コロナをきっかけとして都心のオフィス不要論が大きく叫ばれています。しかし今後都心のオフィス需要は本当にまったくなくなってしまうのでしょうか。実は、関係データから思いがけない結果が出ています。そこで本記事では、都心5区の平均空室率の動向やテレワーク拡充に伴う賃貸オフィス需要について解説します。

目先の数値にだまされない。都心5区の平均空室率の数値

都心,賃貸オフィス需要
(画像=halfpoint/stock.adobe.com)

2020年3月からの新型コロナウイルス感染症の拡大により日本国内においてテレワークが普及し、従前のオフィスのあり方が見直されています。「自宅から都心のオフィスへ通勤して仕事をする」といったワークスタイルが再検討されているのです。自宅にいながら仕事ができる環境の整備やサテライトオフィスの推進により都心へ通勤する必要がなくなっている企業も出てきています。

このような動きに関連して、コロナ前、活発であった都心の賃貸オフィスに不要論がささやかれています。ここでは、都心5区の平均空室率や過去20年の平均空室率の推移を確認していきましょう。

都心5区の平均空室率は上昇傾向

都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)所在の賃貸オフィスでは、コロナ発生以降、賃貸借契約の解約が増加傾向です。三鬼商事株式会社のオフィスマーケットデータによると都心5区の平均空室率は、2020年3~11月にかけて以下のように9ヵ月連続で上昇しています。2020年3月の平均空室率は1.5%でしたが、同年11月の平均空室率は4.33%と2%以上も上昇しているのが現状です。

年月都心5区の平均空室率前月比平均賃料(1坪あたり)
2020年1月1.53-0.022万2,448円
2020年2月1.49-0.042万2,548円
2020年3月1.50+0.012万2,594円
2020年4月1.56+0.062万2,820円
2020年5月1.64+0.082万2,836円
2020年6月1.97+0.332万2,880円
2020年7月2.77+0.802万3,014円
2020年8月3.07+0.302万2,822円
2020年9月3.43+0.362万2,733円
2020年10月3.93+0.502万2,434円
2020年11月4.33+0.402万2,223円

このように平均空室率が上昇を続ける傾向が顕著なため、今後の賃貸オフィスの需要が不安視されるのは当然ともいえるでしょう。

過去20年の平均空室率は驚きの結果

「都心5区の平均空室率の上昇=賃貸オフィス不要」といった論調には、気になる点があります。これまでの都心5区の平均空室率の1%台は、過去と比較して、正常な数値だったのでしょうか。都心5区の平均空室率を2001年まで遡って見てみると以下の通りです。

年月平均空室率年月平均空室率年月平均空室率
2001年12月4.03%2008年10月4.30%2015年10月4.46%
2002年10月6.51%2009年10月7.76%2016年10月3.64%
2003年10月8.43%2010年10月8.85%2017年10月3.02%
2004年10月6.68%2011年10月8.78%2018年10月2.20%
2005年10月4.38%2012年10月8.74%2019年10月1.63%
2006年10月2.92%2013年10月7.56%2020年10月3.93%
2007年10月2.55%2014年10月5.60%

2001~2020年の20年間を平均すると空室率は、約5.3%です。2019~2020年にかけての1%台からは、約4%もの開きがあります。このことからコロナ前の2019年からの平均空室率1%台は、この20年間で異常に低い数値であったことが分かるのではないでしょうか。数値が毎月上昇している点だけを見ると都心の賃貸オフィス需要の先行きに不安を感じてしまうのは当然です。

しかし、そもそもの基準の値がまれに見る低い数値であったことを踏まえたうえで総合的に勘案する必要があります。

実は平均空室率の判断基準となるものがある

では、先行き不透明感が高まっている中で今後の平均空室率を予測するにあたり指標となるものはあるのでしょうか。例えば参考となる指標の一つは、日本の実質GDPです。

日本の実質GDPと平均空室率の関係はあるのか?

都心5区の平均空室率は、日本の実質GDPと一部で似た動きを見せています。2006年と2007年、都心5区の平均空室率は、それぞれ2.92%(2006年10月)、2.55%(2007年10月)と低い傾向です。また実質GDPも2006年度は521兆7,876億円、2007年度は527兆2,700億円と成長率もプラスとなっており好調でした。

しかし2008年9月のリーマンショック以降、実質GDPは悪化し2008年度は508兆2,619億円、2009年度は495兆8,775億円と大きく落ち込み、それに合わせるかのように平均空室率も上昇していきます。2008年10月は4.30%と一気に上昇し2009年10月には7.76%まで上昇。その後2012年度から実質GDPは回復傾向を見せ、また平均空室率も下がり続けていきました。

年度都心5区の平均空室率(10月)実質GDP
2001年4.03%(12月)482兆1,115億円
2002年6.51%486兆5,456億円
2003年8.43%495兆9,252億円
2004年6.68%504兆2,650億円
2005年4.38%515兆1,376億円
2006年2.92%521兆7,876億円
2007年2.55%527兆2,700億円
2008年4.30%508兆2,619億円
2009年7.76%495兆8,775億円
2010年8.85%512兆637億円
2011年8.78%514兆6,799億円
2012年8.74%517兆9,228億円
2013年7.56%532兆804億円
2014年5.60%530兆1,916億円
2015年4.46%539兆4,093億円
2016年3.64%543兆4,625億円
2017年3.02%553兆1,443億円
2018年2.20%554兆7,878億円
2019年1.63%552兆9,305億円
2020年3.93%未定

このように過去の実質GDPと平均空室率のデータから、実質GDPと都心5区の平均空室率は関連している部分の多さが見て取れます。今回のコロナ禍により2020年の実質GDPは減少が予測されていますが徐々に回復ペースにあるため、2021年も引き続き回復する可能性も出てくるでしょう。今後の都心5区の平均空室率も実質GDPの予測数値を参考にすると必要以上に悲観することもなさそうです。

日経平均株価と平均空室率の関係は?

2つ目の指標が日経平均株価です。これまでの平均空室率は、日経平均株価とも一部で似た動きをしていました。2006年と2007年は、平均空室率は低く日経平均株価も好調でしたが2008年9月のリーマンショック以降、日経平均株価は悪化し平均空室率も上昇しています。2012年後半から日経平均株価は大きく値上がりしており平均空室率は下がり続けました。

2020年3月、コロナをきっかけに日経平均株価は暴落し平均空室率は2020年3~11月にかけて毎月上昇しています。なお2020年4月以降、日経平均株価は値上がり傾向ですが、平均空室率は上昇傾向とコロナ前の動きとは異なる動きを見せているのが特徴です。2020年12月現在の日経平均株価は、実体経済との乖離があります。

しかしこれは「日本の金融政策を評価し今後景気が上向く」との予測からです。「2021年の実質GDPはプラス成長が予測される」「日経平均株価が景気の上向きを予測している」といったことから都心5区の平均空室率は、今後一時的に8%台になる可能性はあるにしても平均的な4~5%台を推移するのではないでしょうか。

緊急事態宣言解除後の企業のテレワーク・オフィスに対する意外な調査結果

空室率の動向を見ていくうえで気になるのが冒頭に記載したテレワークの普及の進捗です。コロナ発生後、「都心のオフィスへ通勤しない」という従前とは異なる働き方が世間一般に浸透しつつあります。そのためコロナ前に参考となった実質GDPや日経平均株価の数値は「今後、平均空室率と関連付けることができないのでは?」という疑問もあるでしょう。

では、緊急事態宣言が解除された後、テレワークを実施している企業の動態はどうなっているのでしょうか。

今後、企業のテレワークは拡大するのか

2020年11月12日に国土交通省から発表された「企業向けアンケート調査結果(速報)」によると東京都内に本社がある上場企業2,024社のうち2020年8月時点でテレワークを実施している企業は81%でした。そのうち「現在と同程度を維持」が53%、「現状よりも縮小」が24%、「現状よりも拡大」が18%です。このように今後テレワークを拡大するよりもむしろ縮小する企業のほうが多いことが分かります。

現在、企業のテレワークの頻度は増えているのか

2020年9月23~24日に日本経済新聞社が日経電子版で行ったアンケート調査によると、テレワークの頻度はピーク時「週に5日以上」が50.1%と最多でした。しかしアンケート調査時の2020年9月には「週に1日」が33.7%と最多となり「週に5日以上」は20%未満まで減少しています。アンケートの調査結果からテレワークは引き続き行うものの、週に最低1日以上は社員を出社させる企業が多く現状揺り戻しが起きていることが分かります。

オフィス移転を検討している企業の数は

最後に都内のオフィス移転の現状についても確認しておきましょう。前述の国土交通省のアンケート調査結果によると「本社事業所に所在する部門・部署の配置見直し(全面的な移転、一部移転、縮小)に関して具体的な検討はあるのか」との質問に74%が「検討していない」と回答しました。一方で「2020年に入ってから具体的な検討」は14%、「2019年以前から具体的に検討」が12%となっています。

そのうち移転を具体的に検討していない企業を対象とした移転検討が困難な理由の回答として、「移転先での人材採用」が26%と最も多く、次いで「移転費用」が18%でした。ここから企業の新規社員の採用に係るコストとオフィス移転に伴うコストから移転への忌避感が読み取れます。なお移転を具体的に検討している企業の移転先は、以下の通りです。

本社事業所の配置見直しでの移転先割合
東京23区73%
23区外の東京都17%
埼玉県・千葉県・神奈川県のいずれか21%
関東近郊(茨城県、栃木県、群馬県、山梨県)6%
名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)3%
大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)1%
上記以外の地方圏4%

このように都内に本社を置く7割以上の上場企業は移転を具体的に検討していません。また2020年になって移転を具体的に検討している企業もわずか14%です。さらに移転先も東京23区内が7割以上を占めるなど都心の賃貸オフィス不要論は、杞憂ということが分かります。

やはり都心にオフィスは必要

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、都心5区の平均空室率の数値上昇を悲観的に捉える論調が見られます。しかし過去のデータを精査していくとコロナ前の数値が異常に低かったことが理解できるのではないでしょうか。また日本の実質GDPや日経平均株価の動向から今後一時的に平均空室率が急上昇する可能性もあります。

しかしその後、平均的な数値に収まることが予測されるため、過剰に悲観的になることはありません。また現在の企業の動向から都心の賃貸オフィスは引き続き需要が見込まれるため、安易なオフィス不要論に惑わされないことも大切です。関係省庁や民間の客観的データから今後の賃貸オフィス需要を見極めることが重要なのではないでしょうか。

著者情報

片岡 雄介氏

株式会社シー・エフ・ネッツ
片岡 雄介
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

(提供:自社ビルのススメ


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