複数階に別れたフロアを1つに集約する「ワンフロア・オフィス」を導入する企業が増えています。コミュニケーションの活発化や執務スペースの環境向上、障害者雇用などでのユニバーサルデザインの面でも優れているのが導入の理由です。また、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、テレワークの普及で生まれた余剰スペースの解消にもつながります。さらに働く環境が改善されて業務効率のアップが期待できます。
本記事では「ワンフロア・オフィス」のメリットと活用法を考えます。
目次
1.よくあるオフィス環境の課題
2020年から始まった新型コロナウィルスの拡大と緊急事態宣言の発令はオフィスのあり方に大きな変化を与えました。オフィスでは密になることを避け、ソーシャルディスタンスを守る必要があることからテレワークの導入で社員を分散する対策がとられました。その結果、使わない執務スペースが増えオフィス効率の悪化という弊害を生んでいます。その対応策として注目されているのが「ワンフロア・オフィス」です。「ワンフロア・オフィス」への転換は、現在自社が抱えているオフィス環境の課題を同時に改善するよい機会にもなります。
「ワンフロア・オフィス」については記事の後半で詳しく述べますが、まずはよくあるオフィス環境の課題について確認しておきましょう。オフィス環境に問題があると社員がストレスを感じやすくなります。厚生労働省が公表している「平成30年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、「強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合」は58.0%(2018年度)でした。半数以上の労働者が何らかの強いストレスを感じながら勤務していることが分かります。
ストレスがあると社員の仕事に対するモチベーションが下がり、人によっては体調不良になるなど弊害が生じかねません。会社にとってもマイナスになるため、以下の5つのような問題がないかチェックする必要があります。
1-1.空調が暑すぎる、寒すぎる
オフィス環境の中でも「空調」の問題は深刻です。「暑い」「寒い」という感覚は、人によって個人差があるため、全員にちょうど良い室温にするのは困難でしょう。気温に合わせて調整することが必要ですが、社員に自宅で設定している室温を聞いて平均値を求めることも一つの方法です。
1-2.オフィス内に臭いや汚れがある
代表的なのがタバコの臭いです。同調査によると「受動喫煙によって不快に感じる、体調が悪くなる」と答えた人が43.2%(2018年度)となっており、大きなストレスの要因となっています。ほかには、昼食を社内で食べた人がゴミ箱に捨てた生ごみの臭いも問題の一つです。また社員がつけている香水やスプレーの臭いも人によっては迷惑に感じることがあります。
オフィス内の汚れも潔癖症の人にとってはより一層ストレスになるでしょう。
1-3.オフィスが暗い
照明の度合いも人によってはストレスになりかねません。あまりに暗いとパソコンの操作で眼精疲労になりやすく、気分的にも落ち込む可能性があるでしょう。労働安全衛生法事務所衛生基準規則第10条1項によると、オフィスの照度は「精密な作業で300ルクス以上、普通の作業で150ルクス以上、粗な作業で70ルクス以上に適合させること」が求められています。
そのためそれ以下の照度であれば至急改善することが必要です。
1-4.プライバシーの配慮がない
社員が他人の視線が気になって仕事をしづらい環境も問題です。前や隣の社員との空間があまりに近いとストレスを感じる可能性は高いでしょう。感染症対策を兼ねてデスク間に仕切り板を設けることでプライバシーに配慮することは可能です。
1-5.オフィスの導線が悪い
仕事がしづらい原因の1つにオフィスの導線の問題があります。例えば「通路が狭くて通るのに気を遣う」「デスクとコピー機の距離が遠い」などストレスの多い導線であれば改善することが必要です。後述する「ワンフロア・オフィス」へ転換する際に、導線もまとめて変更するのが理想でしょう。
2.オフィス環境を改善するメリット
オフィス環境を改善すると多くのメリットが発生します。最も大きいのが社員のストレスが軽減することです。ストレスの要因はなかなか口に出しにくい傾向のため、経営陣、管理部門長などは気が付かないまま退職につながるケースがあります。しかしオフィス環境が改善されれば社員の離職率が下がり、会社にとって人材確保の安定させることが期待できるでしょう。
またこれまで雑然としていた社内を整理することで、業務効率が向上することもメリットの一つです。例えば必要な資料のファイルがどこに保管されているか分からない状態ではストレスになりますが、すぐに見つけられるように区分し直せば仕事がしやすくなります。さらに身体的な影響があるような問題が改善されれば、社員の健康が保たれ仕事のモチベーションが上がることが期待できるでしょう。
気になる点が少なくなれば仕事に集中でき作業ペースが上がりミスも少なくなるため、生産性が上がります。ストレスになる要因が改善されることでイライラすることも少なくなるため、人間関係の改善にもつながるかもしれません。
・社員の離職率が下がる
・業務効率が向上する
・モチベーションが上がる
・ミスが少なくなる
・人間関係の改善につながる
3.オフィス環境を改善する方法とポイント
では、オフィス環境をどのように改善すればよいのでしょうか。先に紹介したオフィス環境の問題点を改善する方法として以下の5つのような方法が考えられます。
3-1.最適なオフィスレイアウトを設計する
最近流行している固定席を持たないフリーアドレス制にすることもオフィス環境の改善につながる効果が期待できます。席が固定されていると「人間関係の悪い人が前の席にいる」「自分の席の近くに空調機があり寒暖を強く感じやすい」といった影響を長期間受けかねません。その点フリーアドレスなら別の席に移動することで、それらのストレスから解放されます。
また集中して資料の解析が必要なときに利用できるボックス席があると、他人のことを気にしないで仕事に専念することが可能です。
3-2.空調を適度な温度に調整し、換気も行う
室内温度や湿度は、法律で定められています。労働安全衛生法事務所衛生基準規則第5条第3項の3では以下のように規定されているため、押さえておきましょう。
「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が17度以上28度以下及び相対湿度が40%以上70%以下になるように努めなければならない」
引用:厚生労働省「事務所衛生基準規則」
この範囲を逸脱した温度・湿度設定は法律違反ということになります。空調の管理者を決め適温を保つとともに時間を決めて換気することが大事です。
3-3.タバコを禁煙または分煙にする
近年は、タバコによる「受動喫煙」が社会的な問題になっているため、勤務中は禁煙にする企業が増えています。しかし愛煙家の社員にとってはタバコを吸えないこと自体がストレスになるため、完全禁煙にするのは難しい面があるでしょう。休憩時間に携帯用灰皿を持たせて屋外の喫煙可能な場所で喫煙させるのが現実的な方法かもしれません。その場合、喫煙できる場所以外で吸わないようルールを徹底させることが重要です。
3-4.BGMを流す
静寂なオフィスは、仕事に集中できると思いがちですが、静かすぎるとわずかな音も気になります。隣の席の人のキーボードを押すタイプ音や咳払いなどちょっとした音が気になってしまい、ストレスとなる場合があります。それらの音を緩衝させる意味合いも兼ねて、クラシックや軽音楽など仕事の邪魔にならない程度の落ち着いた音楽を流すことも改善策の一つです。社内の雰囲気が和む効果も期待できます。
3-5.休憩スペースをつくる
ストレス軽減のために休憩時間の確保は重要です。しかし前や隣の人が仕事しているのに自分だけ休憩するのは気が引けるものです。できれば休憩スペースをつくり休憩する人だけが集まることができる空間があると休みやすくなります。経費はかかりますが、コーヒーサーバーを設置しておくと社員に喜ばれるでしょう。
4.「ワンフロア・オフィス」にする効果と方法
では、ここまで見てきたオフィス環境の問題点と改善方法を考慮して、より働きやすいオフィス環境をつくり出す「ワンフロア・オフィス」について見てみましょう。テレワークの普及で出社する社員が減った会社にとって余剰スペースをどうするかは大きな課題です。「ワンフロア・オフィス」にする効果や方法、そして具体的な事例を紹介します。
4-1.ワンフロア・オフィスにする効果
これまで別のフロアにいた社長が同じ空間で執務することによって社内に一体感が生まれます。また各階の移動がないため、社員の所在がすぐに分かり仕事の進行がスムーズになる点はメリットです。例えば、会議中に他部署の人の意見を聞きたいとなった場合でも、すぐに対応が可能です。障がい者の雇用が可能になることも社会貢献といった観点から有意義といえるでしょう。
4-2.ワンフロア・オフィスにする方法
複数フロアを借りている企業は、「ワンフロア・オフィス」に転換することによって家賃や光熱費を削減できます。例えば「社長室を廃止する」「各階にあった会議室を1つにする」などの方法で「ワンフロア・オフィス」に対応することが可能です。
「ワンフロア・オフィス」の特徴は「1つのフロアに社長と社員が一堂に会して仕事をする」というスタイルです。
4-3.ワンフロア・オフィスへ転換した事例
従業員100名規模のIT企業が、オフィス賃料の値上げを機に東京駅に近い一等地に本社オフィスを移転しました。企業が考えたのが「どうせ家賃が高くなるのなら社員が満足するようなオフィスにしよう」という前向きな思いです。以前のオフィスは2フロアでしたが、人数に対して面積が広すぎコミュニケーションがとりづらかったといいます。築年数も古いため、空調や水回りなど設備面でも不満がありました。
移転プロジェクトリーダーは、新しいオフィスについて「居心地が良く、帰ってきたくなるオフィス」を目指し、2年にわたり物件を探しました。最終的に選んだ物件は以前の半分のスペースですが、移転を機にペーパーレス化を推進し、資料の保管スペースを3分の1に削減。事務机も長テーブルに替えるなど工夫を凝らしました。面積は半減してもオフィス内の快適性が向上したため、社員からの評価も高いといいます。今後も以前のオフィスでは断念したフリーアドレス化を再検討し、フレキシブルなオフィスを目指す考えです。
必要な機能をワンフロアに集約するという「ワンフロア・オフィス」の目的を達成し、社員の満足度向上にもつなげた好事例といえるでしょう。
出典:「ザイマックス総研の研究調査」
【事例】働く場所のフレキシブル化で戦略的にオフィスを縮める | 働き方×オフィス | ザイマックス総研の研究調査 | ザイマックス不動産総合研究所 (xymax.co.jp)
5.ワンフロア・オフィスを可能にする「区分所有オフィス®」
自社ビルの建設や購入を検討している企業が、イノベーション(刷新、新機軸)への期待が高まる「ワンフロア・オフィス」にするためには、どのようにすれば良いのでしょうか。
中大規模な自社ビルの建設や購入を検討している企業であれば、フロア面積が広いため、効果的なワンフロアにすることは可能ですが、多くの企業が中大規模な自社ビルの建設や購入ができるわけではありません。企業規模や費用面から、どうしてもフロア面積が狭く細長い、いわゆるペンシルビルを検討するケースもあるでしょう。
ペンシルビルは、フロアごとに部署が配置されることが多いため、部署を超えたコミュニケーションやマネジメントが難しくなります。また、業務上各階への移動が発生することになるため、移動時間も無駄になりますし、縦への移動に困難を覚える障がい者社員にとっては、大きな負担になるでしょう。ユニバーサルデザイン(誰もが使いやすい仕様)の面で問題があります。
では、「ワンフロア・オフィス」のメリットを活かしつつ、自社ビル=自社オフィスを所有するにはどうしたら良いのでしょうか。そこで注目されているのが「区分所有オフィス®」という取得方法です。「区分所有オフィス」とは、都心のプライムエリアのビルをフロアごとに分譲し、可能な限りリスクを抑えた新しい不動産所有のカタチです。「区分所有オフィス」であれば、例えば1棟50億円する中規模ビルもワンフロア5億円程度で購入することができます。
中大規模ビルであれば、フロアの広さも確保できるため「ワンフロア・オフィス」のメリットを活かしつつ、自社ビル=自社オフィスを所有することができるのです。オープンという言葉どおり、開かれた社風を構築するには、「区分所有オフィス」を購入し、「ワンフロア・オフィス」にするのが最適なスタイルといえるのではないでしょうか。
特に新型コロナウィルスの影響でオフィス変革が求められている時期でもあります。自由度の高い自社ビルを所有して生産性の高いオフィスに転換するには、適したタイミングといえそうです。
※「区分所有オフィス®」は株式会社ボルテックスの登録商標です(提供:自社ビルのススメ)
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