2020年に端を発したコロナ禍では、社会や経済にさまざまな影響が見られました。ビジネスの世界で見られた大きな動きとしては、テレワークの普及が挙げられます。テレワークについてはそのメリットが多くの企業に受け入れられ、コロナ禍が収束したあとも一定の比率で定着するのではないかと見られています。
東京商工会議所が2020年11月に発表した「『テレワークの実施状況に関するアンケート』調査結果」によると、一度導入したテレワークの今後について「増加」と「現状維持」の合計が81.2%となっており、何らかの形でテレワークを継続する意向を持っている企業が大多数であることが見て取れます。
多くの企業が感じたテレワークのメリットに、コストの削減があります。通勤や出張が減ることで交通費の削減になるだけでなく、出社する人数が少なくなることでオフィスも従来の広さではなく縮小移転すれば賃料コストを削減できるのではないかと考える企業が増えています。
オフィスの賃料は固定費なので、業績にかかわらず毎月発生します。そのため固定費の圧縮はコスト削減効果が高く、コロナ禍を契機にオフィスの縮小によってコストを削減しようと考えるのは自然な流れといえます。
そこで今回は、オフィスを縮小することによるメリットとデメリットについて解説します。
オフィスの縮小で年間6,000万円のコスト削減を達成した事例
コロナ禍を契機にオフィスの縮小に踏み切り、年間の賃料コストを6,000万円もの削減に成功した事例があります。それは、東京都港区の「ClipLine」という動画サービス提供会社です。同社はそれまで、JR田町駅近くにあるオフィスビルでワンフロアを月額500万円程度で借り、それをメインオフィスとしていました。しかしコロナ禍によって全社員をテレワークに切り替え、その態勢に合わせて縮小したオフィスを五反田に設けました。
6割程度の面積縮小をした結果、家賃は月額100万円ほどに減り、加えて従業員の交通費、オフィス消耗品を削減でき、年間のコスト削減効果は6,000万円程度になると見込まれ、大幅なコスト削減効果が実現しました。ただ、それに伴って業務に支障が出るなどのデメリットが懸念されますが、同社はその対策として各部門に綿密なヒアリングを行い、最低限必要であるとの意見があった対面ミーティング用のスペースを確保し、オフィス縮小によるデメリットを克服しています。
オフィスの縮小で考えられるデメリット
それでは、オフィスの縮小によって考えられるデメリットには、どんなものがあるのでしょうか。
真っ先に考えられるのは、オフィスに十分なスペースがなくなるため社員が一堂に会することが難しくなることです。そのため意思の疎通や情報の共有などにおいて、積極的にITを活用するなどの対策が必要になります。しかしこれもITリテラシーが高い企業であればスムーズかもしれませんが、そうではない企業や年配の社員が多い企業などではデメリットのほうが大きくなる可能性があります。
オフィスの縮小とテレワークの導入はセットになっているため、テレワークが抱えるデメリットとも無縁ではいられないでしょう。総務省の「令和2年版 情報通信白書」によると、テレワークの問題として「会社でないと閲覧・参照できない資料やデータなどがあった」という回答が群を抜いており、まだまだ全体的なシステムがテレワーク化に追いついていないことに課題を感じている様子がうかがえます。
<テレワーク(在宅勤務に限る)を実施してみて問題があったこと>
全体(N=544)
問題だったこと | 割合(%) |
---|---|
会社でないと閲覧・参照できない資料やデータなどがあった | 26.8 |
同僚や上司などとの連絡・意思疎通に苦労した | 9.7 |
会社のテレワーク制度が明確ではない(自己判断による実施)ため、やりづらかった | 9.6 |
営業・取引先等との連絡・意思疎通に苦労した | 9.2 |
自宅に仕事に専念できる物理的環境(個室・間仕切りによるスペースや机・椅子など)がなく、仕事に集中できなかった | 7 |
自宅で仕事に専念できる状況になく(家事や育児を優先)、仕事に集中できなかった | 4.8 |
セキュリティ対策に不安があった | 3.1 |
その他の問題があった | 2.0 |
特に問題はなかった | 27.8 |
出典:国土交通省(2020)「平成31年度(令和元年度)テレワーク人口実態調査」
オフィスの賃料コストを削減し、社員の働き方を多様化できることはメリットである一方で、従来のオフィスでは感じられなかったようなデメリットが顕在化することもあるため、どの程度の縮小をするのか、どの程度のテレワーク化をするのかは個々の企業の事情に合わせて検討するべきでしょう。
オフィス縮小移転を成功させる4つのポイント
オフィスの縮小移転を成功させるには、4つの大きなポイントがあります。1つずつ見ていきましょう。
1.目的の明確化
「オフィスを縮小移転する目的は何か?」
これを明確にする必要があります。目的を明確化することによって、それまでに何をするべきか、どう行動するべきかのロードマップが見えてきます。また、目的が明確になっていることで移転先のオフィスについても目的にマッチした物件を選びやすくなります。
ただ何となく「コストを削減したい」というだけだと、手狭になってしまうだけでメリットをあまり感じられず、生産性の低下を招いてしまう恐れもあります。
2.新オフィスで働くイメージ
何のためにオフィスを縮小移転するのかという目的意識は、経営者だけでなく個々の社員にも必要です。なぜ縮小移転するのか、それによって何がもたらされるのかを全社員で共有し、新しいオフィスで働くことをイメージします。こうしたイメージを共有することにより、社員の一人ひとりが何をするべきかを考え、行動できるようになります。
3.スケジュール
オフィスの移転は1日にして完了できるものではありません。移転構想が持ち上がったところから始まり、具体的な計画の策定、新オフィスのデザインと工事を経て、ようやく移転となります。それぞれのプロセスは飛ばすことができず、順序を入れ替えることもできません。しっかりとスケジュールを組み、スムーズにオフィス移転を完了させることも、オフィス移転成功への重要なポイントです。
4.テレワークの定着
当記事のテーマはオフィスの「縮小」移転であり、単なる移転ではありません。会社のスペースが少なくなるのですから、それと同時にテレワークの普及・定着が欠かせません。従来からテレワークと親和性の高い業種であればあまり問題にはなりませんが、そうではない場合はテレワークへの動機づけやツールを使いこなすためのリテラシー向上、具体的な業務フローの確立や就業規則の設定などが必要です。
社員を減らすことなくオフィスの縮小を達成するには、出社する人数や回数を減らすことが前提になります。テレワークはそのための重要な方法論なので、オフィスの縮小移転は本格的なテレワーク導入の契機とするべきです。
縮小はしてもオフィスがゼロにはならない
当記事ではオフィスの縮小について、そのメリットやデメリットなどを解説しましたが、オフィス縮小がさらに発展するとオフィス廃止という流れになるのかというと、それは考えにくいでしょう。オフィスの縮小は検討しても廃止を考える経営者は少なく、規模の大小にかかわらずオフィスの必要性は今後も変わらないでしょう。
大規模なオフィスは不要であるもののジャストフィットする規模のオフィスを今後も使用し続けるのであれば、中小規模のビルを区分所有する形態をご提案します。それが「区分所有オフィス®️」です。「区分所有オフィス」はマンションのように一棟所有ではなく、ビルのワンフロアを所有する形態のことです。
一棟ビルを購入するには資金的なハードルが高いうえに、オフィス縮小の時代に不必要な広さであることも多く、不経済です。また同程度の予算であれば一棟所有するよりも区分所有のほうが良質な物件を探しやすく、これもオフィス縮小の流れにマッチしています。
今後、同様の考えからオフィスの縮小移転を検討する企業が多くなることを考えると、「区分所有オフィス」の市場規模が拡大することも十分考えられます。市場の拡大は流動性を高めるので、将来オフィスを売却する際にもスムーズかつ有利な価格での売却も可能になります。
※「区分所有オフィス®️」は株式会社ボルテックスの登録商標です(提供:自社ビルのススメ)
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