「人生100年時代」という言葉を耳にすることが増えた。多くの人が長生きをリスクと考えるようになりつつある。そして、長生きしている間に病気や事故で医療を受ける際の費用について不安に思う人も多い。多くの人にとって「病気を抱えながら長生きするリスク」が大きな不安となっている。このリスクをカバーする医療保険への関心は高いが、不要論を聞く機会も多い。それぞれの根拠を知り、自分にとっての要、不要を見極めよう。 (2020年11月27日編集部一部加筆)

目次

  1. 「病気や事故」が生活上の不安のトップ
  2. 医療保険とはどんな保険?
    1. 医療保険の保証内容とは?
    2. 入院給付金とは?
    3. 手術給付金とは?
    4. 医療保険のさまざまな保障
    5. 医療保険(定期型)と医療保険(終身型)とは?
  3. 医療保険の加入率はどのくらい?
  4. 医療保険不要論の根拠とは
    1. ●「社会保険が手厚いので民間の保険に頼らなくても済む」説
    2. ●「自己負担の医療費や関連費用は貯蓄で備えておいたほうがよい」説
    3. ●「今までの医療保険は“使い勝手が悪い”ものも多い」説
    4. ●「長期入院だと保障がつかないのでは?」説
  5. 医療保険必要論の根拠とは
    1. ●「社会保険は万能ではない」説
    2. ●「貯蓄ができるまでの時間が必要」説
    3. ●「保険商品も進化・多様化している」説
  6. 医療保険は割に合う商品なのか?
    1. 生涯に払う医療保険料はどれくらい?
    2. 医療保険の給付金はどれくらいもらえる?
    3. 医療保険は得なのか損なのか
  7. 医療保険が必要な人、不要な人
    1. 必要な人
    2. 不要な人
  8. 変化する保険商品の動向に目配りを

「病気や事故」が生活上の不安のトップ

医療保険,不要論,見直し
(画像=PIXTA)

生命保険文化センターが生活保障に関する調査を実施、「生活上の不安」を尋ねたところ、自分や家族が「病気や事故にあうこと」が最も多かった(「平成28年度生活保障に関する調査《速報版》」)。

この「病気や事故」への不安は、ほかの選択肢――たとえば「自分や家族に介護が必要になること」や「死亡すること」「老後の生活が経済的に苦しくなること」――などを押さえてのトップである。

同調査は、「医療保障に対する私的準備状況」についても調べている。公的医療保険以外に私的に何らかの準備をしている割合は84.2%。準備手段は生命保険が72.9%、損害保険20.9%、預貯金42.0%、有価証券5.6%、その他0.5%となっている。

医療保険は近年契約数が増えている。生命保険協会による「生命保険の動向(2017年版)」によると、2016年に新規契約が最も多かったのが「医療保険」だという。

一方で、「民間の医療保険は要らない」という主張もある。インターネットで「医療保険」関連のキーワードで検索してみると、そのような主張をするファイナンシャル・プランナーや元保険マンのサイトがちらほら出てくるだろう。書店にも同様に「医療保険不要論」を唱える書籍が存在している。実店舗で平積みになっているものを見たことがある人もいるだろう。

長い人生で最も気がかりな「病気やケガ」。本当に医療保険で備える必要はないのだろうか。実は、医療保険の要・不要は、独立系ファイナンシャル・プランナーの中でも意見が分かれる。まずはそれぞれの主張の根拠を知り、そして自分はどちらにあてはまるか考えていこう。

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医療保険とはどんな保険?

まず、医療保険は以下2つの種類がある。

  • 国民健康保険や社会保険などの「公的医療保険」
  • 民間の保険会社が提供する医療保険

ここでは、民間の保険会社が提供する医療保険の保証内容を見ていこう。

医療保険の保証内容とは?

医療保険は主に「入院給付金」と「手術給付金」を保障している。病気やケガによって、手術しなければならなくなり、それに伴い入院も必要になるリスクは誰にでもあるものだ。医療保険に加入すると、このような急な医療費に対応できる。

なお、保険会社や保険の種類によっては、入院給付金の対象となる入院日数や内容、手術給付金の対象となる手術内容や金額が異なることもあるので注意したい。

入院給付金とは?

入院給付金とは病気になったり、ケガをしたりした際に入院した場合、給付されるものだ。入院1日あたりの金額が決められており、入院した日数によって給付金が支払われる仕組みである。なお、入院した日数ではなく入院すると一時金が支払われる「入院一時金」を取り扱う保険会社もある。

入院給付金は以下の計算式で求められる。

  • 入院1日あたりの給付金額×入院日数=入院給付金

例えば、入院1日あたりの給付金額が1万円の医療保険に加入していた場合、20日入院すると、1万円×20日=20万円の入院給付金が受け取れるのだ。

手術給付金とは?

手術給付金とは病気になったり、ケガをしたりした際に手術した場合、給付されるものだ。給付額は以下の式で求められる。

  • 1日あたりの入院給付金×約款所定の給付倍率=手術給付金

例えば、1日あたりの入院給付金が5,000円で、約款所定の給付倍率が10倍であると、5,000円×10倍=5万円の手術給付金が受け取れるのだ。

ただし、手術の内容や手術を受けた条件によって、給付倍率が異なる保険商品もあるので注意したい。

医療保険のさまざまな保障

医療保険には「入院給付金」と「手術給付金」のほかにもさまざまな保障が用意されている。契約した保険商品に最初から備わっているものもあれば、後から追加できる保障もある。

主な保障は以下のとおりだ。

  • 三大疾病(がん・急性心筋梗塞・脳卒中)に対する保障
  • 先進医療に対する保障
  • 生活習慣病(がん、心疾患、糖尿病など)の入院保障
  • 女性疾病保障
  • 通院保障

医療保険の加入を検討する際には、自身に必要な保証内容や保証される範囲・期間を十分に確認するとよいだろう。なお、医療保険の保証内容は更新されることもあるため、加入後も定期的に見直すことも必要だ。

医療保険(定期型)と医療保険(終身型)とは?

医療保険には保険の対象となる期間が定められている「定期型」と、保険期間が一生涯となる「終身型」の2種類がある。

定期型の医療保険は10年や20年などの一定期間加入できるもの、または60歳や70歳などの一定年齢までを保障するものだ。終身型の医療保険よりも保険料が低いことが、メリットとして挙げられる。ただし、医療保険を更新する際には多くの場合、保険料が上がり、さらに一定年齢からは更新が不可能にあるというデメリットも。

一方で、終身型の医療保険は定期型の医療保険に比べると高い。だが、契約時の保証内容が一生涯続くことが大きなメリットだろう。

医療保険の定期型と終身型はそれぞれメリット・デメリットがあるため、どちらがよいと判断することは難しい。医療保険に加入する方の考え方や、ライフプランに応じて選択するとよいはずだ。

医療保険の加入率はどのくらい?

続いて、医療保険の加入率について見ていこう。

公共財団法人生命保険文化センターによる「平成28年度生活保障に関する調査/疾病入院給付金の支払われる生命保険加入率」では、約72%の方が疾病入院給付金が支払われる生命保険に加入していることがわかった。そして、生命保険に加入していない方は約13%という結果に。

生命保険に加入している方が7割を越えているため、生命保険に加入することは一般的であると言える。民間の医療保険に加入するかどうかは、本人の意思によって決められる。だが、多くの方が生命保険に加入しており、万が一の病気やケガに備えていることがわかる。

また、世帯主と配偶者における医療保険の加入率は、公共財団法人生命保険文化センターの「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」によると、以下の結果が明らかになった。

  • 世帯全体:88.5%
  • 世帯主:82.5%
  • 配偶者:68.2%

世帯主の方が配偶者よりも医療保険に加入している割合が高い理由は、世帯全体の収入において世帯主の収入が占める割合が多いからであると考えられる。もし、世帯主が病気やケガで働けなくなった場合のリスクが反映されているのだろう。だが、配偶者の医療保険が不要だとは言えない。配偶者ももちろん病気やケガになり医療費が必要になるリスクがあるからだ。よって、配偶者の方も高い加入率を示しているのだろう。

続いて世帯の年収別における医療保険の加入率をみると、以下の結果になった。

  • 200万円未満:81.9%
  • 200〜300万円未満:82.8%
  • 300〜400万円未満:84.5%
  • 400〜500万円未満:91.0%
  • 500〜600万円未満:91.3%
  • 600〜700万円未満:92.0%
  • 700〜1,000万円未満:90.4%
  • 1,000万円以上:92.8%

世帯年収が高くなるにつれて、医療保険の加入率が高くなっていることがわかる。特に、世帯年収が400万円以上であれば、9割近くの方が医療保険に加入している。1,000万円以上の世帯年収がある世帯でも90%以上の加入率があることから、医療費を貯蓄でカバーせずに医療保険で対応することも明らかになった。

さらに、医療保険の年代別では、29歳以下から75〜79際までの加入率は80%以上という結果に。病気やケガによる手術や入院は誰にでも起こりうることなので、このような高い加入率になっているのだろう。また、80歳以上の加入率は低くなっている。80歳以上の方であれば病気やケガのリスクが高まるため加入率は高くなるはずだ。しかし、医療保険が満期で終了したり、年齢や持病があるなどの理由で医療保険に加入できなかったりする理由が関係していると思われる。

医療保険不要論の根拠とは

インターネットや書籍で「医療保険不要論」を唱える専門家は多い。長い人生に病気やケガはつきもの、それにもかかわらず「医療保険」で備える必要はないという主張の根拠は何だろうか。

●「社会保険が手厚いので民間の保険に頼らなくても済む」説

日本には国民皆保険の制度があり、誰もが何かの社会保険に入っている。病気で困窮することがないよう、社会全体で助け合う社会保険が公的医療保険だ。サラリーマンであれば勤め先の被用者保険(健康保険や共済組合)、自営業やフリーランスの人は地域保険(国民健康保険)に加入しているはずだ。

加入者本人と被扶養者は「健康保険証」を持って医療を受ける。すると、70歳までは実際に掛かった医療費の3割の負担で済む。子供や高齢者は2割以下のこともある。これを公的医療保険の「自己負担割合」という。

そして、自己負担の金額が高額になっても、一定額に達するとそれ以上は負担しなくて済む制度もある。「高額療養費」と呼ばれる制度だ。

この一定額は、その人の標準報酬月額に応じて決まる。5段階あるが、真ん中の「標準報酬月額28万円から50万円」(年収370~770万円)にあてはまるサラリーマンが多いだろう。この場合、自己負担限度額は「8万100円+(医療費-26万7,000円)×1%」となる。よって、10万円を大きく超えるような医療費を負担しなければならない可能性はあまり高くない。

医療費の負担が長期に渡ると、さらに負担が軽減される。「多数回該当」と呼ばれるもので、過去12か月以内に3回上限額に達した場合には、4回目から上限額が下がることになっている。先ほどの「標準報酬月額28~50万円」で4万4,000円となる。

また、被用者保険では休業時の補償が手厚い。労働者は自分の労働力を差し出す以外に賃金を得る手段がないので、医療が発達していなかった時代には所得補償という側面が強かったという歴史的背景もある。

具体的には「傷病手当金」という制度で、病気やケガで仕事を3日以上続けて休んだ場合、4日目から最長1年6カ月支給される。1日当たり、直近の標準報酬月額12か月分の平均額を30で割った額の3分の2となる。

なお業務上のケガや病気であれば、労災保険から休業補償給付(通勤途中なら「休業給付」)が出る。これは賃金を貰えない日が4日以上あるときに、4日目から基礎日額の60%相当額が支給されるものだ。この基礎日額は直近3カ月の平均賃金とされる。

このように民間の保険を考える以前に社会保険が手厚いという事実は確かにある。

●「自己負担の医療費や関連費用は貯蓄で備えておいたほうがよい」説

社会保険の仕組み上、医療費の負担が青天井で高額になる可能性は高くない。長期間仕事を休んだサラリーマンの収入が、急に途絶えることもまずない。

高額療養費の限度までの自己負担額、それから公的医療保険では支給されない交通費や入院に掛かる雑費(衣料品や差額ベッド代など)は、貯蓄で備えることも十分可能だ。

必要な貯蓄額は人によってもちろん異なる。まず被用者保険と地域保険とで休業補償の有無が分かれるので、サラリーマンと自営業者では違いがある。また、大企業だと公的医療保険以上に手厚い給付を行ってくれることもあり、この場合は必要な貯蓄はさらに少なくて済む。

仮に高額療養費上限の医療費と一日数千円の支出で6カ月間闘病するとし、休業補償がないとすると、大体100万円程度が必要となる。1年を想定するなら倍の200万円だ。大体100万単位の貯金が目安となるだろう。

●「今までの医療保険は“使い勝手が悪い”ものも多い」説

医療保険に加入して保険料を支払っても、給付を受けるのは保険契約で決まった条件にあてはまるときだけだ。

例えば、今の医療保険は入院や手術に対する給付が主であり、入院や手術を伴わない通院での医療費がいくらかかっても保険金は支払われない(入院や手術後の通院ならば支払われるタイプもある)。また、1回の入院について支払い日数の限度がある(60日や120日などであることが多い)。

また保険によって疾患の定義が微妙に異なることもある。同じ心疾患でも保険商品によって給付対象となったりならなかったりする。また、医療保険を単体で購入せず、生命保険の特約で医療保障をつけている場合などは、保険料の払込期間しか保障されないことが多い。病気が気になる年令になったとき、使えなくなることもあるのだ。

月に数千円の保険料でも、ずっと払っているうちに保険料の総支払額は100万円以上の金額となることもある。この金額を給付が契約で限定される保険商品の購入にあてるのではなく、自由に使える貯蓄に回したほうが合理的だ。病気になれば医療費として使えばいいし、病気にならなければほかのことに好きに使うこともできる。

したがって、「わざわざ不自由な医療保険」に加入する必要はない」というのが不要論を唱える人たちの論拠だ。

●「長期入院だと保障がつかないのでは?」説

「長期間、入院した場合には医療保険の対象外になるのではないか」と不安になる方もいるだろう。だが、入院日数は30年前と比べると短くなっている。厚生労働省の平成26年患者調査における退院患者の平均在院日数によると、平成2年の44.9日をピークに平成26年には31.9日にまで減少しているのだ。

また、医療保険に加入する際には「支払限度日数」を設定しなければならない。「支払限度日数」とは1回の入院につき入院給付金を受け取れる日数の上限のことだ。例えば、支払限度日数が120型の医療保険に加入した場合、実際に100日間入院すると給付金が受け取れる。ただし、支払限度日数が60日型の医療保険に加入していた場合は、61日目以降の入院に対する給付金を受け取れないのだ。

しかし、支払限度日数を延長できるタイプの医療保険もある。生活習慣病や三大疾病などの病気で入院した際には、支払限度日数が最初に契約した日数よりも延長されたり、無期限になったりする場合も。さらに、入院が予定よりも長期に変更となったときには、一時金を給付するタイプもある。

長期間の入院になった場合に医療保険の対象外となり、医療費をカバーできるか不安になるだろうが、支払限度日数が伸びたり、一時金が受け取れたりするなど、さまざまなタイプの医療保険があることをおさえておこう。

医療保険必要論の根拠とは

反対に医療保険が必要な根拠とはどのようなものだろうか。ここまで述べてきた「不要論」を裏側から見たものとなる。

●「社会保険は万能ではない」説

医療費を一定額に抑えられる高額療養費制度には、実は落とし穴がある。暦の上での月をまたいで合算することができないのだ。同じ月なら上限額までの負担で済むものも、月をまたいでしまうとふた月分それぞれについて上限額を超えなければ払い戻されないのだ。

また高所得者は上限額も高い。標準報酬月額53万~79万円(年収約770~約1,160万円)では上限額は「16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1%」となる。これより高所得だと「25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1%」だ。長期にわたると、多数回該当でそれぞれ「9万3,000円」「14万100円」となるが、それでも経済的には大きな出費となる。

また、高齢化で社会保障制度は厳しい状況にある。近年でも所得の多い高齢者の自己負担割合が、現役世代並みの3割となる制度改正があった。高額療養費は深刻な病人向けの制度なので改悪の恐れは少ないが、必ずしも安泰とも言えない。

そして、そもそも社会保険は被用者には手厚いが、自営業やフリーランスには休業補償などがない。社会保障の助けがもともと手薄な人もいる。こういう人は医療保険で備えることも考えるべきだろう。

●「貯蓄ができるまでの時間が必要」説

社会人になって間がない若年層は、貯蓄もそれほど多くない。それなのに大病を患ってしまうと経済的に厳しくなる。自力で対処できない経済的負担に備えるために、貯蓄の妨げにならない程度に掛金の安い医療保険に一つは加入しておいたほうが良いだろう。

●「保険商品も進化・多様化している」説

ひと昔前、医療保険のテレビコマーシャルで「入院1日目から保障します」といううたい文句が盛んに使われていた。それ以前は4~5日入院してようやく入院給付が下りるという商品が主流だったのだ。もっと昔は単体の医療保険がなく、生命保険の医療特約しかなかった時代もある。

保険商品も社会のニーズに合わせて変化する。医療保険は今後成長が見込まれる分野で、各保険会社も競って目新しい商品を出そうとしている。

医療の進歩や政府の医療費抑制策によって入院日数は短くなっており、近年の医療保険には「日帰り入院」を含む短期入院に焦点を合わせているものも多い。一方で脳血管疾患のように治療が長期にわたる疾病を対象に、特約などで保障を手厚くしている保険商品もある。

掛け捨てが嫌な人には還付給付金がある保険商品もあるし、支払い分だけをカバーし保険料を格安に抑える実費型商品もある。めったに起こらないが起これば高額となる「先進医療」や「臓器移植」にのみ備える保険商品もあり、確率の問題でワンコインという非常に手軽な保険料となっている。

購入の仕方も、ネット上で自分に必要な保障を自由に組み合わせて購入できる保険会社もある。保障も保険料もシンプルで分かりやすい。

今までの医療保険は、疾患や医療の変化に対応していなかったものも多かった。しかし、人生100年時代、何よりも「病気とケガ」が不安な世代に安心を提供するため、保険会社が様々に医療保険を進化させている。

多様な選択肢の中に、貯蓄以上に魅力的な保険商品が見つかれば、加入を検討してもよいだろう。

医療保険は割に合う商品なのか?

ここまで、医療保険の不要論・必要論について解説した。そこで次は、医療保険は割に合う商品かどうかを考えてみたい。

生涯に払う医療保険料はどれくらい?

まずは、生涯に支払う医療保険の総額を見てみよう。

以下の条件で、医療保険に加入したと仮定する。

  • 契約年齢:30歳
  • 入院給付金日額:5,000円(入院給付限度日数120日)
  • 通算給付限度日数:1,000日
  • 手術保障あり
  • 保険期間:終身
  • 保険料払込期間:終身
  • 死亡保障:なし
  • 解約払戻金:なし
  • 月払い保険料:1,850円

この条件で85歳まで生存すると医療保険を55年間支払い続けることとなり、生涯に支払う保険料の支払い総額は122万1,000円となる。もちろん、月払い保険料は条件や保険商品によって異なるため、総額がさらに増える場合もあるだろう。

医療保険の給付金はどれくらいもらえる?

次に上記の条件で、医療保険の給付金をどれくらいもらえるのかをみていく。

25日間入院した場合、12万5,000円の入院給付金が給付される。また、入院給付限度日数の最大である120日分の入院給付金は60万円だ。なお、入院給付金は病気やケガの治療を目的とした入院に支払われるため、検査入院は対象にならない場合があるので注意したい。

医療保険は得なのか損なのか

続いて、医療保険に加入すると得なのか損なのかを考えてみたい。

上記の条件において、通算で245日分の入院給付金を受け取れば生涯支払った保険料を上回る。つまり、医療保険に加入して得をしたことになるのだ。反対に、受け取った給付金より支払った保険料のほうが多ければ、損になったと考えられる。

ただし、入院給付限度日数が120日までと設定されているため、1回の入院に対する給付金の制限がある。すなわち、給付対象となる手術がない単一傷病による連続入院では、121日以上の入院給付金は受け取れない。同じ病気で再入院した場合は、退院してから入院するまでに180日以上の間隔が必要などの条件がある。よって受け取れる給付金の総額が、生涯に支払った保険料を上回る条件は限られていることに気をつけたい。

一生を通じて病気やケガなどがほとんどなく健康であった方は、給付金を受け取れずに保険料を支払い続けることになるだろう。一方で、入院が長引き医療保険に加入していて給付金が経済的な支えになった方もいるはずだ。

このように医療保険に加入すると得なのか損なのかは、加入者の状況によって大きく左右されることがわかる。

医療保険が必要な人、不要な人

続いて、医療保険が必要になる人、不要な人をそれぞれの状況に応じて考えてみたい。

必要な人

急な医療費などがあると、日常生活に影響が及んでしまう方には医療保険が必要だろう。現在の貯蓄額に不安な方や生活費にあまり余裕がない方においては、病気やケガの医療費で急な出費が発生することが心配だろう。

また、手厚い医療を受けたい方にも医療保険は適している。将来的に先進医療を受ける可能性を考慮して、先進医療特約を付加できる医療保険もある。先進医療とは高度な医療技術を用いた治療のなかでも厚生労働大臣から承認を受けた医療のこと。しかし、先進医療は保険診療外の医療行為になるため、公的医療保険の適用外となり費用は全額自己負担となるデメリットがある。そのため、加入する医療保険に先進医療特約を付帯させておき、将来的なリスクを軽減することが可能だ。

さらに、重い病気やケガになった場合のことが不安な方にも医療保険をおすすめしたい。自営業の方などで収入が不安定な方は病気やケガにより働けなくなった場合のリスクを常に抱えているといえるだろう。会社員であれば有給休暇が利用できたり、社会保険に加入している方は傷病手当金が給付できたりする。だが、自営業の方が加入している国民健康保険には傷病手当金などの制度がない。そのため、医療保険に加入することで収入がなくなった場合のリスクに備えられるだろう。

このように、医療保険は入院した場合の経済的精神的な不安を少なくしてくれるものだ。上記に該当する方は医療保険への加入を検討してもよいだろう。ただし、医療保険を加入するタイミングで持病がある、通院しているなどの条件があると医療保険に加入できないことも。加入できた場合でもこれまでの病気や体の一部分が医療保険の対象外になる可能性もある。そのため、医療保険に加入するタイミングは、健康状態が良好である際に検討したほうが良いと言えるだろう。

不要な人

貯蓄が十分にある方は医療保険に加入しなくてもよいはずだ。医療保険は手術や入院にかかる費用を保障するもの。そのため、入院や手術が急に必要になった場合でも備えられる貯蓄がある場合は、医療保険は不要になるだろう。

また、経済合理性を重視したい方にも医療保険は不要といえる。「医療保険を支払っても自身が常に健康であれば、医療保険の費用は無駄だ」と考える方には必要ないはずだ。

ただし、医療保険にはさまざまなタイプがあるため、自身の経済状況や目的によって加入したほうが良い場合もあることをおさえておこう。さらに、医療保険には病気やケガになる身体的リスクと、急な出費が必要になる経済的リスクが同時に起きないようにするメリットがある。そのため、日常生活において、身体的・経済的な安定を求める方に医療保険は有効な手段と言える。

変化する保険商品の動向に目配りを

医療費の負担は長生きする上で大きな不安だ。ただやみくもに医療保険に加入するのではなく、まずは社会保険で賄える分を熟知したい。

貯蓄がない間は保険料が安いものを購入しておこう。過去の医療保険は貯蓄より使い勝手が悪いものもあったかもしれないが、保険商品は進歩している。自分のニーズに合ったものが登場しているかもしれないし、今後も誕生するだろう。最新の保険商品の動向に目配りしつつ、病気やケガに対するリスクマネジメントを行おう。(ZUU online編集部)

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