面だけでなく、個々の社員の能力や発想をこれまでとは違う形で組み合わせることを目標に、「部署横断的なチーム編成」「社内ベンチャーの立ち上げ」「外部パートナーとのコラボレーション」などのソフト面の運用も重要になります。

創発が予期せぬ出会い、異質なものの相互作用による現象である以上、それをあらかじめ予定して実行することはできません。 創発において大切なことは、段取り通りに計画を実行するスタンスではなく、出現した創発を常にフィードバックし、トライ・アンド・エラーによって成長させるスタンスなのです。(提供:自社ビルのススメ


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