近年、不動産取引の現場において「デューデリジェンス」という言葉が飛び交うようになってきました。このデューデリジェンスとは何なのでしょうか。今回は、不動産取引において「デューデリジェンス」という言葉がどんな意味を持っているのか考えていきましょう。
不動産のデューデリジェンスとは
デューデリジェンスを英語で書くと「Due Delligence」となります。Dueは「適正な」「正当な」、Delligenceは「義務」「努力」「精査」という意味で、「適正評価手続」と訳されます。単純に「物件精査」を指すこともあり、一般的に「デューデリ」や「DD」と略されます。
デューデリジェンスという用語は、主に企業が買収・合併(M&A)を行う際に使われています。買収・合併を行う側の企業(譲受企業)にとってM&Aを成功裡に進めるためには、取引の前に譲渡候補企業の将来性やリスクについて充分に精査し、M&A後の将来像を描くことが重要になるからです。譲渡候補企業が表面的には毎年黒字決算を計上していたが、実は海外の子会社に巨額の赤字が隠されていたというような事実があってはなりません。
不動産取引市場においても、こうした適正評価が強く意識されるようになりました。もともと不動産は、その他の商品と比べて取引価格が桁違いに大きいので、所有権移転登記が必須になるなど取引は慎重に行われてきました。不動産の取引においては、「重要事項説明書」を書面で指し示すことが宅地建物取引業法第35条で義務付けられています。
重要事項説明書は、不動産会社が買主(または借主)へ示すものですが、デューデリジェンスは買主側が評価を行います。近年では不動産証券化が確立されたこともあり、このデューデリジェンスの重要性がより増しているといえるでしょう。
不動産物件には、種々のリスクが潜んでいるものが少なくありません。表立って見えるリスクならいざ知らず、見えないリスクを洗い出していくにはデューデリジェンスが必要になってきます。その意味でデューデリジェンスは、リスクマネジメントに欠かせないものになってきているといえるでしょう。
不動産デューデリジェンスの3つの要点
デューデリジェンスには大別して3つのポイントがあり、そのポイントに合わせて以下の3種類の調査が行われます。
- 法的調査
- 物理的調査
- 経済的調査
その内容に応じて、不動産鑑定士や弁護士、公認会計士などの専門家が連携して評価を行います。それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
1.法的調査
まず、当該不動産の権利関係の確認を行います。土地・建物の所有権、借地権、地上権、抵当権などを確認します。テナントビルや賃貸マンションの場合は、オーナーとテナント(入居者)との賃貸借契約も重要なポイントです。また、境界の確認も重要であるため、必要に応じて測量を行うケースもあります。
そして、建築基準法に照らして「既存不適格」になっていないか、消防法違反になっていないかなどの建物・設備の法令上の調査も行います。
2.物理的調査
建物調査としては、修繕履歴などを参照し、建物の築年数や実際の劣化度合いを評価します。建材としてアスベストその他の有害物質を使用していないかといった調査や、建物の耐震性の評価も行います。土地の地盤状況、土壌の汚染状況、地下水の汚染の可能性、埋蔵品などの文化財がないかどうかも調査されます。近年重要視されている地震や水害などの天災リスクも重要なポイントです。
とくにこの物理的調査はエンジニアレポート(ER)と呼ばれ、デューデリジェンスの中でも重視されています。もう少しエンジニアレポートを掘り下げてみましょう。
・エンジニアレポートの調査項目
事務所ビルやマンション、商業施設などを対象に調査を行う、一般社団法人 レトロフィットジャパン協会では以下のような項目を調査すると、ホームページに記載しています。
<標準的なER調査項目・内容>
調査項目 | 内容 |
---|---|
建物の基本的概要に関する調査 | 立地・建築・設備概要、更新・改修履歴等、構造概要 |
遵法性に関する調査 | 確認関係書類の確認、適法性 |
現況調査 | 目視による建築・設備の劣化等の状況 |
修繕更新費用に関する調査 | 緊急・短期・長期(12年間)修繕更新費用 |
再調達価格に関する調査 | PML算定用の再建築工事費概算 |
環境リスクに関する調査 | 土壌汚染(フェーズ1)・アスベスト・PCB等 |
地震リスクに関する調査 | PML簡易評価 |
また、上記のような調査を行う場合、さまざまな書類が必要となります。いくつか例を挙げてみましょう。
- 建築確認済証
- 建築検査済証
- 確認副本
- 竣工図
- 建築設備定期検査報告書
- 消防立入検査結果通知書
- 登記簿
- 敷地実測図
- 請負契約書
- 修繕履歴
どういった調査をするのか、その内容によって必要な書類も変わってきますが、おおむね上記のような書類が必要になるでしょう。
3.経済的調査
土地の価格を決める5つの指標(公示価格、基準地価、路線価、固定資産税評価額、実勢価格)を確認します。さらに近隣の市場状況、今後の開発計画、人口動態などを総合的に判断し、将来価値を分析します。
自社ビルの取得は信頼性の高い不動産会社から
「自社ビルの取得」というのは企業にとって記念碑的なイベントです。それを失敗するわけにはいきません。自社ビルの取得に際しては、デューデリジェンスに準拠した信頼性の高いパートナーに依頼することが重要です。
法的調査については弁護士や不動産鑑定士、経済的調査については公認会計士や税理士、不動産鑑定士といった専門家に依頼しましょう。また、物理的調査のERについては、実績を積んだ信頼に値する中立的な企業を選別する必要があります。さらに、自社にデューデリジェンス部署を有する不動産会社であれば、すべてを依頼することも可能です。
調査費用については自己負担になりますが、購入する自社ビルを適正な価格で評価してもらう“努力”は行うほうがよいでしょう。(提供:自社ビルのススメ)
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