働き方改革を背景に、フリーランスや個人事業主として働く人が増えていることに加えてコロナ禍の影響もあり、新たなオフィスが生まれました。それが、日本経済新聞などの経済メディアによく登場する「バーチャルオフィス」です。
オフィスや自宅、カフェなど働く場所はさまざまになりましたが、個人が事業を行う上で「住所」は重要です。また、テレワークが浸透する一方でコミュニケーションの希薄さが懸念されてきています。こうした課題を解決するオフィスとして「バーチャルオフィス」は登場しました。
一口にバーチャルオフィスといっても2種類あるため、ビジネスパーソンとしてその違いをしっかりと把握しておきましょう。本記事は、実際にバーチャルオフィス導入を検討中の企業担当者にも役立つ情報です。
2種類あるバーチャルオフィスの違いとは?
バーチャルオフィスは、主に以下の2種類があります。
- 法人登記のためのバーチャルオフィス(主な利用者:小規模法人やフリーランス)
- 社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィス(主な利用者:一般の法人)
それぞれの違いは以下の通りです。
法人登記のためのバーチャルオフィス
法人登記のためのバーチャルオフィスは、法人登記や固定電話、FAXの受付、郵便物の受取などが利用できるサービスです。なかには、契約者が使える会議室やデスク用意しているところもあります。主な利用者は、小規模な法人やフリーランスなどです。近年は柔軟な働き方が増えていることから副業ビジネスパーソンのニーズも少なくありません。
社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィス
クラウド上のバーチャル空間でアバターなどを使って社内コミュニケーションがとれるスキームです。コニカミノルタやエン・ジャパン、富士ソフトをはじめ徐々に導入企業が増えています。ただ一口にバーチャルオフィスといってもコミュニケ−ション方法は「2次元空間(平面)」「3次元空間(立体)」「音声」などさまざまです。それぞれの特徴を見てみましょう。
・2次元型バーチャルオフィス:oVice(オヴィス)
2020年設立のoVice株式会社がオンラインでのコミュニケーションを最大化することを目的に開発した2次元型バーチャルオフィスです。サービスのローンチから約半年で約1,700件利用され、その後も2021年1月に600件利用されるなど注目度が高まっています。
【oViceの特徴】
2次元空間(平面)でアバターを操作
相手の声の大きさなどで距離感を演出
画面共有やビデオ会話もできる
・3次元型バーチャルオフィス:クラウドオフィスRISA
2019年1月に設立の株式会社OPSIONが「次世代のワークプレイス」として開発。積極的な無料体験会などを開催して利用企業の開拓を進めています。同社は、2020年10月にクラウドワークスと資本業務提携したことも話題です。
【クラウドオフィスRISAの特徴】
3次元空間(立体)でアバターを操作
6つの空間があるので部署やチーム単位で仕事をしやすい
アイコンの色でコミュニケーション可能・不可を判別できる
・音声型バーチャルオフィス:roundz(ラウンズ)
2018年設立のラウンズ株式会社が「オフィスにいるときと同じように相手と話せるバーチャルオフィス」として開発。もともとXchat だったサービス名を2020年4月に「roundz (ラウンズ)」に変更しています。
【roundzの特徴】
チャットやウェブ会議とは異なる音声中心のコミュニケーション
キーボードの指定キーを押すと同じルームの人と会話できる
音声だけなのでより気軽にメンバーに話しかけられる
今なぜ、バーチャルオフィスが注目されている?
紹介してきたバーチャルオフィスは、どちらも最近注目の高いスキームです。その背景には以下のようなものがあります。
- 法人登記のためのバーチャルオフィス:柔軟な働き方改革によってフリーランスの会社員が増えた
- 社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィス:テレワークを導入する企業が増えた
特にコロナ禍を機に注目度が急上昇したのが「社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィス」です。例えば日本経済新聞Web版の検索機能で「バーチャルオフィス」というキーワードを入れると2020年3月以前のコロナ前は「法人登記のためのバーチャルオフィス」に関連する記事が大半でした。しかし2020年5月以降は「社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィス」の記事が急増しています。
2種類のバーチャルオフィスのメリット・デメリット
2種類のバーチャルオフィスにおけるそれぞれのメリット・デメリットも確認してみましょう。
「法人登記などのためのバーチャルオフィス」のメリット・デメリット
賃貸オフィスとバーチャルオフィスを比べたときのメリットは以下の通りです。
・メリット
- 初期コストを抑えられる
- 維持コストを抑えられる
- 信頼感アップにつながる(都心1等地の場合)
- セキュリティ対策になる など
特に「初期コストを抑えられる」に魅力を感じる人は多い傾向です。一般的な賃貸オフィスであれば初期コストは賃料の半年~1年分といわれています。例えば賃料25万円のオフィスと契約すれば150万〜300万円が必要ということです。一方バーチャルオフィスの場合、東京都港区青山の1等地の立地でも1万円程度の初期コストで済みます。
・デメリット
- 一部の業種では所在地にできない
- 信頼感を失う可能性もある
- すぐに郵便物が確認できない
専用スペースを持たないと開業できない一部の業種とは、弁護士や税理士、不動産仲介業などです。また「なぜバーチャルオフィスと契約すると信頼感を失う可能性があるのか」というと取引先などにオフィス住所をネット検索されることもあるからです。
「社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィス」のメリット・デメリット
社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィスは新しいスキームのため、メリット・デメリットについては今後本格的に検証されるでしょう。2021年3月時点で考えられる内容は以下の通りです。
・メリット
- 雑談や気軽な相談など社内コミュニケーションの活性化
- 一体感や参加意識を高められる
- ニュアンスなど言語化しにくい情報を共有できる
先に紹介したようにバーチャルオフィスには「2次元」「3次元」「音声のみ」などいくつかのスタイルがあります。いずれのスタイルもメリットとして「雑談がしやすい」「気軽にコミニケーションできる」などを全面に出している傾向です。表面的なスタイルが変わっても根底は共通しているといえるでしょう。
・デメリット
- どのサービスが主流になるか判断できない
- セキュリティリスクがある
- 新しいスキームなので慣れるのに一定期間が必要
「どのサービスが主流になるか判断できない」といった点は、企業の担当者を悩ませるデメリットです。バーチャルオフィスを導入しても別のサービスが主流になってしまえばそちらに移行する手間がかかります。このデメリットが気になる企業は、まずは一部の部署やチームに導入をして今後サービスのシェアを確認しながら全社に広げていくことも選択肢の一つです。
そうすることで仮にほかのサービスが主流となり移行が必要になったとしても最小限の影響に抑えられます。
ビジネスの場で「バーチャルオフィス」が出てきたときには要注意
ここでは近年注目される2つのバーチャルオフィスの内容とメリット・デメリットを見てきました。
【法人登記などのためのバーチャルオフィス】
・利用者:フリーランス、小規模事業者
・メリット:初期コストや維持コストを抑えられる など
・デメリット:一部の業種では所在地にできない など
【社内コミュニケーションのためのバーチャルオフィス】
・利用者:一定の社員数のいる法人
・メリット:雑談や気軽な相談など社内コミュニケーションの活性化 など
・デメリット:セキュリティリスクがある など
このように同じバーチャルオフィスでも利用者やメリットは、まったく異なります。どちらも広く使われているため、ビジネスの場で「バーチャルオフィス」というキーワードが出てきたときには「どちらの意味で使われているか」を意識し、それぞれのデメリットを頭に入れておきましょう。
レンタルオフィスとバーチャルオフィスの違い
一言で違いを表すならば、リアルとバーチャルです。レンタルオフィスは、その住所に行けばオフィスがあり、仕事をする上で必要な機器や通信設備は完備されています。しかし、法人登記のためのバーチャルオフィスは住所以外に何もありません。そのため、その住所に行ってもオフィスはなく、仕事をすることはできません。
完全に個人でネット販売のみをするなど、「会社として事業を行う上で最低限の情報(住所や電話番号など)があれば十分」という人にとってはコストがかからないバーチャルオフィスは向いているでしょう。それ以外で、「起業したい」「仕事専用のスペース、集まれる場所がほしい」「社内外の人とのリアルな打ち合わせが必要不可欠」という人にとってはレンタルオフィスが向いています。
完全に“オフィスなし”にするのではなく、重要な場面、案件では実在するオフィスを利用するのがよいのではないでしょうか。(提供:自社ビルのススメ)
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