コロナ禍をきっかけに企業経営における「リスクマネジメント」が改めて意識されるようになりました。多くの企業が事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を策定しそれに基づいて行動してきたわけですが、パンデミックによる事業継続の制約は大半の企業にとって「青天の霹靂(へきれき)」と言えるものです。
特に緊急事態宣言による外出自粛・出勤停止など働き方や従業員の生活様式が大きく変わることへの対応は困難を極めました。リモートワークの推進やマスク・消毒液などの備蓄だけでなくソーシャルディスタンシングに基づいたオフィスの再整備、従業員(家族を含む)が感染した場合の対応方法なども各企業にリスクマネジメントの見直しを迫るものとなったのです。
今回は、リスクマネジメントという切り口から企業不動産(CRE)戦略について考えてみましょう。
そもそもリスクとは何か
リスクマネジメントとは、何でしょうか。中小企業庁の定義によると、企業におけるリスクマネジメントとはリスクを組織的に管理し損失などを適切に回避・低減を図るプロセスを指します。つまり、企業が経営を行っていくうえで障壁となるリスクを正確に把握し、事前に対策を講じることで危機発生を回避するとともに危機発生時の損失を極小化するための経営管理手法です。
さらにもっと手前から考えてみましょう。そもそもリスクとはどういったことを指すのでしょうか。リスクという言葉は、日本語では「危険」「危機」と訳されることが多い傾向です。そのため「リスクは回避すべきもの」というのが認識を持っている人が多いのではないでしょうか。しかしもともとのリスクの意味を考えると「不確かさ」と訳したほうがしっくりきます。
ちなみに日本工業規格(JIS Q 31000:2019)の定義におけるリスクは「目的に対する不確かさの影響」です。さらに「不確かさ」は「影響度」と「発生頻度」に分解することができます。リスクは影響度と発生頻度の組み合わせなのです。そのためリスクを定式化すると以下の式になります。
- リスク(Risk)= 影響度(Impact)× 発生頻度(Probability)
例えば以下のように定量化して比較することができます。
- 年に数回発生して経営への影響度が低い「リスクA」
- 発生頻度は数十年に1回程度で経営に致命的な影響を与える「リスクB」
もう一つ重要なことは「リスク・ベネフィットの原則」です。ベネフィットとは、日本語で「利益・便益」などと訳されますが、リターンやゲインと呼ばれることもあります。リスク・ベネフィットの原則で最も分かりやすい例が薬の服用です。「薬を服用することで症状が改善し病気が治る」といった作用がベネフィットになります。
一方、薬の服用の仕方や服用する人の体質によっては副作用が生じる可能性もあるでしょう。これが薬の服用における「リスク」です。このように考えると「リスクは回避すべきもの」だけではなく時には「許容すること」によりベネフィットを得ることができることが分かります。不動産保有に限らず企業経営において本来、「ゼロリスク」ということはあり得ません。
事業拡大への挑戦を恐れず、時にはあえてリスクを許容することで将来の企業価値の向上を目指す場面も訪れるでしょう。その際に考えられるリスクを分析して把握し、リスクを軽減する手立てを実施することで将来の企業価値を守るのが企業におけるリスクマネジメントなのです。
不動産リスクマネジメントの重要性
リスクマネジメントは、コロナショックのような危機が発生してから発動されるものではありません。日常の企業経営の中に位置づけられるべきものです。企業経営に潜むリスクはさまざまなものがあるため、リスクマネジメントは非常に幅の広いものになります。
ここでは不動産におけるリスク、とくに企業にとっての不動産リスクについて考えていきましょう。企業にとって不動産は、経営資源となる「ヒト」「モノ」「情報」を包む「器」の役割を果たすだけでなく保有不動産の場合は不動産自体が資産となります。自社が使用するのではなく第三者に賃貸すればインカムゲインを生む収益不動産にもなり得るわけです。しかし不動産を保有することは、一定のリスクを抱えることも意味します。
企業不動産に関するリスクは、購入時の金額の大きさばかりではありません。「外部性(市場を通さずに第三者に何らかの影響を与えていること)」を考えるならば社会的責任と企業ブランドに与える影響は甚大です。
一方、金融市場における株式・債券などのリスクマネジメントは、以前からその取り組みについて数多くの研究がなされ手法も広く普及しています。
例えばVaR(バリューアットリスク/予想最大損失額)などの金融工学の発展とともに金融機関のリスク管理体制が整備されているのです。一方、不動産市場に関しては、確立されたリスクマネジメント手法の普及が遅れていたのは事実といっていいでしょう。情報の透明性や信頼性においても金融市場と比べると劣っていたことも否めません。
近年ではそのことが見直され、不動産リスクマネジメントの確立が官民挙げて進めてられているのです。例えば、国土交通省が主催する「不動産リスクマネジメント研究会」もその一つです。
不動産における4つのリスク分類
不動産におけるリスクの分類方法はいくつかありますが、ここでは前述した国土交通省「不動産リスクマネジメント研究会」の分類法に準拠して見ていきましょう。同研究会では、不動産リスクを以下の4つに大別しています。
- 物理的リスク
- 法的リスク
- 管理運営リスク
- 市場リスク
1.物理的リスク
物理的リスクは、不動産の物理的な側面に影響を受けるリスクです。物理的リスクはさらに災害リスク、環境リスクに分けることができます。災害リスクは、地震や風水害、事故火災などの災害によるリスクです。環境リスクは、土壌汚染やアスベスト、地下埋設物、周辺環境などによる不動産の物理的損傷を指します。
2.法的リスク
法的リスクは、法令・規制への対応に伴うリスクです。違法性が確認できないリスクや法規制・税制・会計制度変動によるコストの発生を指します。
3.管理運営リスク
管理運営リスクは、不動産の管理運営に関するリスクです。空室リスクや賃料下落リスク、入居者信用リスクなどが含まれます。
4.市場リスク
市場リスクは、以下の4つに細分化できます。
- 不動産価格の変動による損失が発生する「不動産市場変動リスク」
- 債務不履行に陥る「信用リスク」
- 借入金利が上昇する「金利リスク」
- 必要なときに売却して換金できない「流動性リスク」
また、市場リスクは不動産市場のみならず金融市場全体の影響を受けることになります。前述のリスク分類に沿って見ていきましょう。
リスクマネジメントの視点からCRE戦略を考える
不動産リスクマネジメントの視点からCRE戦略を考えるとどのような解が導き出せるか考えてみましょう。物理的リスクについては、物件・立地の選定を慎重に行うとともに保険に入ることによって「リスクの移転」ができます。法的リスクへの対応は、信頼できる取引相手(または不動産仲介会社)との取引が必須です。
しかし場合によってはセカンドオピニオンを利用することもあり得ます。管理運営リスクや市場リスクへの対応は、まさに「物件の力」が試されることになるでしょう。例えば「東京都心の中規模オフィスビル」は、リスク回避に適した物件の一つです。その理由は、主に以下の3つになります。
- 希少性と将来的な資産性
- 企業ブランドの向上
- 不動産賃貸業を行ったときの事業性
1.希少性と将来的な資産性
モノの価値は、需要と供給によって決まり不動産もその原則にしたがっています。東京都心の商業地は、開発可能な土地に限りがあるため、供給過多になる可能性が低い傾向です。人口流入と需要の高さにより需要と供給のバランスがメリットとなります。つまり希少性によって将来的な資産価値向上が期待できるのです。
2.企業ブランドの向上
以上のような東京都心の商業地は当然ながら高いブランド効果を発揮します。希少性の高い商業地にオフィスを保有するということは、それだけで格付けが向上することでしょう。
3.不動産賃貸業を行ったときの事業性
需給バランスが有利な東京都心の中規模ビルは、市場競争による賃料下落が起きにくいため、高い賃料を長期間維持しやすい傾向です。自社使用分以外のスペースをテナントに賃貸することで本業以外の収益を安定的かつ継続的に得られるようになります。
適切な不動産のリスクマネジメントで成功へ導く
適切な不動産のリスクマネジメントは、さまざまなベネフィットを得ることが期待できます。企業は多くのリスクに包囲されていますが、それは「失敗の可能性」と「成功の可能性」の両面に囲まれているといえるでしょう。CRE戦略を検討しているのであれば、不動産のリスクマネジメントは欠かせません。
企業不動産を有効活用するためにも、不動産リスクマネジメントを適切に行い成功へ導いていきましょう。 (提供:自社ビルのススメ)
【オススメ記事 自社ビルのススメ】
・「都心にオフィスを持つ」を実現するには
・資産としてのオフィスを所有し戦略的に活用するには
・今の時代は「オープンフロア・オフィス」そこから生まれるイノベーションへの期待
・自社ビルのメリット・デメリット
・CRE戦略としての自社ビル