2019年9月に上陸した令和元年房総半島台風(台風15号:ファクサイ)は、東日本の広範囲で甚大な被害を与え鉄道運行にも深刻な影響を与えました。災害時に大きくクローズアップされ社会問題になったのが「出社基準問題」です。JR東日本などの首都圏の鉄道各駅が乗客であふれたことをきっかけに「台風時に出社すべきか否か」の論争が巻き起こりました。
冬の本格的到来を迎えるにあたり首都圏では降雪によって鉄道の運休および混乱が予想されます。そこで本記事では、降雪時における出社基準について確認していきましょう。
地球温暖化進行でも大雪の発生は予想されている
「地球全体は温暖化が進行している」といわれており、温暖化対策として温暖化効果ガスの削減が世界的な課題です。今後気温が上昇するのであれば以下のように感じる人もいるのではないでしょうか。
- 大雪の被害は減少するのではないか
- 降雪による交通まひは心配しなくてもよいのではないか
気象庁が中心となってまとめられた「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018」によると日本の年平均気温は、世界の年平均気温と同様に変動を繰り返しながら上昇しています。長期的には、100年あたり1.19度の割合で上昇しているのです。また1962~2016年の年最深積雪(1年間のうちの最大積雪深)の減少率は、東日本の日本海側で10年あたり12.3%、また西日本の日本海側でも10年あたり14.6%と増えているのです。つまり地球温暖化によって日本の降雪量が減っているのは、明確な事実ということです。
一方で温暖化は、大気中の水蒸気量の増加を引き起こしますが沿岸部では、雨として降るため大きな被害にはなりません。しかし冬に気温が氷点下となる本州や北海道の内陸部では、増加した大気中の水蒸気が極端な量の降雪が予想されています。
このような降雪量が「10年に一度クラスの大雪」になると見積もられているのです。そのため地球温暖化が進行し日本の降雪量が減少したとしても地域によっては極端な豪雪となる可能性は否めません。つまり「降雪による交通まひについても充分な備えが必要になる」ということです。
鉄道が雪に弱い理由
台風のような暴風雨が鉄道の運行に支障を与えるのは理解できます。しかし首都圏の場合、少量の積雪でも交通まひとなり大混乱となってしまうのはなぜでしょうか。降雪による鉄道運行の不具合が起こる理由としては、以下のようなことが考えられます。
- 線路を切り替える「分岐器」の可動部に氷雪が挟まりポイント切り替えができなくなる
- 架線の凍結によるパンタグラフの故障や架線の切断
- パンタグラフが雪の重みで上がらなくなる
- 沿線の樹木が雪の重みで倒壊
- 氷雪によりレールが滑りやすくなりブレーキ機能が低下する
特にブレーキ機能の低下現象は、避けることが困難です。この場合、鉄道各社は「運休」ではなく「間引き運転」を行うようになります。なぜなら電車の速度を制限かつ運行する本数を減らして対策とするからです。「間引き運転」が通勤時間と重なると交通ダイヤが大幅に乱れ各駅で電車に乗れない乗客があふれてしまい大行列をつくることになります。
BCPに基づく「行動基準」と「就業規則」
「雪の可能性が高いとき会社に出社すべきか」は、経営側が責任を持ってルールを定める必要があります。なぜなら判断をすべて従業員任せにした結果、従業員が通勤途中で転倒したり車通勤で交通事故を起こしたりすると企業側が「安全配慮義務違反」に問われる可能性があるからです。企業のBCP(事業継続計画)に準じて従業員の生命・健康を守る観点を盛り込んだ出社基準を定める必要が出てきます。
これは、台風・大雨時のときと同様で「行動基準」「就業規則」の2つを準備することが大切です。
行動基準
「休業」「時差出勤」「早退」「在宅勤務(テレワーク)」などの指示を「どの部署がどのような指揮系統で下すか」というルールです。
就業規則の整備
「休業」「時差出勤」「在宅勤務」などの指示を出した際、「給与や勤怠をどうするか」というルールです。例えば「災害時休業の場合は年次有給休暇の消化とする」というものがあります。
気象情報と鉄道運行状況をスピーディに把握
降雪時の出社基準を判断する際にポイントとなるのは、以下の2つです。
- 正確な気象情報をいち早く取得する
- 鉄道運行状況を把握する
正確な気象情報をいち早く取得する
気象予報は、年々正確なものになってきています。メディアの予報だけでなく気象庁のホームページを参照して正確な情報を取得しましょう。雪にまつわる警報や注意報には以下のものがあります。
警報や注意報の種類 | 発表されるタイミング |
---|---|
大雪特別警報 | 数十年に一度レベルの大雪が予想される場合に発表 |
大雪警報 | 降雪や積雪による住家等の被害や交通障害など大雪により重大な災害が発生するおそれがあると予想したときに発表 |
大雪注意報 | 降雪や積雪による住家等の被害や交通障害など大雪により災害が発生するおそれがあると予想したときに発表 |
着氷注意報 | 著しい着氷により災害が発生するおそれがあると予想したときに発表 |
着雪注意報 | 著しい着雪により災害が発生するおそれがあると予想したときに発表 |
融雪注意報 | 融雪により災害が発生するおそれがあると予想したときに発表 |
低温注意報 | 低温により災害が発生するおそれがあると予想したときに発表 |
鉄道運行状況を把握する
近年は、鉄道各社が前もって運休を発表する「計画運休」を行うようになってきました。例えば2020年9月の台風10号接近の際は、JR西日本、JR九州が新幹線の計画運休を発表しています。そのため災害が懸念されるときは、鉄道各社の発表を注意深く取得するようにしましょう。また前述したように運休ではなく「間引き運転」のケースも予想されるため、注意が必要です。
実際は、間引き運転のほうが多くの混乱を招くことが予想されるため、各駅の情報を照らし合わせつつ出社時間の決定を柔軟に行うようにしましょう。
テレワーク体制の整備
恒常的な対策としてテレワーク(リモートワーク)の導入・整備といった対策も考えられます。2020年は、新型コロナウイルス感染症対策の一環としてテレワークが爆発的に拡大しました。通勤時や就業時の人と人との接触機会を減らす観点から運用されたものですが、企業のBCPの観点からもテレワークは積極的に活用されるべきものです。
当然、降雪時の交通まひの際にも援用されるものといえます。例えばA社では、BCPの一環で2017年4月から全社員を対象にテレワークを導入しました。自宅で業務が行えるよう従業員へ軽量のノートパソコンを提供し2019年9月の令和元年房総半島台風(台風15号)の際には、出社した従業員を帰宅させて多くの従業員が自宅で業務を行うことができました。
テレワークの推進は「強いられた選択」というよりも働き方改革の一つとして「多様で柔軟なワークスタイル」の実現としてポジティブに捉えるべきものです。企業にとっては、生産労働人口の減少が続く中での優秀な人材確保のため、多様で柔軟なワークスタイルの実現は必要不可欠になるといえるでしょう。
アクセスの良い都心にサテライトオフィスを
BCPの一環としては、テレワーク体制の整備と同時進行で「サテライトオフィスの設置」という手法もあります。サテライトオフィスは、本社や本拠地から別の場所に設置する小規模なオフィスのことです。本社機能の一部をシェアしてリスク分散することができます。降雪時の交通まひが発生して本社への通勤が不可能でもサテライトオフィスへの通勤はできる状況にすることも可能です。
また自宅でのテレワークには適さないセキュリティ度の高いデータの取り扱いもサテライトオフィスであれば可能になるシーンもあるでしょう。サテライトオフィスの設置は、シェアオフィスを借りるなどの方法もありますが中長期的な戦略を検討しているのであれば「自社ビルとして保有する」ということも選択肢の一つです。
オフィスは、賃借すれば「費用」にしかなりませんが保有すれば「資産」となります。BCPとCRE(企業不動産)戦略を組み合わせアクセスの良い都心にサテライトオフィスを保有することで、より一層柔軟な企業経営の実現が考えられます。
こうした観点からも、BCP対策として出社基準を明確にすることは非常に重要です。本格的な降雪シーズンとなる前に、降雪時の出社基準設計に取り組んでみてはいかがでしょうか。(提供:自社ビルのススメ)
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