医療保険,個人年金
(写真=PIXTA)

現在は、個人のライフスタイルの多様化に伴い、生命保険の保障内容や加入経路の選択肢が広がっている。老若男女を問わず関心の高い医療保険も例外ではない。

医療保険は保障内容が保険会社によって異なるため、どの医療保険が自分に合っているか、がん保険は別途加入すべきか、それとも特約にするかなど、医療保険加入にあたり悩む人は多い。

ここでは、医療費の現状や公的セーフティネットである高額療養費制度などを踏まえて、医療保険について考えてみたい。

伸び続ける医療費

医療費は年々増加傾向にある。厚生労働省が発表した「平成26年度医療費の動向」の集計結果概要によると、平成26 年度の医療費はついに40兆円の大台となった。平成22年度は36.6兆円なので、4年間で約3.4兆円も増加したことになる。

総額で増えただけでなく、一人当たりにかかる年間の医療費も直近3年で2%弱ずつ増え続けている。ちなみに、同集計結果によると、75歳未満の一人当たりの医療費は21.1万円、75歳以上の場合は93.1万円に跳ね上がる。

上記は、公的医療保険適用分のみを集計したものなので、一般の市販薬や保険適用外の治療費までを含めると、さらに大きな数字となる。健康保険制度のおかげで全額自己負担とはならないものの、特に高齢者世帯の家計にとって、無視できない支出だ。

高所得者に厳しくなった高額療養費制度

家計における医療費負担を緩和するための公的なセーフティネット、それが高額療養費制度だ。高額療養費制度とは、1ヶ月にかかった医療費の自己負担分がある一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、超えた分の支払いを還付してもらえる制度である。

自己負担限度額は、会社員や自営業など加入する健康保険の種類を問わず、年齢や所得など一定のルールに基づき計算される。この所得区分が平成27年1月診療分より3区分から5区分に細分化され、改定にともない高額所得者の自己負担限度額が引き上げられることとなった。

新しい制度下では、70歳未満の場合、標準報酬月額が26万円以下(年収が約370万円未満)の人の自己負担限度額がより低く抑えられる一方で、標準報酬月額が53万円以上(年収が約770万円超)の人の自己負担限度額が旧制度より増えることになった。高額所得者になるほど自分が負担する医療費の上限が増えるため、普段から医療費へ備える必要性が高まったと言える。

貯蓄だけで対応するのは厳しい時代に

たとえば、ある月の総医療費が100万円かかった場合で試算してみよう。年収約300万円の人の自己負担限度額は旧制度で約8万7,000円であったものが、新区分では約3万円減って約5万8,000円まで下がった。年収約500万円の場合、自己負担限度額は新区分でも変わらず約8万7,000円だ。

しかし、年収が約800万円になると自己負担限度額は上がる。旧制度で約15万5,000円だったものが、新区分では約1万7,000円増えて約17万2,000円になる。同様に、年収約1,200万円ならば、自己負担限度額は約25万4,000円となる計算だ。

実際に手術、入院ともなれば、家族の病院への付き添いのための交通費や差額ベッド代など医療費以外の出費もかさむだろう。今以上に貯蓄で対応するのが厳しい世帯が多くなるのではないだろうか。

50代以上の2人に1人が「がん」になる

ところで、治療費が高額な難病と言うと真っ先にイメージされるのが「がん」ではないだろうか。国立がん研究センター(がん対策情報センター)がまとめた「がん統計」によると、男女とも50歳代あたりからがんにかかる割合(がん罹患率)が増加し、生涯でがんに罹患する確率は、男性で2人に1人(62%)、女性の場合もほぼ同様で46%にのぼる。決して他人事ではない病気になりつつあるのだ。

がん治療のための費用は当然かかる部位やその進行度によっても大きく異なるが、最近の傾向として、入院の短期化と通院治療として長期にわたる抗がん剤治療がある。抗がん剤は1錠数千円といった薬剤も珍しくなく、薬代だけで月に7〜8万円かかることもあるそうだ。また、点滴治療の場合1回の点滴にやはり数万円ほど治療費がかかることもある。退院後にかかる治療費負担は相当重い。

医療保険を賢く活用することが大切

がん保険の最近の傾向として、入院日額保障より、先進医療特約や抗がん治療特約などこうした高額治療への備えに役立つ保障を重視したプラン、商品が目立つ。また、診断された時点で、ある程度まとまった金額の給付金が受け取れるがん保険も多い。すでに医療保険やがん保険に加入していても、加入した年によっては保障内容が現代の治療方針に合っていないことが多いにあり得る。保障内容を一度確認することをおすすめしたい。

自分が病気に罹るかどうかは誰にも分からない。しかし、加齢とともに病気やけがのリスクは確実に高まっていく。また、頼りとなる社会保障制度も現状のままとは限らない。今後の改定により医療費の自己負担が増える可能性は高いだろう。貯蓄を積み増していくとともに、医療保険を賢く活用して自ら医療費に備えることが大切ではないだろうか。