ICT(情報通信技術)のめざましい発展は、ビジネスの世界に大きなインパクトを与えました。その一つに「IoT」があります。IoTは「Internet of Things」の略で日本語に訳すと「モノのインターネット化」という意味です。これまでインターネットに接続されていなかったさまざまなモノがネットワークを通じて接続され、情報交換し、相互制御するシステムになります。

IoTは、PCやスマートフォンといった従来からつながっているデバイスばかりではありません。文字通りありとあらゆるモノや住宅・建物、車、家電製品、衣服、電子機器などがネットワークにつながることにより私たちの生活を刷新する可能性を秘めています。ビジネス上のインパクトは「第4次産業革命」と呼ばれているほどです。

本記事では、IoT時代におけるスマートビルディングの概要やメリット・デメリットについて解説します。

第4次産業革命に突入

自社ビル
(画像=Blue Planet Studio/stock.adobe.com)

内閣府は、第4次産業革命について第1次~第3次産業革命に続く技術革新と説明しています。

産業革命内容
第1次産業革命18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化
第2次産業革命20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産
第3次産業革命1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化
第4次産業革命ビッグデータやAI技術、IoTを活用した技術革新

IoTは、かつて「ユビキタス(遍在)」という言葉で語られておりユビキタスが流通していた時代には、その理念を実現する技術的な裏付けがまだありませんでした。しかし近年は「ビッグデータ」「AI」「5G」などの技術革新により実現するようになってきたのです。なかでもオフィスビルのIoTとして注目しておきたいのがスマートビルディングといえるでしょう。

IoT+ビルディング=スマートビルディング

IoTのインパクトは、あらゆる産業に及びます。例えば「IoT」と「ビルディング」の融合したものが「スマートビルディング(Smart Building)」です。IoT登場前もBAS(Building Automation System、ビルオートメーションシステム)、BEMS(Building Energy Management System、ビルエネルギーマネジメントシステム)というシステムがありました。

BASが建物・設備管理、BEMSがエネルギー管理です。しかしスマートビルディングではそれらを統合し全体を最適化するソリューションが可能になります。言い方を変えれば「ビルディングのデジタルトランスフォーメーション」と表現することもできるでしょう。デジタルトランスフォーメーションはDX(
Digital Transformation)と略され経済産業省では以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
出典:経済産業省『「DX 推進指標」とそのガイダンス』

スマートビルディングのメインとなる機能は、建物・設備とエネルギーデータを一元的に管理することです。IoTを駆使して建物内のあらゆる設備機器とエネルギーデータをネットワークに接続し、サーバー上にデータを集約して一元管理することで遠隔から稼働状況を把握・監視するだけでなく収集したビッグデータを分析することでエネルギー利用を最適化することができます。

しかもこれをビル1棟だけでなく複数のビルを統合管理することが可能です。

IoT+ビルディングの4つのメリット

IoT+ビルディングは、具体的にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。主なメリットを4つ紹介します。

  • オフィス空間の最適化による業務の効率化
  • 働き方改革とオフィスワーカーの満足度向上
  • エネルギー管理の最適化
  • セキュリティの向上

1.オフィス空間の最適化による業務の効率化

空調については、センサーを活用して温度・湿度といった室内環境をリアルタイムで分析し自動的に最適化します。最近は、新型コロナウイルスの影響で換気頻度を上げることが求められていますが、スマートビルディングであればスムーズに対応することが可能です。照明については、人数やシーンに応じて照明を細かく調整して照度を管理し、無駄な点灯を減らします。

地震・火災などの緊急時には、照明を点滅させるなど警報としての役割も持たせることが可能です。会議室やラウンジ、カフェなど共有スペースの状況確認、予約もデバイスから行うことができます。また、意外と従業員のストレスの種となるのがオフィスの“トイレ事情”です。しかしスマートビルディングであればトイレの空き状況をリアルタイムで確認できます。

2.働き方改革とオフィスワーカーの満足度向上

オフィス空間の最適化は、結果として現地で働く人たちの満足度を高めパフォーマンスの向上につながります。オフィスは、知的生産を行うワークスペースです。知的生産性の根幹には、オフィスワーカーの「働きやすさ」があります。働き方改革を進めるうえでオフィスに「ウェルネス(心身の健康)」を求める企業が増加傾向です。

経済産業省はウェルネスを増進するためのポイントとして7つを挙げています。「快適性」「コミュニケーション」「休憩・気分転換」「清潔」「適切な食行動」「運動」「健康意識」です。例えば「コミュニケーション」を例に挙げてみましょう。長テーブルとイスにホワイトボードといったよくある会議室よりも、バランスボールをイスにしたり、床に人工芝を引いたり、カフェのような場所にしたり、いわゆる“会議室”には見えない場所で会議することで、意見が言いやすくアイデアが出やすくなると言われています。

IoT+ビルディングが実現する業務の効率化は「単なるコスト削減」「ワーカーを駒のように動かすこと」ではありません。オフィスワーカーがストレスを感じることなく、健やかに働けるオフィス空間の実現なのです。

3.エネルギー管理の最適化

スマートビルディングは、エネルギー管理においても大きな力を発揮します。建物内の空調、照明、什器、エレベーターなど各機器データを収集・解析、自動制御することでビル全体のエネルギー使用を最適化し省エネルギーを実現。省エネルギーによる固定費の削減は、企業経営にとって大変頼もしいものです。

2011年の東日本大震災以降、各企業は自社のエネルギーコストの見直しを進めました。しかしオフィスビルのエネルギー消費量の削減は進んでいない状況です。エネルギー消費の統計上、オフィスビルや商業施設は「業務部門」とされていますが、「産業部門」や「運輸部門」に比して省エネルギーが進んでいない部門になっています。

地球温暖化対策が国際的な課題となっている時代において「二酸化炭素=エネルギー消費量の削減」は急務です。スマートビルディングによるエネルギー管理は、環境に配慮したESG経営として企業価値を高めることになります。ESG経営とは「環境:Environment」「社会:Social」「企業統治:Governance」の3つに配慮した経営のことで世界的に推奨されているものです。

4.セキュリティの向上

セキュリティには、リアルの世界とサイバーの世界があります。企業における機密情報の保護や情報漏えいの防止の需要は年々高まっており企業の信用のためにもオフィスにおけるセキュリティ強化は必須です。スマートビルディングでは、防犯カメラやエントランス・ゲート、フロアや部屋ごとの入退室管理、各デスクの端末まで統合的に管理します。

認証技術もカード認証や指紋認証、顔認証と進化しているため、なりすましや不審者もしっかりとブロックできるわけです。また新型コロナ対策で体温の自動測定機能を完備しているシステムもあります。

IoT+ビルディングの2つのデメリット

スマートビルディングは、メリットだけではなく主に以下のような2つのデメリットもあります。

  • サイバー・セキュリティの不安
  • 停電などのシステムシャットダウン

1 サイバー・セキュリティの不安

セキュリティには、サイバーの世界もありスマートビルディングシステムにおいて当然万全の態勢が組まれています。しかしサイバー攻撃との戦いはイタチごっこになりがちです。そのためすべてをネットワークにつないでいるIoTではアナログのシステムよりもサイバー攻撃を受けるリスクが高くなることは否めません。

こうしたリスクへの対策としてシステム設計段階からサイバー攻撃への対処を念頭に置き、運用開始後も常に「PDCAサイクル」(継続的に業務を改善させる方法)を回してアップデートしていく必要があるでしょう。

2 停電などのシステムシャットダウン

建物内のすべての機器が一元管理されているため、万が一電気の供給がストップするとスマートビルディングは完全に機能を喪失することになります。また外部との通信に不具合が生じたり内部サーバーにトラブルが生じたりした際もビルの運用管理が大幅に損なわれるでしょう。こうしたトラブルを防ぐためには、定期的なメンテナンスとトラブル発生時の対応を日ごろから意識しておくことが必要です。

IoT+ビルディングは自社ビルで

これからのオフィスビルは、IoT化されたビルがスタンダードになると予想されます。「ビジネスの生産性向上」「企業のブランド価値を高める」といった意味でも今後はスマートビルディングが選ばれる可能性が高まるでしょう。トレンドを一刻も早く採用するには、物件のオーナーシップが必要です。賃貸オフィスでは、当然オーナーが動いてくれなければスマートビルディング化は実現できません。

テナントという立場からオーナーへリクエストをし続けることもありえますが、どうしてもトレンドからはワンテンポ遅れてしまうでしょう。トレンドからの遅れは、ビジネス上の機会損失として企業経営に大きなダメージを与えることにもなりかねません。最先端のオフィスビルでビジネスを展開することは知的生産を向上させ競争上の優位を保つことにつながります。

IoTで業務効率を意識したオフィスを検討してみてはいかがでしょうか。(提供:自社ビルのススメ


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