企業経営が軌道に乗り何期も当期純利益を計上するようになると、相当額の内部留保が積み上がっていきます。そうなると経営者としては次のステージとして「自社ビルの購入」を意識する機会が増えるかもしれません。

オフィスを賃貸している場合は、都心部のオフィスは賃料が高く、毎月高額の固定費がキャッシュアウトしていきます。しかし「自社ビル」であれば、キャッシュアウトせずに実物資産として残すことができるのです。本記事では、企業不動産(CRE)を活用するためのファイナンスの知識などについて解説します。

ファイナンスの利用で企業力をアップさせる3つのメリット

ファイナンス
(画像=studiopure/stock.adobe.com)

自社ビル取得を検討するとき、真っ先に問題になるのが資金調達方法でしょう。「全額をキャッシュで購入するのか」「金融機関から融資を受けて購入するのか」という選択が求められます。経営者の中には無借金経営をポリシーとしていて「自社ビルもすべて現金で購入しよう」と検討している人もいるかもしれません。

しかし「金融機関からの借り入れ=ファイナンス」を上手に活用することも大切です。ここでは、ファイナンスを利用することで得られる3つのメリットについて解説します。

  • 資金繰りに余裕が出る
  • 自社ビル購入までを効率化・迅速化できる
  • レバレッジ効果とタックスメリット

1.資金繰りに余裕が出る

ファイナンスを活用することで企業の資金繰りに余裕がでます。自社ビル購入のために相当額を支払っても資金繰りに支障がない場合は問題ないのかもしれません。

しかし想定外の経営環境の変化は突然やってくるものです。金融機関からの融資を活用すれば一定額の流動資産を手元に残したうえで自社ビルを保有することができます。

2.自社ビル購入までを効率化・迅速化できる

自社ビルの現金購入を目標として内部留保を積み上げる場合、実際の物件取得まで何年もかかってしまう可能性があります。ただし「目標額に到達し、いざ購入」という段階になって物件を探しても、自社に合った適当な物件に巡り会えない可能性も十分にあります。

機会損失を避け、自社ビル購入までを効率化・迅速化できることもファイナンスの大きなメリットといえるでしょう。

3.レバレッジ効果とタックスメリット

金融機関からの融資は「レバレッジ」と呼ばれ、和訳すると「てこの原理」となります。このような呼び方をしている理由は、現金が少額でも高額な不動産を取得することができるからです。自社の事業規模と毎年の利益額を勘案して適切な融資を受ければ、現金購入よりもグレードの高い物件を取得できることがあります。

また不動産は「減価償却資産」の代表格のため「減価償却」という仕組みを活用すれば大きなタックスメリットを得ることが可能です。減価償却とは、資産価値の減少分を毎年の費用分に計上する会計手続きのことを指します。そのため物件価格が大きければその分メリットも大きくなるわけです。詳しくは「CRE戦略において減価償却を活用する方法とは」を参照してください。

ファイナンスの4つのスキーム

「自社ビルのススメ」では、企業価値最大化のために東京都心部・商業地での自社ビル取得を推進してきました。当該立地の場合、物件価格も数億~数十億円以上というオーダーになるため、いくつかの融資スキームが候補に上がるでしょう。

ここでは、4つのスキームについて紹介しつつ、それぞれのメリット・デメリットを解説します。

  • コーポレートローン
  • ノンリコースローン
  • 動産・債権担保ローン(ABL)
  • プロジェクトファイナンス

1.コーポレートローン

コーポレートローン(Corporate loan)は、読んで字のごとく「企業に対する融資」のことです。当該企業の信用力や企業価値を引き当てとする融資を意味します。企業の資金調達方法としては社債の発行と並ぶ一般的な方法で、多くの人にもイメージしやすいものです。主に以下のようなローンがあります。

  • 都市銀行や地方銀行、信用金庫、信用組合などのローン
  • 日本政策金融公庫によるローン
  • ノンバンクによるローンなど

また複数の金融機関が協調して「シンジケート団」を作り、一つの融資契約書に基づき同一条件で融資を行う「シンジケートローン」という手法もあります。コーポレートローンは、最も一般的な融資で比較的審査が通りやすい点がメリットです。また他のスキームと比べると金利は低い傾向にあります。

一方で購入する当該不動産に抵当権が設定され、仮に債務不履行になった際は担保不動産の没収だけでなく、借入金残債と不動産売却額との差額も支払わなければいけない点はデメリットです。

債務は、担保不動産以外の財源や保証人にも及ぶことになります。また企業の信用力への融資のため、差し出した不動産の担保力だけでなく企業の業績など財務内容も審査対象です。そのため企業の業績次第では、審査が通らないこともある点はしっかりと把握しておかなければなりません。

2.ノンリコースローン

ノンリコースローン(Non-recourse loan)とは、借入金の返済に対する責任範囲を限定して債務履行がなされる融資方式のことです。「リコース」とは「償還」「遡及」という意味を持つため「ノンリコース」は遡及されません。「非遡及型融資」と呼ぶ場合もあります。購入する当該不動産を担保設定しますが、債務不履行になった際に借入金残債と担保不動産売却額との差額の返済義務はありません。

いざというときは「物件が取られて終わり」ということです。当該不動産以外の財源や保証人に債務が及ばないことは非常に大きなメリットといえるでしょう。一方のデメリットとしては「リコースローンより融資条件が厳しく金利が高い」「審査が厳しい」といったことが挙げられます。

3.動産・債権担保ローン(ABL)

動産・債権担保ローンは、英語で「Asset Based Lending」となり「ABL」と呼ばれています。企業が保有する在庫(原材料・商品)や機械設備、売掛債権などの動産や債権を担保とする融資方式です。上述した1と2が「デットファイナンス(借入金融)」という範囲に対して、ABLは動産・債権という資産を担保とするファイナンスのため「アセットファイナンス(資産金融)」という範囲に属します。

動産・債権担保ローンは、不動産ではなく企業が保有する在庫や売掛債権などが担保になるため、融資の幅が広がる点がメリットです。例えば、購入する不動産の評価額が融資希望額よりも過小であったとしても融資が可能になるわけです。担保対象の幅が広くなるため、条件によっては債務超過の企業でも融資が可能になるケースもあります。

一方で通常のローンに比べると担保評価などの手続きが煩雑になるため、融資実行まで時間がかかることはデメリットです。また調達コストが高くなる一面もあります。さらに債務不履行の際、在庫や機械設備、売掛債権が差し押さえられてしまうため、本業継続が著しく困難になる点もデメリットです。

4.プロジェクトファイナンス

プロジェクトファイナンス(Project finance)とは、特定事業(プロジェクト)から発生するキャッシュフローを返済の原資とする資金調達方式です。返済原資を限定し事業主体の企業へ債務保証を求めないためノンリコースローンの一種でもあります。プロジェクトファイナンスは、インフラなどの公共事業や電気・ガスなどのエネルギー事業などで活用されるケースが多い傾向にあります。

負債額が莫大で事業年数も長期にわたることが多いため、複数の企業が出資するSPC(特別目的会社)を設立しSPC向けに融資を行うスキームが一般的に採用されます。そのため自社ビルという不動産単体の取得ではなく地域の再開発事業プロジェクトを立ち上げ他の企業や当該地域全体を巻き込む形で展開するのに向いているでしょう。

またすでに自社ビルを保有していて建て替えか拠点集約・移転を考えているときに活用することも可能です。プロジェクトファイナンスのメリットは「融資額が大規模」という点です。またノンリコースローンのため、万が一プロジェクトが失敗に終わったときでもSPCを清算するだけでよく親会社まで債務が及ばないこともメリットといえます。

一方で10億円以上の大きなプロジェクトに活用される傾向のため、ハードルが高くなる点はデメリットです。単なる不動産購入を超越した大きな事業になるため経営リソースが相当割かれることになります。

金融機関は最良のパートナー

自社ビル購入に伴うファイナンスの種類を概観してきました。事業規模が大きくなるにつれて融資の難易度は高くなる傾向のため、経営資源の投入も大きくなるでしょう。しかし4つのファイナンスを上手に活用することにより企業力は格段に高まります。資産形成を行っていくうえで大きな武器となるでしょう。

金融機関は、「ビジネスの最良のパートナー」ということを忘れてはいけません。ファイナンスを過剰に恐れる必要もなければ忌避する必要もないのです。金融機関もビジネスで融資事業を行っているため、基本的に融資意欲は旺盛といえます。金融機関を味方につけてWin-Winの関係を築くことができれば「自社ビル」という資産を築いたり企業経営の力強い支えになってくれたりすることが期待できるでしょう。 (提供:自社ビルのススメ


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