やってはいけない相続対策23選と注意点やトラブル回避の方法を解説
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相続税は税率が高いため、何らかの対策をしなければと考える人は多くいます。

しかし、やり方を間違えると大きな失敗につながります。

また、節税をめぐって税務署と対立して不利益になるようなことも避けたいところでしょう。

そこで、本記事では、「やってはいけないこと」を、相続税対策、遺産分割協議、手続、相続後という4つの場面に分けて解説します。

この記事でわかること
  • 相続税は税率が高いため、生前贈与や不動産の活用など適切な対策を講じる必要がある。
  • 相続人同士でトラブルにならないよう、遺留分や特別受益などを考慮する必要がある。
  • 相続税の申告、相続放棄、相続登記など、各種手続きを期限内に適切におこなう必要がある。

目次

  1. 相続にはあらゆる場面で「やってはいけないこと」がある
  2. 相続税対策でやってはいけないこと
  3. 遺産分割でやってはいけないこと
  4. 相続の手続きでやってはいけないこと
  5. 相続後にやってはいけないこと
  6. まとめ

相続にはあらゆる場面で「やってはいけないこと」がある

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相続では、あらゆる場面で「やってはいけないこと」があります。

相続の場面を大きく4つに分けて時系列に並べると、以下のようになります。

・相続税対策
・遺産分割協議
・相続手続き
・相続後

この4つの場面で何をやってはいけないのかを解説します。

また、それをやってしまうとどんな不利益になってしまうのかについても解説します。

相続税対策でやってはいけないこと

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まず、相続税対策でやってはいけないことを解説します。

相続税は高いというイメージから、節税に関心を持つ方は多くいることでしょう。

しかし、安易な節税はかえって不利益になってしまうことがあります。

以下の8つが「相続税対策でやってはいけないこと」になります。

一つひとつ詳しく解説します。

1.現金での相続

相続時、現金はその金額どおりの評価額になります。

相続税対策は現金と比較してどれだけ評価額を低くできるかがポイントです。

現金は最も評価額の高い財産ということになります。

評価額が高いと相続税も高くなります。

その理由は、相続税の累進性にあります。

こちらは、相続税の税率早見表です。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超から3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超から5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1,700万円
2億円超から3億円以下 45% 2,700万円
3億円超から6億円以下 50% 4,200万円

このように、相続税は課税対象の相続財産が多くなるほど税率が高くなります。

そのために評価額をいかに低くできるかが重要になります。

相続税を節税するのであれば、相続財産のうち現金の比率を下げることを目指すべきでしょう。

2.安易な生前贈与

「相続の前に生前贈与をしておけば相続財産を少なくできるのでは?」という考えで、安易に生前贈与をするのは絶対に「やってはいけないこと」です。

なぜなら、一定範囲を超える贈与には贈与税がかかるからです。

しかも贈与税の税率は相続税よりも高く、安易に生前贈与をしてしまうと相続税を納めるよりも高い税負担が発生します。

こちらは、贈与税の税率早見表(一般税率)です。

基礎控除後の課税価格 一般税率 控除額
200万円以下 10%  
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

いかがでしょうか。

前述した相続税と比べると、非常に高いことがおわかりかと思います。

相続税対策で生前贈与を活用するには、単に贈与をするのではなく基礎控除や各種の特例などをしっかり理解したうえで活用するべきです。

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3.各種特例や軽減措置を確認せずに相続

相続税には、「小規模宅地等の特例」など多くの特例や優遇措置があります。

これらを適用できる場合は節税になるため、積極的に活用したいところです。

しかし、こうした制度は複雑であるだけでなく制度そのものを知らないこともあります。

相続時に課税されるためオトク感はないと思っている人は多いのですが、相続時精算課税制度についても収入が発生する財産や、値上がりが見込まれる財産であれば利用価値は高いです。

状況をしっかりと踏まえたうえで各種制度の適用を検討することが重要です。

こうした制度を知らない、もしくは知っていても複雑だからと敬遠するのも、相続の「やってはいけないこと」といえるでしょう。

4.不動産の評価が不適切・不正確

現金と比べて、不動産は相続時の評価額が低くなるため、相続税対策に有効な資産です。

不動産で持っているだけで評価減になりますし、それを賃貸にするとさらに評価減といったように、高い節税効果があります。

それだけに財産を不動産にしておくことは有効ですが、その不動産を正確かつ適切に評価しなければ、不動産による相続税の節税効果は得られません。

法的に認められる範囲でしっかり評価減をしなければ意味がないので、不動産の取り扱いが適切でないのも「やってはいけないこと」の1つです。

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5.生命保険を活用せずに相続

被相続人(亡くなった人)の生命保険金には、法定相続人1人あたり500万円の非課税枠があります。

そのため、節税目的で生命保険に加入する人もいます。

比較的適用しやすい制度だけに、これを活用しないのも「やってはいけないこと」に含まれます。

6.安易な養子縁組

相続税には、法定相続人1人あたり600万円の基礎控除枠があります。

つまり法定相続人が多くなると控除される金額も多くなるため、養子縁組をして相続人を増やす節税スキームがあります。

孫など将来相続が見込まれる人を先に相続人にする場合などに用いられることが多いのですが、節税目的の安易かつ露骨な養子縁組は租税回避行為と見なされるおそれがあり、追徴課税のリスクがあります。

また、養子縁組は他の相続人の相続分が減ることになるためトラブルに発展するリスクもあります。

養子縁組をする際には将来を見据えてトラブルのないように十分な検討が必要です。

7.過度な節税

先ほどの養子縁組も含めて、過度な節税は租税回避行為と見なされ、税務署から否認されるおそれがあります。

あまりに露骨で極端な節税スキームは否認され、実際に最高裁判所まで争って最終的に納税者側が敗訴した事例もあります。

8.税理士など専門家の不在

ここまでの解説をお読みになって、やはり相続税対策は複雑で素人の手に負えないと感じた方は多いと思います。

節税スキームを実践するとしても正確な知識が必要ですし、税務署に否認されないかどうかの解釈もプロでなければわかりづらいでしょう。

少しでも自信がないと感じているのであれば、プロである税理士に依頼するべきです。

難しいと感じているのに費用がもったいないとばかりに税理士不在で相続を進めるのは「やってはいけないこと」の筆頭格といえます。

遺産分割でやってはいけないこと

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遺産分割協議は、相続人同士の権利調整に直接かかわるため、円滑に進めないとトラブルに発展するリスクがあります。

トラブルを回避するために、ここでは遺産分割協議の段階で「やってはいけないこと」をまとめました。

1.一部の相続人だけで話を進める

遺産分割協議は法定相続人全員の同意が必須です。

そのため、一部の相続人だけで協議を進めて何かを取り決めたとしても、残りの相続人が異を唱えると成立しません。

むしろ、特定の人たちだけで話を進めたことに不満を募らせ、話がこじれる原因になるでしょう。

これは典型的なトラブルのパターンなので、遺産分割協議で誰かを蚊帳の外に置くことは「やってはいけないこと」の典型例でもあります。

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2.口約束

被相続人が生前のうちに、ある相続人が口約束をしていた、というケースもトラブルに発展しがちです。

「お爺さんがこの土地をくれるといっていた」といったように、すでに当事者が他界している状況で口約束を持ち出しても信じてもらえないかもしれず、他の相続人からの不信を招きます。

本当に被相続人にその意思があるのであれば、遺言書を作成しておくべきです。

そしてその遺言書が法的に有効であるかどうかも、被相続人が生前のうちに確認しておくことが望ましいでしょう。

3.遺言書を無視する、遺留分を無視する

遺言書が存在しているのに、それを無視して相続を進めるのは絶対に「やってはいけないこと」です。

後になって遺言書が見つかった場合、その内容どおりの権利が行使されることになり、かえって不利になります。

また、相続には遺留分といって法的に認められた「取り分」があります。

これを無視した相続をしても遺留分を侵害された相続人から遺留分減殺請求(遺留分を侵害された人がその分の返還を求める請求)をされると負けることになるため、やはり不利になります。

4.特別受益、寄与分を考慮せずに相続する

特別受益とは、特定の相続人が他の相続人よりも特別な利益を得ていることです。

生前に贈与を受けた場合などが該当します。

そして、寄与分とは、被相続人の財産維持や増加への貢献のことです。

いずれも相続時に考慮されるのが妥当とされています。

特別受益があったにもかかわらずそれを考慮せずに相続した場合、他の相続人から不満が出るでしょう。

また、寄与分があったのに考慮しないのは寄与をした人が不満を抱くことになります。

つまり、これらを考慮せずに相続を進めると必ず誰かの不満を招くため、「やってはいけない」ことになります。

5.遺産分割協議に感情を持ち込む

「やってはいけないこと」のなかでは少々抽象的ではありますが、遺産分割協議に感情を持ち込むのは、最も「やってはいけない」といえるでしょう。

元から不仲だった人同士で権利の主張が衝突すると、とかく感情的になりがちです。

しかし、感情的になると問題解決はしにくくなります。

時間がかかると相続税の申告期限を過ぎてしまい、誰もトクをしない事態にもなりかねません。

6.弁護士など専門家の不在

遺産分割協議でトラブルになりそう、不明瞭な部分があると感じたら、できるだけ早い段階から相続に強い弁護士への依頼をおすすめします。

弁護士報酬がもったないとばかりに問題を放置したり、素人考えで遺産分割協議を進めた結果、かえって時間的、労力的、精神的な負担が増えてしまうこともありえます。

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相続の手続きでやってはいけないこと

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3つ目の「やってはいけないこと」は、相続の手続き編です。

相続に関連する手続きは法的に効力のある書面を作成することが多いため、ミスがあるとやり直す必要があるなど手間がかかります。

そうした手間がかからないようにするためにも、「やってはいけないこと」をしっかり理解しておく必要があります。

1.相続税の申告期限オーバー

相続税の申告には、期限があります。

その期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。

この期限内に遺産分割協議をまとめて申告をする必要があります。

時間があるようで意外にないと感じる人が多いようです。

この申告期限を過ぎてしまうと加算税や延滞税などのペナルティが発生するおそれがあり、申告期限には十分注意したいところです。

2.相続税の申告を放置

申告をすると相続税が発生するのだから、申告しなければ税金を納めなくて済む……という考えのもと、申告をせずに放置するのも絶対に「やってはいけないこと」です。

相続税の無申告は発覚する可能性が高く、もし発覚してしまうと重加算税など重いペナルティを課されてしまうおそれがあります。

無申告で相続税から逃れようとしたのに、かえって重い税金を課されてしまっては本末転倒です。

3.相続放棄の手続きを放置

被相続人に負の財産(つまり借金)がある場合は、相続放棄をすることで返済を免れることができます。

この手続きを放置してしまうと、相続人に返済の義務を生じてしまいます。

「自分には関係ない」と相続との関わりを持たないようにする人がいますが、もし被相続人に借金があった場合はそれを相続してしまうことにもなりかねません。

自分が法定相続人であることを自覚して、必要に応じて相続放棄の手続をとるようにしてください。

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4.遺産分割協議前および途中で相続財産を処分

まだ遺産分割協議が終わっていないのに、ある相続人が遺産を勝手に処分してしまう、もしくはそれを浪費してしまうといったことも絶対に「やってはいけないこと」です。

この場合、勝手に処分した財産も相続財産に含まれると解釈される可能性が高く、勝手に遺産を処分した相続人はそれだけ相続分が減ることになります。

それだけなら先に相続をしただけだと思うかもしれませんが、こうした勝手な行動が他の相続人からどう見なされるかを考えると、無謀な行為といわざるを得ません。

5.相続登記、各種手続きの放置

相続財産に不動産が含まれている場合、遺産分割協議を完了したらすみやかに相続登記をしましょう。

2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務化されており、放置していると「10万円以下の過料」という罰則が適用されるおそれがあります。

以前は義務化されていなかったために放置していても大丈夫だと思っている人は多いかもしれませんが、今後は「やってはいけないこと」となりました。

相続後にやってはいけないこと

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相続を終えた後にも「やってはいけないこと」があります。

最後に、相続後の注意点についても解説します。

1.相続した不動産を共有名義にする

不動産は分割が難しいということで、相続時に複数の相続人の共有名義にすることがあります。

これは後々になって「やってはいけないこと」になる可能性が高いです。

なぜなら、共有名義の不動産は名義人全員の同意がなければ処分ができないため、売却時に思うように行動できなくなるおそれがあります。

目先のトラブルを回避しやすいメリットはありますが、その後相続人同士が疎遠になったり不仲になったりすると、不動産を売却することが困難になってしまうかもしれません。

2.建物を無計画に解体する

相続した土地が再建築不可になっている場合、すでにある建物を解体してしまうと次に新しい建物を建てることができません。

建築基準法第43条では4メートル以上の幅がある道路に2メートル以上接していなければ再建築不可になると規定されています。

そのため、この要件を満たしていない土地にある建物を解体してしまうと、要件を満たすまで再建築ができなくなってしまいます。

建物が古いからといって無計画に解体してしまうと後悔することになりかねないので、十分に精査してから行動するようにしましょう。

3.相場観のないまま不動産を売却

相続した不動産を使用する予定がないということで売却する場合、しっかりと相場観を持ったうえで売却することを強くおすすめします。

なぜなら、相場観のないまま売却すると相場よりも安く買いたたかれてしまうおそれがあるからです。

一括査定サイトなど複数の不動産会社に査定をしてもらうなど、一定の相場観を持ってから売却活動を始めましょう。

4.土地の活用方法を決めず放置

土地は持っているだけでも固定資産税が発生します。

また、空き地などはゴミを不法投棄される可能性があるなどのリスクもあります。

相続なのでお金を出して買った土地ではないと思って放置していると、さまざまなリスクを生み出してしまいます。

相続したら「終わり」ではなく活用方法をしっかり検討しましょう。

活用方法がないのであれば、売却も1つの選択肢です。

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まとめ

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相続は人生において何度も経験するものではなく、複雑な手続きや法律が絡むため、多くの人が不安や疑問を抱えています。

相続をスムーズに進めるためには、まず「やってはいけないこと」を把握することが重要です。

相続税対策では、安易な生前贈与や過度な節税は避け、専門家のアドバイスを受けるべきです。

遺産分割協議では、相続人同士で十分に話し合い、遺言書や遺留分などを考慮する必要があります。

相続手続きでは、相続税の申告、相続放棄、相続登記など、各種手続きを期限内に適切におこなう必要があります。

相続は、家族間の人間関係を壊してしまう可能性もあるため、事前に十分な準備と話し合いをおこない、円滑に進めることが大切です。

もし、相続について不安や疑問がある場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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田中翼
田中タスク(著者)
エンジニアやWeb制作などIT系の職種を経験した後にFXと出会う。初心者として少額取引を実践しながらファンダメンタルやテクニカル分析を学び、現在は自動売買を中心に運用中。FXだけでなく日米のETFや現物株、商品などの投資に進出し、長期的な視野に立った資産運用のノウハウを伝える記事制作に取り組む。初心者向けの資産運用アドバイスにも注力し、安心の老後を迎えるために必要なマネーリテラシー向上の必要性を発信中。

(提供:ACNコラム