医療保険は、掛け捨て型と貯蓄型の2つに大別される。両者にはどのような特徴があるのだろうか。医療保険に加入する際は掛け捨て型と貯蓄型、それぞれのメリット・デメリットを把握したうえで比較検討し、自分に合った商品を選ぶことが大切である。
目次
掛け捨て型と貯蓄型 それぞれの特徴とは
医療保険には、掛け捨て型と貯蓄型の2種類がある。
「掛け捨て型」とは解約返戻金がないタイプの契約で、保険期間が定期か終身かを問わず、解約時に払い込んだ保険料が戻ってくることはない。
これに対して「貯蓄型」とは、解約返戻金がある契約のことをいう。解約返戻率は保険期間の長さに比例して高くなっていくのが一般的で、解約した場合はその時点における返戻率に基づき算出された解約返戻金を受け取ることができる。
健康祝金・生存給付金がある医療保険も販売されている
近年は「健康祝金特約」を付加できる医療保険も販売されている。
例えば、アクサダイレクト生命保険株式会社の『終身医療保険』では、3年間、給付金等を受け取る事態にならなかった場合に、健康祝金が支払われる。また、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社の『女性のための入院保険 フェミニーヌ』では、生存している限り、途中で給付金を受け取ったとしても3年ごとに生存給付金が支払われる。
解約返戻金とは性格が異なるものの、約定の要件を満たした場合に給付金を得られるという点において、健康祝金特約や生存給付金特約を付加した医療保険も「貯蓄型」に分類できるだろう。
人気があるのは貯蓄型の保険
2016年に実施された調査によると、「生命保険は掛け捨て型商品志向か貯蓄型商品志向か」という質問に対して、65.2%の人が「貯蓄型商品志向」、27.5%の人が「掛け捨て型商品志向」と回答している(生命保険文化センター『平成28年度生活保障に関する調査』より)。
やはり「掛け捨てはもったいない」「貯蓄型のほうが得」「保険料が返ってくる商品のほうがいい」といった意識がはたらくのであろう。これは生命保険についての調査だが、医療保険についても同様だと考えられる。
しかし本当に貯蓄型のほうが得なのだろうか。ここからは掛け捨て型の医療保険と貯蓄型の医療保険について、それぞれのメリット・デメリットを分析する。
掛け捨て型の医療保険に加入するメリット
解約返戻金がなく「もったいない」と思われがちな、掛け捨て型の医療保険。しかし、このタイプの医療保険には、以下のようなメリットがある。
貯蓄型に比べて保険料が安い
入院や手術などのリスクは、年齢に比例して高くなる。そのため、毎年の保険料は年齢とともに上がっていくはずであるが、保険会社はこれを避けるべく、保険期間中における「払込保険料」と「支払保険金」が契約全体として等しくなるよう、毎月同額の保険料を設定している。これにより、保険期間の前半は支払保険金が払込保険料を下回ることになる。この差額部分を「責任準備金」と呼び、保険会社は将来の保険金の支払いに備えて、これを積み立てている。
積み立てておくべき責任準備金は、支払う可能性がある保険金額に比例して多くなるし、責任準備金が多くしようとすれば、その分だけ保険料も上がる。この点、掛け捨て型の医療保険で保険会社が支払うのは、入院給付金や手術給付金、その他特約による給付金に限られる。つまり、貯蓄型のように加入者に対して将来払い戻す金額を考慮する必要がないのだ。そのため、掛け捨て型の医療保険は貯蓄型の医療保険に比べて積み立てておくべき責任準備金が少なく、その分、保険料を安く抑えられるのである。
新商品への乗換えが容易
公的制度や医療事情は、日々変化している。そのため、現在加入している保険では入院や手術への備えが不十分になる日が、将来的に訪れるかもしれない。そういった場合は保障内容の見直しや新商品への乗換えを検討する必要があるのだが、貯蓄型の医療保険に加入していると、「いま解約すると返戻金が低いためもったいない」という意識がはたらき、乗換えに億劫になってしまうことがある。
この点、掛け捨て型の医療保険であればそういった「縛り」がないため、新商品への乗換えを検討しやすいのだ。もちろん、貯蓄型の医療保険に加入している人が、解約返戻率が高くなるタイミングを待って乗り換えることも不可能ではない。しかし、医療保険の保険料は年齢を重ねるにつれて高くなるし、健康状態によっては新商品への加入が難しい場合もある。
掛け捨て型の医療保険に加入するデメリット
掛け捨て型の医療保険に加入するデメリットはやはり、「解約返戻金がない」という点に尽きるだろう。保険期間中に入院したり手術を受けたりしなかった場合、払い込んだ保険料を「丸損」してしまうことになる。
ただ、前述のように掛け捨て型の医療保険は、貯蓄型に比べて保険料が安く設定されている。そのため、「解約返戻金がない」というのは、メリットと背中合わせのデメリットといえるだろう。
貯蓄型の医療保険に加入するメリット
貯蓄型の医療保険に加入する最大のメリットは、「お金が貯まる」という点である。解約返戻金があるタイプの商品では解約時に約定の返戻率に基づく解約返戻金を受け取れるし、一定の条件を満たすことで健康祝金を受け取れる商品もある。例えば、東京海上日動あんしん生命保険株式会社の『メディカルKit R』では、入院給付金を受け取らなかった場合に払い込んだ保険料の全額を、給付金を受け取った場合でも差額分を払い戻してもらうことができる。
一定の保障を担保しつつお金を貯めることができるというのは、この種の商品最大の魅力といっても過言ではないだろう。
貯蓄型の医療保険に加入するデメリット
「保険料をムダにせずお金を貯めることができる」というイメージが強い、貯蓄型の医療保険。確かに魅力的ではあるが、この種の商品には以下のようなデメリットがあることも忘れてはならない。
掛け捨て型に比べて保険料が割高
医療保険の保険料は、積み立てておくべき責任準備金の額に左右される。そしてこの責任準備金には、「保障」部分だけでなく、解約返戻金や生存給付金、健康祝金なども含まれる。そのため、貯蓄型の医療保険は、掛け捨て型の医療保険に比べて保険料が高くなってしまうのだ。
「払い込んだ保険料が戻ってくる」「一定期間ごとに健康祝金が給付される」と聞くと、確かにお得なようにも感じる。しかし、解約返戻金や健康祝金は保険会社からのボーナスでもプレゼントでもなく、責任準備金の、つまり、自らが払い込んだ保険料の一部を受け取っているにすぎないのだ。
入院や手術をすることで損をする可能性がある
近年は、東京海上日動あんしん生命保険株式会社の『メディカルKit R』のように払込保険料が戻ってくる商品や、メットライフ生命保険株式会社の『終身医療保険Flexi S』のように数年ごとに健康祝金が給付される商品が販売されている。
とてもお得で魅力的に思える商品ではあるが、これらの給付金を受け取れるのは、約定の条件を満たした場合に限られる。例えば、『メディカルKit R』に関していえば、入院給付金等の合計額が払込保険料額を超えなかった場合のみ、払込保険料の全額もしくは差額が返戻される。入院給付金等の合計額が払込保険料額を超過した場合は、保険料の返戻を受けることができないのだ。
健康祝金や保険料の返戻を受けられない、という点においては掛け捨て型の医療保険と同じだが、貯蓄型の医療保険の場合、保険料が高めに設定されている。そのため、入院や手術によって健康祝金等の給付を受けられなくなった場合は、その分だけ損をしてしまう可能性があるのだ。
掛け捨て型と貯蓄型、どちらを選ぶべきなのか
掛け捨て型の医療保険と貯蓄型の医療保険、それぞれのメリット・デメリットについて考察してきた。では、我々が医療保険に加入する場合、どちらを選択すべきなのだろうか。
終身医療保険は掛け捨て型がややリードか
近年は、終身医療保険のニーズが高まっている。入院や手術のリスクは死亡直前まで続くのだから、平均寿命の延伸化が進む現在、生涯にわたり一定の保険料で同じ保障を受けられる終身医療保険は、非常に魅力的であろう。
そして、終身医療保険に加入する場合、掛け捨て型の方がややリードしている印象を受ける。というのも、終身医療保険は養老保険や定期保険とは異なり、生涯にわたり契約を継続すること、つまり、解約しないことを前提としている。そうすると、「解約時に」解約返戻金を受け取れるかどうか、という点にこだわってもあまり意味がないのだ。
また、上述のように、健康祝金特約等を付加したとしても入院や手術により給付金を受け取ってしまえば、支払った特約保険料については損をしてしまうことになる。
「保障」と「貯蓄」は分けて考える
医療保険は、養老保険や個人年金保険とは異なり、入院や手術に備えた「保障」としての性格が強い商品である。もちろん、これに貯蓄性を求めることが間違いというわけではないし、貯蓄型の医療保険に加入すれば、解約返戻金や健康祝金を受け取れる可能性はある。
しかし、入院給付金等を受け取った場合は健康祝金の給付を受けられないし、早期に解約する場合は解約返戻率が低く、損をしてしまうこともある。
そこで、「保障」と「貯蓄」については分けて考え、保障的性格が強い医療保険は掛け捨て型にして保険料を安く抑えつつ、貯蓄については他の方法による、というのもひとつの有効な選択肢ではないだろうか。
医療保険は掛け捨て型と貯蓄型を慎重に比較検討
掛け捨て型の医療保険と貯蓄型の医療保険には、それぞれにメリット・デメリットがある。どちらを選ぶべきかについては医療保険に何を求めるかによっても変わるため、両者を慎重に比較検討することが大切だ。
ただ保障と貯蓄を分けて考え、掛け捨て型の医療保険に加入して保険料を安く抑えるのも、一つの選択肢ではある。貯蓄をする手段には、養老保険や個人年金保険、預貯金など様々な方法があるから、医療保険にこだわらず、自分に合った貯蓄方法を探してみるのもいいだろう。
曽我部三代
保険業界に強いファイナンシャルプランナー。富裕層の顧客を多く抱え、税金対策・相続対策を視野に入れたプランニングを行う。2013年より、金融関連記事のライターとしても活動中。
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