2020年に起きた新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、社会や生活に多くの影響を及ぼしました。そのなかの1つとして挙げられるのが、リモートワーク(テレワーク)の普及です。もとよりリモートワークは国も働き方改革の一環として推進をしてきており、それが「コロナ禍」による感染防止の観点から人の接触を減らす目的で一気に注目を集めるようになりました。

「コロナ禍」という大きなきっかけがあったことでリモートワークは急速に普及が進みましたが、その一方で働き方の1つとして定着しているかというと、そうともいえない企業も多く見られます。これには日本人の国民性や企業風土なども関係しているといわれていますが、実際の導入状況はどうなのでしょうか。

本稿ではリモートワークの導入状況や実際に導入した企業の本音、「続けるべき理由」と「続けるべきではない理由」の対比などについて解説していきます。今後本格的にリモートワークを導入していくべきなのか、標準的な働き方として定着させるべきなのか、その判断にお悩みの経営者の皆さんに役立つ情報を網羅しました。

リモートワーク
(画像=romolo-tavani/stock.adobe.com)

目次

  1. 1.「コロナ禍」以降のリモートワーク事情
    1. 1-1.リモートワークの定義
    2. 1-2.リモートワークの導入状況
    3. 1-3.「コロナ禍」はリモートワーク普及の契機になるか
    4. 1-4.なぜリモートワークがここまで注目されるのか
  2. 2.リモートワークの主なメリットとデメリット
    1. 2-1.経営者側から見たメリット
    2. 2-2.経営者側から見たデメリット
  3. 3.多くの企業が感じている、リモートワークをしてみて気づいたこと
    1. 3-1.社員からは総じて好評である
    2. 3-2.やってみると意外に難しい
    3. 3-3.優秀な人材の確保、社員の退職防止
    4. 3-4.リモートワークの導入事例
  4. 4.リモートワークを始める、続けるべき理由
    1. 4-1.中小企業のほうがリモートワークの恩恵がある
    2. 4-2.補助金、助成金があるので始めるチャンス
    3. 4-3.慢性化、深刻化する人手不足の解決策になる
    4. 4-4.本格的なリモートワークの普及に対応できる
  5. 5.リモートワークをやらない、続けないほうが良い理由
    1. 5-1.リモートワークは万能ではない
    2. 5-2.ITリテラシーの向上に現実味がない
    3. 5-3.業務の性質上、リモートワークには不向き
    4. 5-4.経営者の存在がより孤独になる
  6. 6.リモートワーク導入にかかる主なコスト
    1. 6-1.通信インフラのコスト
    2. 6-2.セキュリティのコスト
    3. 6-3.Web会議ツールのコスト
    4. 6-4.Webカメラ
    5. 6-5.社員側の通信インフラ
  7. 7.リモートワーク導入で削減できる主なコスト
  8. 8.まとめ

1.「コロナ禍」以降のリモートワーク事情

リモートワーク
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新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために有効であるとして世界各国では厳しい外出の制限や自粛が行われ、その一環として在宅勤務を推進する流れが起きました。リモートワークの概念や仕組み自体はもとからあったものですが、在宅勤務を推奨する流れのなかで注目度が高くなり、「コロナ禍」を契機に導入した企業も少なくありません。「コロナ禍」以降のリモートワーク事情がどうなっているのかを、客観的なデータを交えながらご覧いただきましょう。

1-1.リモートワークの定義

リモートワークとは、リモート(遠隔)で仕事をする(ワーク)から生まれた造語で、国などが用いているテレワークとほとんど同じ意味で使われています。完全にリモートワーク化する企業もあれば、週のうち数日をリモートワークにするなど部分的な導入をする企業、さらにはサテライトオフィスなどを設けて1ヵ所に人が密集しないようにするなど、さまざまな働き方が生まれました。

ワーケーションといって休暇をとりながら旅先などで仕事をする概念も登場し、「コロナ禍」はある意味で、多様な働き方が提案される契機となった部分があります。

1-2.リモートワークの導入状況

「コロナ禍」によってリモートワークはどの程度導入が進んでいるのでしょうか。

株式会社NTTデータ経営研究所とNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に、東京都など7都府県に安倍総理大臣が法律に基づく「緊急事態宣言」を発令した4月7日からの4日間で「緊急調査:パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方に関する調査」を実施しました。その結果に興味深い傾向が表れています。

この調査結果ではテレワーク(リモートワーク)を平時と緊急の2種類に分けて、「コロナ禍」によって急速に普及したリモートワークのことを「緊急テレワーク」と表現しています。緊急テレワークが2020年1月から4月にかけてどのように拡大していったかが示されています(下表参照)。

テレワーカーがテレワークを行う場所(単位:人)

自宅自社・自社グループ専用として利用できるオフィススペース(専用型サテライトオフィス)複数の企業がシェアして利用できるオフィススペース(共有型サテライトオフィス)カフェ知人・友人の家総数
2020年1月まで(N=213)1625617163254
2020年2月(N=288)2137926155338
2020年3月(N=373)3037422197425
2020年4月(N=453)3976418136498

出典:NTTデータ経営研究所・NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション「緊急調査パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方に関する調査」(2020年4月20日)」

これは「どこでテレワークをしているのか」という勤務場所に関する集計結果ですが、その全体数が毎月のように急増していることが見て取れます。

続いて日本経済新聞に掲載されたパーソル総合研究所の調査「第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」の結果では、「コロナ禍」による緊急事態宣言の解除後、5月29日にはリモートワークの実施率が30.5%でしたが、6月1日には23.0%まで下がっています。6月に入ってもほぼ4社に1社は何らかの形でリモートワークを導入していることが明らかになりました。

もうひとつ、業種別のリモートワーク導入状況を見てみましょう。こちらは慶應義塾大学経済学部大久保敏弘と(公財)NIRA 総合研究開発機構が共同調査した「『新型コロナウイルスの感染拡大がテレワークを活用した働き方、生活・意識などに及ぼす影響に関するアンケート調査』に関する報告書」ですが、興味深いのは2020年1月時点と3月時点のデータを調査している点です。2020年1月時点では「コロナ禍」による影響を織り込んでいませんが、3月時点ではそれが織り込まれているため、「コロナ前」と「コロナ後」の比較ができます。

産業別のテレワーク利用率(単位:%)

業種2020年1月時点の利用率2~3月にかけての利用率の増加分
情報サービス・調査業を除く通信情報業(n=400)1710
情報サービス・調査業(n=332)148
製造業(出版、印刷を含む)(n=1,742)87
金融・保険業(n=415)94
電気・ガス・水道・熱供給業(n=160)93
鉱業・建設業(n=608)84
その他のサービス業(n=1,681)73
その他(n=483)73
農業・漁業・林業・水産業(n=123)90
不動産業(n=294)53
卸売・小売業(n=1,239)34
教育・学習支援業(学校教育を含む)(n=553)33
運輸業(n=487)32
公務(国家公務、地方公務)(n=468)31
飲食業、宿泊業(n=390)22
医療・福祉(n=1,141)20

出典:「新型コロナウイルスの感染拡大がテレワークを活用した働き方、生活・意識などに及ぼす影響に関するアンケート調査」に関する報告書(NIRA総研)

情報関連の産業ではもとからリモートワークとの親和性が高く、「コロナ禍」への対策としてスムーズに導入が進んだと容易に想像ができますが、それ以外の製造業、教育、飲食・宿泊などの業種でリモートワークの伸びが大きいのは、「コロナ禍」の影響を受けて緊急的にリモートワーク化を進めたことが数字に表れていると同調査では考察しています。

従来はいわゆるIT関連を筆頭に普及が進んできていたリモートワークですが、「コロナ禍」によってほかの多くの産業にも背中を押されるように波及し、現場にはそれに対する多少の戸惑いもあることを垣間見ることができます。

1-3.「コロナ禍」はリモートワーク普及の契機になるか

「コロナ禍」による切迫したニーズが生まれたことによってリモートワークは急速に拡大したわけですが、重要なのはその後です。先ほどご紹介した日経新聞の記事では緊急事態宣言の解除後にリモートワークの実施率が23.0%(2020年6月1日)に低下していると指摘していますが、同じパーソル総合研究所の調査である「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」の第1回目によると、「コロナ禍」前の3月半ば時点で13.2%のテレワーク実施率であるため23.0%でも高い実施率です。

「コロナ禍」の前までは国が働き方改革の一環として旗振りをするも、リモートワークが本格的に普及する潮流は起きていませんでした。きっかけがウイルスの蔓延なので決して喜ばしいことではありませんが、「コロナ禍」を契機にリモートワークのメリットに気づいた企業や働き手も多く、今後はゆるやかではあるものの普及がさらに進んでいくと考えるのが妥当でしょう。

1-4.なぜリモートワークがここまで注目されるのか

リモートワークがここまで注目を浴びるようになった最大の理由は新型コロナウイルスの感染拡大防止に役立つというものですが、実際にやってみると意外にメリットが多いというのも共通する認識だと思います。

仕事だけに限らずオンライン飲み会と呼ばれる楽しみ方も流行し、自宅にいながら仕事をしたり飲み会をしたりするといったライフスタイルが目新しいだけでなく、多くの人にとってメリットを感じやすいものだったことは間違いありません。

企業活動においてリモートワークのメリットは、経営側や労働者側など一方的なものではなく、労使双方に及びます。次章ではそのメリットとデメリットについて解説します。

2.リモートワークの主なメリットとデメリット

リモートワーク
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リモートワークを導入することで考えられる主なメリットとデメリットをそれぞれ経営者目線で整理しました。ここでご紹介しているメリットとデメリットについて詳しく解説している記事がありますので、さらに深掘りをしたい場合はそちらも併せてお読みください。

2-1.経営者側から見たメリット

企業の経営者から見たリモートワークのメリットは、主に5つあります。

・経営コストの削減
オフィスの固定費、通勤コストの削減、さらには紙の書類からの脱却で事務コストも削減可能です。

・生産性が向上する
「仕事のための仕事」と揶揄されるような無駄な業務が洗い出され、本業に専念しやすくなります。

・働き方の多様性を実現
多様な働き方を容認することで優秀な人材の確保につながり、子育てや介護など社員の生活状況が変わっても働き続けられる環境を構築できます。

・人事評価の可視化、透明性の向上
仕事をした量、要した時間が可視化されます。会社に来ることが仕事になってしまっているような生産性の低い社員が可視化されます。一方、以前は容易にできた社内のコミュニケーションが難しくなる面があります。公正な人事評価を実現させるためには、「量」に加えて、「質」にも着目しなければならないでしょう。

・リスクに強い経営の実現
「コロナ禍」を契機に社員が出社できなくなるリスクが顕在化しました。リモートワークはこうした問題を解決し、BCP(事業継続計画)の一環としてリスクに強い経営が実現します。

2-2.経営者側から見たデメリット

次に、リモートワークの導入で考えられるデメリットについても挙げてみましょう。

・勤怠管理が困難になる
タイムカードなどで勤務時間を管理しているわけではないので、従来の方法では勤怠管理が困難になります。このことは、従来の時間だけで勤怠管理をするという考え方から脱却する必要性を示唆しているかもしれません。

・社員同士のコミュニケーションが希薄化する
人同士による対面のコミュニケーションでは、仕事の話以外にもさまざまな会話が交わされ、これもコミュニケーションの活性化に一役買っている部分があります。リモートワークは業務の無駄を洗い出す一方で、このようにコミュニケーション活性化に資するような会話も無駄であるとして排除してしまう可能性があります。この問題への対策としては完全リモートワークではなく部分的な在宅勤務にしたり、グループウェアなどを活用して業務以外の些細なコミュニケーションも促すような仕組みを作ったりすることが必要になるでしょう。

・情報漏洩などセキュリティ低下の懸念がある
社外に持ち出し禁止の情報であってもリモートワーク化が進むと必然的に社外で取り扱うことが多くなります。それゆえにセキュリティの穴ができやすく、情報漏洩のリスクが高まるという指摘があります。ハード面でのセキュリティ強化はもちろんですが、それを利用する人的なリテラシーの向上も課題となるでしょう。

3.多くの企業が感じている、リモートワークをしてみて気づいたこと

リモートワークを実際にやってみて初めて気づくことは、多々あるものです。ここでは、リモートワークを実際にやってみて気づいたことに関する声をまとめてみました。

3-1.社員からは総じて好評である

リモートワークを導入することによって、多く聞かれるのは「社員からは総じて好評」という声です。満員電車に揺られて毎日同じ時間に会社に行くことがないため自分の時間を持ちやすく、家族との時間が増えた、服装に気遣うことが減ったといったように、こうした声が多いことは経営者の皆さんも意識しておくべきことだと思います。

3-2.やってみると意外に難しい

社員からは総じて好評である一方で、経営側、社員側双方から「やってみると意外に難しい」という声も聞かれます。そういった声の理由には、以下のようなものがあります。

  • 時間あたりの生産性は向上したが長時間は続かない
  • リモートツールによってはコミュニケーションに難がある
  • 業種によって向き不向きがある
  • 仕事ができる社員とそうでない社員に二極化した
  • 新人教育や人材育成が難しくなった

すでにリモートワークを一部だけでも導入している企業にとっては、こうした声の中に心当たりがあるものが含まれていると思います。まだ導入していない企業にとっても、どことなく想像している懸念ではないでしょうか。

3-3.優秀な人材の確保、社員の退職防止

リモートワークは働き方を多様化する一環として活用されています。出社しなくても業務を成立させることができるのは、仕事を続けたい意思があるのに何らかの事情によって退職せざるを得ない人にとって、働き続けることができる可能性をもたらします。

それと同時に、新規に入社する人からも多様な働き方を提示した人が多様な人材を採用できる可能性が生まれますし、その中から優秀な人材を確保できる可能性も高まります。

3-4.リモートワークの導入事例

2019年に総務省が「地域企業に学ぶテレワーク実践事例集」という資料を作成しています。ここには実際にリモートワークを導入した企業の事例が掲載されていますので、ここから「実際に導入した企業の声」を抜粋してみました。

①通勤時間が長くなりがちな北海道で優秀な人材の確保に成功(株式会社流研)

北海道はとても広く、家と職場が遠いことが少なくありません。そのため通勤時間が長くなりがちですが、それをリモートワークが解決し、育児休暇を終えた社員の退職を防止する効果を生みました。

②女性の多い職場でライフステージに合わせた働き方を実現(株式会社キャド・キャム)

設計図を作成する業務で、オペレーターの大半は女性です。女性はライフステージによって仕事との両立が難しくなることがありますが、それをリモートワーク化によって解決しています。自分の仕事は自分で管理する意識が浸透し、優秀な人材の確保にもつながりました。

③闘病生活でも仕事を続けられる体制づくり(向洋電機土木株式会社)

育児や介護と仕事の両立に悩む人は多いですが、この事例では自身の闘病もしながら仕事を続けられるようにリモートワークを導入。同じ状況になったとしても働き続けられる体制づくりにより、若年人材の確保だけでなく高齢化が顕著な業界での組織構築に役立てられています。

4.リモートワークを始める、続けるべき理由

リモートワーク
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企業が今後、リモートワークを始めるべき、続けるべき理由を4つ挙げました。次章では続けないほうが良い理由を挙げていきますので、その両方を考慮した上で判断材料としてください。

4-1.中小企業のほうがリモートワークの恩恵がある

リモートワークというと、まずは大企業で普及するものというイメージをお持ちの方が多いかもしれませんが、実際にリモートワークの恩恵をより強く受けるのは中小企業であると考えられます。限られた経営資源の中でパフォーマンスを上げていく必要性は中小企業のほうが高く、コスト削減や生産性の向上といったリモートワークのメリットは経営者目線で見ると見逃せないものばかりです。

先ほどご紹介した慶應義塾大学経済学部大久保敏弘と(公財)NIRA 総合研究開発機構が共同調査にも、その傾向が見て取れます。こちらは企業規模別のリモートワーク導入状況です。

企業規模別のテレワーク利用率(単位:%)

企業規模2020年1月時点の利用率2~3月にかけての利用率の増加分
1~4人 (n=1,580)81
5~29人 (n=1,891)42
30~99人 (n=1,761)42
100~499人 (n=1,956)54
500人以上 (n=2,907)97
官公庁 (n=422)31

出典:「新型コロナウイルスの感染拡大がテレワークを活用した働き方、生活・意識などに及ぼす影響に関するアンケート調査」に関する報告書(NIRA総研)

多くの方が想像されているように最も利用率が高いのは「500人以上」ということで大企業です。また、その次に多いのが「1~4人」となっており、自宅で仕事をするフリーランスなどの個人事業主ではもともとリモートワークを導入していたことがうかがえます。

4-2.補助金、助成金があるので始めるチャンス

「コロナ禍」が起きる前から国はテレワーク(リモートワーク)を推進してきているため、それ以前から補助金などでテレワーク化を後押しする制度がありました。後述しますがリモートワークを導入するにはコストがかかるので、導入するなら助成金や補助金などの制度を活用したいものです。

こうした助成制度については一般社団法人日本テレワーク協会が最新情報を公開しているので、こちらも参考にしてください。

参照:テレワークに関する助成、補助(日本テレワーク協会)

4-3.慢性化、深刻化する人手不足の解決策になる

多くの企業が人手不足を実感していますが、生産年齢人口の減少は今後も続くため、この問題が今後劇的に改善するとは考えにくい状況です。そのためには生産性の向上と人材確保のための魅力づくり、組織づくりが求められます。

リモートワークはこうした問題を解決する可能性を持っており、すでに導入によってこうした「人」の問題を解決した企業もあります。

4-4.本格的なリモートワークの普及に対応できる

リモートワークに関する企業の評価は分かれます。しかし、国がこれだけ後押ししている状況や、「コロナ禍」による影響の長期化などを考えると今後リモートワークを実施する企業が徐々に増えていくことはあっても逆戻りしていく可能性は低いのではないでしょうか。

そうなると遅かれ早かれ本格的なリモートワーク時代が到来することが必至です。その時代に向けて、今の段階でリモートワークに取り組んでおくことは有益です。

5.リモートワークをやらない、続けないほうが良い理由

リモートワーク
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リモートワーク推進論の次は、リモートワークをしない、続けないほうが良い理由についてもまとめました。こちらもお読みになった上で熟考していただくのが良いと思います。

5-1.リモートワークは万能ではない

リモートワークは決して万能ではなく、現在あるすべての業務を完全に置き換えることは不可能です。先ほど業種によってリモートワークの導入状況にばらつきがあることをご覧いただいたように、今後もリモートワークが普及していかない業種もあります。

現業分野でリモートワークへの置き換えが難しいことは容易に想像がつきますが、オフィスワークであっても人的コミュニケーションが重要な業種には不向きです。そのような業種ではなくても、やはり対面コミュニケーションに勝るものはなく、メンタル面の変化など口頭以外のコミュニケーションでしか気づけないようなことを、リモートワークでは見逃してしまう可能性もあります。

5-2.ITリテラシーの向上に現実味がない

リモートワークで使用する各種ツールは、いずれも使いこなすにはITリテラシーが必要です。ITリテラシーの強弱によってさまざまな格差が生じることは以前から指摘されてきたことですが(デジタル・ディバイドといいます)、この状況のままリモートワークを無理に導入するとセキュリティ面での懸念が生じるだけでなく、社内に新たな格差が生まれて不和を生じさせる原因になります。

このことは「脱ハンコ」を菅内閣が打ち出した時の反応を見ても、容易に想像ができます。ハンコ文化はIT化と真逆のベクトルを持つ文化ですが、これを完全に移行することが難しいのと同様に、従来からある企業風土をリモートワーク導入によって一気に変えることは決して容易ではありません。

5-3.業務の性質上、リモートワークには不向き

人的コミュニケーションが多い業種での難しさに加えて、物的なやり取りの多い企業でもリモートワークは難しいでしょう。リモートワークでは遠隔地でも「情報」をやり取りできるため業務の一部を置き換えることができますが、オンラインで「モノ」をやり取りすることはできません。業種によっては技術が進歩しても本質的にリモートワークに不向きであることを認識しておく必要があります。

5-4.経営者の存在がより孤独になる

経営者は孤独な職業であるというのはよくいわれることですが、対面によるコミュニケーションがある職場でも孤独を感じることがあるのに、リモートワークになるとそれが一層加速する可能性があります。社員とのコミュニケーションを重視する経営者だとそこに不満を感じるかもしれません。

6.リモートワーク導入にかかる主なコスト

リモートワーク
(画像=tanatat/stock.adobe.com)

最後に、ゼロの状態からリモートワークを導入しようとお考えの企業にとって、どんなコストがかかるのかというお金の話をしたいと思います。

6-1.通信インフラのコスト

VPNとはVirtual Private Networkの略で、仮想専用線と呼ばれるものです。社内であれば社内ネットワークに接続された端末を使用すれば良いのですが、リモートワークになると遠隔地でも社内ネットワークを構築する必要があります。そのために用いられるのがVPNで、暗号化技術によって疑似的な専用線を構築することができます。このVPNについて、ある業者では「10~100ライセンスで1ライセンスあたり500円(月額)」となっています。これはつまり、VPNを使って社内ネットワークに参加する人数あたりの料金ということになります。

6-2.セキュリティのコスト

多くの経営者がリモートワーク導入の障害だと考えている情報漏洩リスクを直接的にカバーしてくれるのが、ウイルス対策ソフトです。一般的に利用されているブランドがいくつかありますが、いずれもおおむね1ライセンスあたり2,000~4,000円(年額)程度で利用できます。リモートワークの導入有無にかかわらず、パソコンやスマホには必須といってもよいご時世なので、さまざまなリスクへの対策として導入をおすすめします。

6-3.Web会議ツールのコスト

リモートワークではWeb会議(オンライン会議)を行う企業がほとんどです。そのためのツールにはSkypeやZoomなどがありますが、特に「コロナ禍」で注目を浴びたのはZoomです。「Zoom会議」「Zoom飲み会」といった言葉まで生まれました。

このZoomをリモートワークに利用するには有料ライセンスである企業アカウントを契約する必要があります。よく利用されている「Business」では年額2万5,200円で49人まで利用可能です。これを契約する必要があるのは会社だけで、仮に49人目一杯まで使ったとしても料金は変わりません。

6-4.Webカメラ

Web会議に自分の顔などを映すために必要なのが、Webカメラです。ただし、WebカメラはノートPCの大半の機種にWebカメラが付いていますし、スマホで代用することも可能です。購入するとしてもそれほど高いものではなく、安いものだと1,000円台、標準的なものであっても数千円程度で購入できます。

6-5.社員側の通信インフラ

在宅勤務をする人であれば自宅のネット環境を利用することになると思いますが、それがない人やサテライトオフィスやカフェなど外でリモートワークに参加することが多い場合は、ポケットWi-Fiなどのサービスに加入する必要があります。たとえばワイモバイルの「Pocket Wi-Fi」サービスだとベーシックプランで3,696円(月額)ですが、法人向けの大口契約だともっと安くできる場合もあります。

7.リモートワーク導入で削減できる主なコスト

リモートワーク
(画像=lemau-studio/stock.adobe.com)

ここでは、リモートワークを導入することでコストダウンできる点に触れていきます。

  • オフィス賃料、光熱費などの固定費
  • 社員への通勤手当

リモートワークを実施することで会社に来る人数が減るので、オフィスを半分の面積に縮小することも可能です。半分になることで、オフィス賃料や光熱費などの固定費が削減できます。また、通勤しない日がありますので、社員に支払う通勤手当が削減できます。詳しくは以下の記事を参照ください。

8.まとめ

リモートワークを導入するべきか、もしくは続けていくべきか?「コロナ禍」を契機に、多くの経営者の皆さんがこの問題に直面されたことと思います。とてもメリットが多い一方でデメリットもありますし、業種や企業風土によっても向き不向きがあります。本稿ではその判断に必要な情報を、コストも含めて網羅してきました。

リモートワークと今後どう付き合っていくかは重要な経営判断なので、どうぞ本稿の情報をお役立てください。(提供:自社ビルのススメ


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