ここ数年、ビジネス界隈で「働き方改革」という言葉を聞く機会が多くなりました。その関連法案が、2019年4月1日より順次施行されています。具体的な内容は、以下のようなものです。

①残業時間の上限設定(※1)
②1年に5日の年次有給休暇付与の義務付け
③労働時間の把握義務の強化および健康管理措置の強化
④フレックスタイム制の清算期間を3ヶ月へ延長
⑤高度プロフェッショナル制度の創設

また、政府は働き方改革の目的を「多様な働き方を選択できる社会を実現するため」とし、それを推進するため、以下の3つの措置を行うとしています。

1.長時間労働の是正
2.多様で柔軟な働き方の実現
3.雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

今年施行された①~⑤の措置は、「1.長時間労働の是正」と「2.多様で柔軟な働き方の実現」のためのものということがわかります。もう一つの柱である「3.雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」については、来年以降施行される「同一労働同一賃金」によって実現を目指すとされています。

※1:ただし、大企業のみ。中小企業は2020年4月1日より。

(参照:厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~」

働き方改革の柱・同一労働同一賃金とは?

働き方改革,同一労働同一賃金
(画像=REDPIXEL.PL/Shutterstock.com)

同一労働同一賃金は、同一企業内の正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すもので、2020年4月1日から施行されます(中小企業は2021年4月1日から施行)。

ちなみに、ここでいう「中小企業」とは、下記に該当する企業のことです。

中小企業

・製造業:資本金3億円以下、または従業員300人以下
・卸売業:資本金1億円以下、または従業員100人以下
・小売業:資本金5,000万円以下、または従業員50人以下
・サービス業:資本金5,000万円以下、または従業員100以下
上記以外は「大企業」に該当します。

具体的には、次の2つの事項が求められます。

・不合理な待遇差をなくすための規定の整備
・労働者の待遇に関する説明義務の強化

それぞれ見ていきましょう。

不合理な待遇差をなくすための規定の整備

同一企業内において、正社員と非正規雇用者との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差を設けることが禁止されます。

その不合理な待遇差をなくすために定められるのが、「均等待遇規定」と「均衡待遇規定」です。均等待遇規定とは、差別的取扱いを禁止するという意味合いのものであり、職務内容(業務の内容+責任の程度)と職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合、待遇について同じ取扱いをする必要があるという規定になります。

これは「イコール」の考え方で、同じ仕事をしているのならば正社員であれ非正規雇用者であれ、同じ待遇にするということです。待遇には基本給以外の賞与、各種手当、昇給、福利厚生、各種休暇制度も含まれます。

もう一つの均衡待遇規定は、不合理な待遇差を禁止するという意味合いのものであり、職務内容、職務内容・配置の変更の範囲、その他の事情(労使協定など)の違いに応じた範囲内で待遇を決定しなければなりません。

これは「バランス」の考え方で、正社員と非正規雇用者との間で待遇に差異がある場合、それが合理的なものでなければならないということです。たとえば、正社員とアルバイト社員の待遇に差異があっても、正社員には決裁権がある、トラブル発生時に緊急対応が求められる、ノルマがあるのに対し、アルバイト社員にはそれらがないのであれば、待遇の差異が合理的であると判断されます。

企業には説明責任が発生

また、非正規雇用者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など自身の待遇について説明を求めることができるようになります。企業側は、非正規雇用者から説明の求めがあった場合は説明をしなければなりません。

説明すべき内容は、待遇内容(給与・福利厚生など)、待遇決定に際しての考慮事項、待遇差の内容・理由です。

働き方改革で企業価値向上を

それでは、同一労働同一賃金施行に際し、企業としてはどのような準備をしておけばよいのでしょうか。厚生労働省が示している「同一労働同一賃金ガイドライン」自体はあくまでも方針であり、法的拘束力はありません。しかし、働き方改革の柱をなすものとして企業の取り組みが期待されています。

まずは、自社内のすべての従業員の雇用形態を再点検する必要があるでしょう。非正規雇用者がいる場合、正社員との間に待遇の差異があるかどうか、どのような待遇の差異なのか、その待遇の差異に合理性はあるのかをチェックしましょう。

賃金制度、人事制度、就業規則の総ざらいが必要なので、企業にとってはかなりのコスト負担となってしまいます。場合によっては、人件費の高騰を招き経営を圧迫することもあるかもしれません。

それでも、非正規雇用者のモチベーション・アップは大きく期待できますので、スキルアップとそれに伴う生産性の向上も期待できます。また、柔軟な働き方が選択されている昨今、非正規雇用者から優秀な人材を発掘できる可能性も十分にあるでしょう。

働き方改革を通じて、企業価値を向上させる取り組みが求められているのではないでしょうか。(提供:自社ビルのススメ


【オススメ記事 自社ビルのススメ】
「都心にオフィスを持つ」を実現するには
資産としてのオフィスを所有し戦略的に活用するには
今の時代は「オープンフロア・オフィス」そこから生まれるイノベーションへの期待
自社ビルのメリット・デメリット
CRE戦略としての自社ビル