個人が不動産の運用を始めるときは、法人成りせずに個人事業主として行うケースも多いかもしれません。しかし不動産の運用が軌道に乗って「物件数が増える」「事業規模が大きくなる」といった状況になってくると、タックスマネジメントを意識せざるを得なくなります。その段階では、法人の設立ということが課題になってくるかもしれません。
このように、不動産の運用など資産の管理を目的として設立される法人を、一般的に「資産管理会社」と呼びます。本記事では資産管理会社を設立するメリットについて解説します。
資産管理会社を設立する4つのメリット
資産管理会社を設立するメリットは多岐にわたります。特に、不動産所得以外にも所得のある富裕層やエグゼクティブにはメリットが大きいといえるでしょう。ここでは資産管理会社を設立する4つのメリットを解説します。
1.所得税率と法人税率との違いからくるタックスメリット
収益不動産を保有する個人事業主は、毎年確定申告をし、所得税・住民税を納税します。課税計算の元となる不動産所得は、賃料などの不動産収入から各種経費や固定資産税などを引いて算出。これが課税所得となって所得税・住民税がかかるのですが、ご存じの通り税率は累進課税のため、所得が大きいほど高率の税がかかります。2020年5月現在では、所得税が5~45%の所得税、住民税の所得割は10%です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
また不動産所得は損益通算のできる総合課税なので、給与所得など他に所得がある人は合算した所得に課税されることになります。そのためもともと給与所得が高い人の場合、税負担がかなり重くなってしまう可能性もあるでしょう。
一方、法人の場合はどのようになるでしょうか。不動産所得の計算方法は、個人と同じく不動産収入から経費・税を引いた額になりますが、税率が異なります。法人にかかる法人税の実効税率は、本社のある所在地や資本金によって異なったり特例があったりしますが、約20~30%です。
2014(平成26)年度 | 2015(平成27)年度 | 2016(平成28)年度 | 2018(平成30)年度 | |
法人税率 | 25.5% | 23.9% | 23.4% | 23.2% |
国・地方の法人実効税率 | 34.62% | 32.11% | 29.97% | 29.74% |
所得税・住民税と比較すると、法人のほうが個人と同じ所得の場合でも所得が高くなるにつれて税負担は軽くなることが分かります。この差がそのままタックスメリットになるのです。なお、大まかな目安としては、個人の所得が900万円を超えると法人のほうがメリットになる計算になります。
900万円を超え1,800万円以下の所得税 33% > 国・地方の法人実効税率 29.74%
2.配偶者や子どもに給与を支払うことができる
資産管理会社を設立すると、配偶者や子どもを役員にして報酬を支払うことができます。それによって資産分散効果が生まれ、タックスメリットを受けることが可能です。
<例>配偶者と子ども1人にそれぞれ年間103万円の役員報酬を支払った場合
給与所得控除 55万円、基礎控除 48万円差し引くことができる為、所得税がかかりません。
会社側:103万円 × 2人 = 206万円 経費が発生(営業利益を引き下げることが可能)
年 収:103万円 - 給与所得控除:55万円 - 基礎控除:48万円 = 課税所得:0円
ただし勤務実態のない親族に報酬を支払うことは、税務当局に否認される可能性が高いため注意しましょう。
3.相続時の遺産分割が容易
不動産を保有する個人が亡くなり相続が発生したことで、遺産である現物不動産の分割に手間取るケースは少なくありません。相続税は原則として現金で納付するので、相続人の手元に現金がない場合など相続人同士で紛争になる可能性もあります。しかし資産管理会社が不動産を保有していれば株式の分割で済むので、遺産分割はスムーズに進むことが期待できるでしょう。
また贈与税に当たらない範囲で、毎年少しずつ株式を将来の相続人に譲渡することも可能です。
4.損失繰越を9年間繰り越せる
不動産の運用において仮に損失が出た際、個人事業主の場合は損失繰越が3年です。しかし法人の場合は9年(2018年4月1日以後に事業開始ならば10年)繰り越せます。
資産管理会社を設立する3つのデメリット
資産管理会社には多くのメリットがあることが理解できたのではないでしょうか。ただし資産管理会社にはデメリットもあるため、しっかりと押さえておくことが必要です。ここからは資産管理会社を設立する3つのデメリットについて解説します。
1.設立時に人的・金銭的コストがかかる
資産管理会社を設立・登記の際には費用がかかります。登記は司法書士に依頼することが一般的ですが、司法書士への報酬を含めて株式会社で20万~30万円程度、合同会社で10万~15万円程度の費用が必要です。司法書士に依頼しないですべてを自分で行うことも可能ですが、非常に面倒な事務手続きを覚悟しなければなりません。また自分で登記する場合でも登録免許税はかかります。
事務手続きの手間暇や将来の展開を考えると、設立時から税理士と顧問契約を結び相談をしたほうが良いかもしれません。その場合には、顧問料がかかる点も押さえておきましょう。
2.赤字であっても最低7万円の法人住民税を納める必要がある
個人事業主の場合、事業が赤字であれば税金は課税されません。しかし法人の場合は法人住民税の均等割がかかります。たとえ事業が赤字であっても最低7万円は毎年支払うことが必要です。
3.相続直前の法人化は注意が必要
個人が資産管理会社に不動産を売却する場合、時価で行うことが大原則です。時価でなければいけない理由は、好き勝手な値段で個人から資産管理会社に譲渡すると本来支払うはずの譲渡所得税や法人税をごまかすことができてしまうからです。そのため時価での取引が大原則となっています。これが相続直前に行われるとどうなるのでしょうか。
例えば、負債のない時価1億円の賃貸不動産(土地・建物)のケースで考えてみましょう。本来、不動産には相続税引き下げ効果があります。なぜなら土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されるからです。さらに賃貸不動産の場合は、評価を算出するとき借地権割合(30~90%)や借家権割合(全国一律30%)が加味されます。仮に今回のケースは時価の50%とした場合、相続税評価額は5,000万円です。
ところが、資産管理会社に時価で売却した直後に相続を迎えると、相続税評価額は1億円のキャッシュになります。そのため5,000万円の評価額が倍に跳ね上がってしまうのです。こうした事実から資産管理会社の設立は、高齢になってからではなく早い段階で行ったほうが良いといえるでしょう。
まとめ
資産管理会社のメリット・デメリットについて確認してきました。資産管理会社は一定以上の事業所得や給与所得、不動産所得と一定規模の資産を持っている人とってはメリットが大きいでしょう。そのため資産管理会社の設立を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。特に不動産は取引金額の大きさからいってもタックスメリットが大きく、資産管理会社との相性が良い傾向です。
また資産管理会社を設立した際には、ポートフォリオの一つに「区分所有オフィス(R)」を加えることをおすすめします。「区分所有オフィス」とは、オフィスビル1棟まるごと購入するのではなくフロアや部屋ごとに区分して分譲する不動産商品です。オフィスビル1棟であれば築古であったり郊外であったりしても数億円という予算が必要になります。
しかし「区分所有オフィス」であれば同じ予算でも東京都心部のブランド立地などで保有することが可能です。将来的な収益性と資産性を考慮すれば「東京都心部の不動産」というポートフォリオは非常に魅力的なものになるのではないでしょうか。
※「区分所有オフィス」は、株式会社ボルテックスの登録商標です。(提供:自社ビルのススメ)
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