どんなに優秀な製品やサービスを提供し続けている企業であっても、業績不振になることはあるものです。今回のコロナショックのように、まったく予想できなかったことが突然起こり、企業経営に甚大な影響を及ぼすことがあるからです。

企業経営が危機に陥ったとき、その再生のために重要なのが「資金繰り」です。この記事では、企業が保有する不動産を活用した「アセットファイナンス」、特に不動産を売却した後も物件を利用できる「リースバック」という手法について解説します。

資金調達の3つの方法

リースバック
(画像=boggy/stock.adobe.com)

企業にとって資金調達は、不可欠な活動の一つです。経営が危機的状況になると、重要度はさらに増します。企業の資金調達の方法は、以下のように大きく分けて3つあります。

  1. エクイティファイナンス(Equity Finance)
  2. デットファイナンス(Debt Finance)
  3. アセットファイナンス(Asset Finance)

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

1.エクイティファイナンス

エクイティファイナンスとは、企業が新規株式を発行することによって事業に必要な資金を調達する方法です。具体的には、公募・私募による普通株式発行や新株引受権付社債(株式に転換できる権利が付いた社債)、優先株式(普通株式より剰余金の配当を優先的に受ける株式)の発行などがあります。

貸借対照表では、「資本を増やす」行為です。企業にとって返済義務のない資金調達であることが特徴で、必然的に財務体質が強固になります。

一方で、既存株主にとっては1株当たりの価値が下がるおそれがあるので、エクイティファイナンスに抵抗を示すケースも少なくありません。したがって企業には、株主に対して納得のいく説明が求められるでしょう。また、株式が第三者に取得されることによって、企業の支配権を握られてしまうリスクもあります。

新規の投資家が将来性と成長性を感じられるような事業計画を示すことができなければ、この資金調達方法は「絵に描いた餅」になってしまいます。この部分が、基本的かつ最大の課題と言えます。

2.デットファイナンス

デットファイナンスは「借入金融」とも呼ばれ、企業再生のための資金調達としては最も知られている方法でしょう。具体的には、金融機関からの借入やシンジゲートローン(複数の金融機関が協調して行う融資)、社債発行、私募債発行などがあります。

すでに借入がある場合は、追加融資や条件変更(リスケジュール)、借換などもあります。

貸借対照表では、「負債を増やす」行為です。最もポピュラーな方法なので、選択肢が多いことが特徴です。数多くの金融機関が、さまざまなローン商品を提供しています。株式発行とは違って経営権が第三者に握られることはなく、既存株主の承認を得ずに進められることもメリットの一つです。

しかし、エクイティファイナンスと違ってデットファイナンスには返済義務があります。また、支払利息が負担になることにも注意しなければなりません。

また、景気動向や社会情勢、金融機関の業績によっては「貸し剥がし」(期限よりも前に融資の返済を求めること)が起こらないとも限りません。貸し剥がしにあうと、資金繰りに窮し経営が厳しい状況になりかねません。最悪の場合は、廃業といったことも視野に入ってくることを覚えておきましょう。

3.アセットファイナンス

アセットファイナンスとは、企業が保有する不動産などの資産を活用した資金調達方法です。資産から生み出されるキャッシュフローを返済原資とするもので、不動産だけではなく企業の保有している「売掛債権」などを担保とすることもあります。

貸借対照表では、「資産を現金化する」行為です。種類としては、ABS(Asset Backed Security、資産担保証券)やABL(Asset Backed Loan、動産・債権担保融資)などがあります。

リースバックという資金調達方法

経営がピンチに陥った企業にとって、新規投資家を募集しなければならないエクイティファイナンスはハードルが高いでしょう。デットファイナンスに頼りたくても、金融機関から難しい条件を突きつけられて折り合いがつかないかもしれません。こうしたことから、近年では企業再生に有効な資金調達としてアセットファイナンスが注目されています。不動産を保有する企業にとっては、比較的スムーズに資金調達ができるからです。

アセットファイナンスの一つに、「リースバック」(Sale and Leaseback)という手法があります。これは、自社オフィスとして使用している保有不動産を売却して現金を入手した後、新しいオーナーと賃貸借契約を結んで物件をそのまま使用し続ける方法です。

リースバックの4つのメリット

リースバックのメリットは、以下のとおりです。

・金利負担なく資金調達ができる
保有する不動産を売却するため、まとまった現金が手に入ります。これは売却代金なので当然金利はかからず、返済義務もありません。

・住所を変えなくても済む
売却後もそのまま物件を使用できるので、住所を変える必要がありません。本社や支社のアドレスを変えずに営業を続けられるので、引越しのコストもかかりません。

・不動産保有に伴うコストの削減
固定資産税や物件の維持管理費など、不動産の保有に伴うコストを削減できます。貸借対照表から不動産という資産を外す(オフバランス)ことで、一定のリスクをヘッジすることになります。

・将来買い戻すこともできる
「買い戻し特約」を付けることで、将来事業が安定した際にその不動産を買い戻すことができます。

リースバックの3つのデメリット

一方で、リースバックには以下のようなデメリット(注意点)もあります。

・ローン残債が売却額を上回る場合は成立しない
当該不動産をローンで取得していた場合、そのローン残債が売却額を上回ると追加で資金を投入することになり、資金調達として成立しません。

・賃料が発生する
売却後はオーナーから賃借人という立場に変わるため、新オーナーに毎月賃料を支払わなければなりません。賃料以外の管理費なども支払うことになります。

・買戻し額が売却時より高くなることがある
将来買い戻しを考えていたとしても、市場の変化などによって売却した時の価格よりも高くなってしまうことがあります。

不動産はいざというときの強い味方

どんな企業でも、「あらかじめ約束された安定経営」などありません。常に不確実性の中を走り続けているのが企業なのです。そんな企業にとって、いざというとき頼りになるのが保有不動産です。

企業不動産(CRE)戦略においては、企業価値の向上のために不動産の売買、貸借を効率化することが問われますが、その戦略の中に将来のアセットファイナンスの活用も組み込んでおくべきでしょう。企業不動産の中でも、その資産性・収益性・成長性から見て東京都心の商業地に建つ自社ビルは、最有力候補になります。都心の自社ビルを企業資産ポートフォリオに加えることを検討してみてはいかがでしょうか。(提供:自社ビルのススメ


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