相続税を申告・納付する際、気になるのは非課税制度である。できれば上手に使って納める税金を少なくしたいものだ。今回は相続税の非課税制度について紹介する。

鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

相続税の非課税に関するQ&A

相続税,非課税
(画像=PIXTA)

最初に相続税の非課税に関する3つの質問に答えよう。

Q


相続税を非課税にする方法には何がある?

相続税を非課税にする方法には大きく分けて3つある。1つ目は正味の遺産総額が基礎控除額を下回る方法、2つ目は正味の遺産総額を抑える方法、3つ目は税額控除で相続税額を抑える方法だ。ただしどれが使えるかは相続財産や相続人の状況によって異なる。

相続税を非課税にする方法には大きく分けて3つある。1つ目は正味の遺産総額が基礎控除額を下回る方法、2つ目は正味の遺産総額を抑える方法、3つ目は税額控除で相続税額を抑える方法だ。ただしどれが使えるかは相続財産や相続人の状況によって異なる。


Q


非課税になれば相続税は払わなくていいの?

非課税とは「課税されない」という意味だ。ただ、本稿でお伝えする方法を活用しても相続税が0円になるとは限らない。非課税にも上限額があるからだ。そのため、今回お伝えする非課税になる制度をすべて使ったとしても相続税が0円になるとは言い切れない。

非課税とは「課税されない」という意味だ。ただ、本稿でお伝えする方法を活用しても相続税が0円になるとは限らない。非課税にも上限額があるからだ。そのため、今回お伝えする非課税になる制度をすべて使ったとしても相続税が0円になるとは言い切れない。


Q


非課税で相続税0円なら申告しなくていい?

本稿で非課税になる制度を活用した結果、相続税が0円になったとしても申告しなくていいとは限らない。申告しなくていいのはあくまでも「正味の遺産総額≦基礎控除額」のときだけだ。それ以外、特に配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例を使うときは申告が必要になる。

本稿で非課税になる制度を活用した結果、相続税が0円になったとしても申告しなくていいとは限らない。申告しなくていいのはあくまでも「正味の遺産総額≦基礎控除額」のときだけだ。それ以外、特に配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例を使うときは申告が必要になる。


相続税が非課税になる制度を知れば節税できる

「相続税をできれば払いたくない」、これが多くの人の本音だ。特に相続財産の大半が自宅で現預金がほとんどない世帯にとって相続税は死活問題になる。相続税は「原則一括納付」だが、納税額は数十万円以上になることが多いからだ。

悩ましい相続税だが、非課税制度を知り、上手に活用すれば相続税を抑えられる。

●非課税とは「相続税がかからない」こと

非課税とは「課税にあらず」つまり「課税されない」ということだ。相続税法には非課税になる制度がある。上手に活用すれば相続税がかからない部分を増やして節税できる。ただ、非課税額には上限がある。「非課税制度を使った=相続税は0円」ではないので要注意だ。

●非課税になる制度には種類がある

非課税になる制度を大別すると3種類ある。1つ目はそもそも相続税の申告をしなくていい制度、2つ目は課税対象である正味の遺産総額を抑える制度、3つ目は相続税額から一定額を差し引く制度だ。適用のタイミングが異なるので注意したい。

最初に相続税の計算の流れを押さえよう

相続税は次のプロセスで計算する。

1.相続人・受遺者それぞれの正味の遺産額を計算する

  • 相続・遺贈で取得した財産(現預金や不動産など)+死亡保険金・死亡退職金などみなし相続財産+相続時精算課税制度の贈与財産-非課税財産-債務・葬式費用=純資産価額(赤字だと0円)
  • 純資産価額+相続開始前3年間の贈与財産=正味の遺産額

2.1の金額を足し合わせる

3.2から基礎控除額を差し引く

4.3の金額を法定相続分で按分し、相続税率を乗じる

5.4の相続税額を足し合わせた後、実際の相続分で按分して相続税額を計算する

6.それぞれの相続税額に関し、相続人・受遺者の事情に応じて2割加算や各種税額控除を適用し、納付税額を算出する

文字にするとあっと言う間だが、実際の計算は非常に細かい。

相続税が非課税になる制度5つ

ではここで、相続税を非課税にする制度を5つ紹介しよう。

1.小規模宅地等の特例
2.非課税財産・債務・葬式費用
3.死亡保険金・死亡退職金の非課税枠
4.基礎控除額
5.税額控除

以下、それぞれの制度を解説する。

非課税1:小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は自宅やアパート、自社ビルなどの敷地の評価額を下げる制度だ。居住用・特定事業用・賃貸事業用それぞれの要件に合致すれば、200㎡・330㎡・400㎡と定められた面積を上限に50%か80%を評価減できる。被相続人の親族が敷地を引き継げば大抵は適用されるが、実は要件がかなり細かい。

非課税2:非課税財産・債務・葬式費用

非課税財産とは仏壇や仏具、お墓で日常礼拝用のものを言う。こういった宗教的な財産にまで課税することは社会的な見地から望ましくないとして相続税の課税対象外とされた。ただし仏具・仏壇であっても投資用だったり商品だったりするのなら課税される。

債務は被相続人の生前の借金や未払費用だ。正味の遺産総額を算出する際、プラスの相続財産から差し引く。

債務になるのは相続開始時に金額が確定した借金や未払費用である。ただ未払税金は少し特殊だ。死亡時に支払額が分からなくても、相続人が故人に代わって支払わなくてはならないものなら債務として差し引ける。

けれどお墓の未払代金など非課税資産に関するものや延滞税・加算税といったペナルティ部分は債務にならない。

葬式費用は遺産総額から差し引ける。例えば、葬儀費用や遺体・遺骨の回送費用、火葬・納骨の費用やお布施などだ。ただし初七日や法事の費用、香典返し、墓地・墓石の購入費用は含まれない。

非課税3:死亡保険金・死亡退職金の非課税枠

死亡保険金や死亡退職金は相続税法上「みなし相続財産」として課税対象となる。このとき「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられている。法定相続人の考え方は後述する基礎控除と同じだ。

なお、適用対象者は相続人だけだ。孫や第三者は非課税の恩恵は受けられない。また相続人であっても相続放棄をしたり、廃除・欠格で相続権を失っていたりすると非課税枠は使えない。

なお、死亡保険金・死亡退職金で非課税枠を併用できる。両方とももらっているなら最大「1000万円×法定相続人の数」が非課税になる。

非課税4:基礎控除額

基礎控除額は正味の遺産総額から差し引く金額だ。相続財産が少なすぎて担税力のない世帯はこの基礎控除の適用で申告・納税の義務から解放される。

基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する。基礎控除額の詳細や法定相続人の考え方は以下のリンクを参考にしてほしい。

【参考】相続税の基礎控除について徹底解説!

非課税5:税額控除

税額控除は相続人や受遺者それぞれの事情に応じて本来の相続税額から差し引く金額だ。税額控除を適用した後、それぞれの納付すべき税額が算出される。税額控除には次のようなものがある。

●配偶者の税額軽減

配偶者にのみ適用される税額控除だ。配偶者が相続した正味の遺産額が1億6000万円か配偶者の法定相続分のいずれか多い方に達するまでは、相続税がかからないというものだ。遺産分割が成立していること、相続税の申告書の提出が前提になる。

●未成年者の税額控除

相続人が20歳未満なら「(20歳-相続開始日の相続人の年齢)×10万円」を相続税額から差し引ける。対象はあくまで法定相続人に限られる。なお、相続放棄をした相続人も控除可能だ。

●障害者の税額控除

相続人が85歳未満の障害者だと「(85歳-相続開始日の相続人の年齢)×10万円」を相続税額から差し引ける。もし相続人が特別障害者であればこの式の「10万円」は「20万円」になる。なお、未成年者の税額控除と同様、相続放棄をした相続人でも控除できる。

●相次相続控除

前回の相続から10年経たないのに今回の相続が生じたときに活用できる税額控除だ。この制度を使えるのは今回の相続の相続人である。この相続人には相続放棄や廃除・欠格で相続権を失った人は含めない。前回の相続で被相続人が納税した相続税額の一部を経過期間に応じて控除できる。

●贈与税額控除(暦年課税・相続時精算課税制度)

死亡日以前3年間の贈与が加算された人や相続時精算課税制度で故人から生前贈与を受けた人が対象だ。相続財産に持ち戻しとなった生前贈与につき納めた贈与税が控除できる。

注意点

非課税制度を使う際、次の点に注意しよう。

●相続税0円でも「基礎控除」以外は申告必要

後述するが「正味の遺産総額≦基礎控除額」でなければ相続税額0円でも申告しなくてはならない。特に小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は申告が前提なので注意しよう。

●不安なら税理士に相談を

それぞれの制度の条件は分かりにくい。うっかりミスを防ぐなら税理士に相談した方がいい。

●「相続開始を知った日」から10か月以内

申告期限は相続開始を知った日から10か月以内だ。節税を考えすぎて、うっかり期限を過ぎないようにしよう。

●納税も申告と同じ期限

納税も相続開始を知った日以後10か月以内に済ませる必要がある。忘れないよう注意しよう。

相続税の申告が必要なケース・不要なケース

既述の通り、相続税は原則「正味の遺産総額≦基礎控除額」以外は申告しないといけない。たとえ納税額0円でもだ。なお、「基礎控除額を超えそうだけど微妙」というときは申告しておいた方がよい。仮に少なすぎたとしても支払うペナルティは無申告より少なくて済む。

相続税の申告の手順とは

相続税の申告は以下の手順で行う。ただし、最初の3つは順不同になることがある。

  • 相続人の特定
  • 資産の確認・評価
  • 遺言書の確認
  • 遺産分割協議の実行
  • 遺産分割協議書の作成
  • 相続税の申告書の作成

遺産分割が申告期限に間に合わないときは

小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も遺産分割の成立と期限内申告が前提だ。もし遺産分割が10か月以内に終わりそうにないときは「申告期限後3年以内の分割見込書」を未分割の申告書とともに提出しておこう。あとから申告をやり直した時、これらの制度を適用できる。

相続税の申告が間に合わなかったときのペナルティ

もし相続税の申告が10か月以内にできないと次のようなペナルティを別途支払うことになる。

  • 無申告加算税
  • 重加算税
  • 延滞税

特に重加算税は無申告につき仮装又は隠蔽があったときにかかる。「追加本税×40%」と重いので要注意だ。

相続税の申告に必要な書類

相続税の申告には相続税の申告書とマイナンバーカードの関連書類が必要だ。この他、申告の内容に応じて遺産分割協議書や遺言書、印鑑証明書や財産の詳細に関する種類などが必要になる。

相続税の申告の方法

相続税の申告方法は現在、次の2つがある。

  • 書類で提出
  • e-Taxで提出

e-Taxでの申告は2019年10月から始まった。ただ、活用している人は少ない。書類で提出する方が気は楽だろう。

相続税の申告を税理士に依頼すべきなのはこんなとき

「不動産が大半」「相続内容が申告」「評価が難しい」「節税策の使い方が分からない」といったときは税理士に依頼するとよい。必要な節税策をきちんと適用し、正しく評価・計算をしてくれる

相続税の申告を税理士に依頼した時の費用

しかし気になるのは税理士費用だ。通常、遺産総額×5~10%と言われている。ただし実際には「相続人が多い」「財産状況が複雑」といった世帯が大半だろう。このようなときは別途報酬を支払うことが多い。