近年、梅雨時期の大雨による水害が多くなってきています。積乱雲が連続して発生して線状に並び長らく停滞して集中豪雨をもたらす「線状降水帯」が大きな災害をもたらしているのです。2020年7月3日~14日にかけて発生した「令和2年7月豪雨」では、熊本県を中心に九州・中国・四国地方などで死者82名、行方不明4名、住宅全壊272棟、床上浸水7,756棟という甚大な被害がもたらされました。(2020年8月4日午前8時時点)

地球温暖化・気候変動の影響もあり、日本の夏における水害は台風以外でも毎年のように発生しており最大限の注意が必要になってきています。

脅威となっている「都市型水害」

都市型水害リスク
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

近年、特に懸念が高まっているのが「都市型水害」と呼ばれるものです。2019年10月の台風19号では、武蔵小杉(神奈川県川崎市)のタワーマンションで地下の電気設備への浸水が発生し停電と断水によって住民が大変な苦労を強いられました。これは、都市型水害の典型といえるでしょう。一般的に都市の道路はアスファルトで舗装され、建物はコンクリート製のものが密集しています。

自然な土に比べると保水・遊水機能が低下しているため、局地的な豪雨が発生すると雨水が一気に低い場所へ流れ込むことになるのです。道路脇の側溝から下水道や中小河川へ流れ込んだ雨水が容量をオーバーすることであふれ出し、「道路」「低地の冠水」「地下街」「アンダーパス部分」などに浸水被害を及ぼしています。

東京23区内の下水道は明治時代に敷設されたものが多いと言います。「合流式」は「し尿・生活排水」と雨水が一緒に流れ込む仕組みのため、大雨が降ると下水が逆流し雨水とともにし尿・生活排水があふれ出す現象が発生しかねません。また都市型水害はガスや電気、交通、通信など都市特有のインフラに被害を与えることが特徴として挙げられます。

雨水自体が少なくても、インフラが被害を受けると経済的な損失が大きくなってしまう可能性があるのです。例えば、データセンターが浸水に遭いデータを消失してしまうと、被る損失は計り知れないものになります。

最悪のシナリオは「荒川の決壊」

東京都を例に挙げると、都市水害における最悪のシナリオは「荒川の決壊」です。内閣府が発表した「荒川右岸低地氾濫の被害想定」によると、以下のような被害が想定されています。

浸水面積約110平方キロメートル
浸水区域内人口約120万人
死者数約2,000人
孤立者数最大約86万人
地下鉄などの浸水被害17路線、97駅(約147キロメートル)

また東京都の墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区で組織する「江東5区広域避難推進協議会」の想定によると、床上浸水の被害に遭う浸水想定区域内の居住人口は全体の約9割以上の約250万人にまで及ぶとされているのです。

(参照:内閣府「首都圏における大規模水害の被害想定結果の概要」
(参照:江戸川区「江東5区大規模水害広域避難計画 概要」

水害リスクを見極めるための4つのポイント

「自社ビルか、住宅か」「企業か、個人か」に限らず、不動産には天災リスクが必ずつきまといます。水害リスクを含むさまざまなリスクを踏まえたうえで、不動産の保有者はリスクマネジメントを図りベネフィット(利点)とのバランスを見極めていくことが肝要となるでしょう。

オフィス選定における「立地」というのは最重要事項です。ここでは以下の4つのポイントを詳しく見ていきましょう。

  • 自治体が発行する洪水ハザードマップを必ず確認する
  • 地名に「沼」「窪」「池」など低地・湿地が想定されるところは要注意
  • 水害に強い建物(なるべく高層)や設備を選択する
  • 火災保険に水災オプションを付ける

1.自治体が発行する洪水ハザードマップを必ず確認する

各市区町村は基本的に「洪水ハザードマップ」を作成しています。そのため不動産を購入したり賃借したりすることを検討している場合は、洪水ハザードマップを事前に必ず確認しましょう。もし想定浸水深が50センチメートル以上であれば、いざというとき床上浸水が予想されるため避けたほうが無難です。

ちなみに2020年8月28日からは宅地建物取引業法が改正され、不動産取引の際の「重要事項説明」において水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明が義務化されたことも押さえておきましょう。

2.地名に「沼」「窪」「池」など低地・湿地が想定されるところは要注意

山地が多く、雨が多く降る日本列島に住み続けている日本人は、昔から水害と共生してきました。先人の知恵の一つとして、地名にその土地の特徴を書き込んでいることがあります。国土地理院によると、水がたまりやすい場所を表す地名として以下の例を挙げています。事前に認識し、対処法を準備しておきましょう。

水がたまりやすい場所を表す地名例

語句地名例
イケ溜池、池尻など
カワチ河内、川内など
クボ大久保、荻窪など
フクロ池袋、袋田など

湿地や氾濫原を表す地名例

語句地名例
カモ加茂、鴨川など
ケミ検見川、花見など
シュク宿河原、宿毛など
ソネ曽根、大曽根など
ヌタ怒田、沼田など
ワダ和田、十和田など

詳しくは、国土地理院コラム「地名と水害」を確認してみましょう。

3.水害に強い建物(なるべく高層)や設備を選択する

一般的にオフィスビルはRC(鉄筋コンクリート)製のため、物理的には「水害に強い」といえるでしょう。窪地のように水がたまりやすい立地の場合は、「オフィスをなるべく高層階にする」という対処法があります。また電気設備を高層階に移すことも重要です。もし建物の主要な電気系統設備がすべて1階や地下に設置されていると、ビルに入居している企業すべてのサーバーがダウンしデータが消滅する可能性が出てきます。

1階部分には、強力な水圧にも耐えるシャッターを設置することも有効な対策となるでしょう。

4.火災保険に水災オプションを付ける

火災保険はビルオーナーにとって必須です。各保険会社は「水災(水害)オプション」を用意しています。水害発生の頻度を考えると水災オプションを付けるのはスタンダードといえるでしょう。

オフィスは水害リスクも見込んで選定しよう

水害リスクは地震リスクと違い、ある程度の事前の予想が可能となります。そのため、「賃貸オフィスか、自社ビルか」「立地はどこにすべきか」などのオフィス選定を行う際には、今回紹介した次の4つのポイントを踏まえてリスクマネジメントを行うことをおすすめします。

1.自治体が発行する洪水ハザードマップを必ず確認する
2.地名に「沼」「窪」「池」など低地・湿地が想定されるところは要注意
3.水害に強い建物(なるべく高層)や設備を選択する
4.火災保険に水災オプションを付ける

これらを押さえておけば、リスクコントロールが可能となり、東京都心の商業地に自社ビルを保有するメリットを享受できるでしょう。(提供:自社ビルのススメ


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