個人型の確定拠出年金(iDeCo)については、2017年の法改正により企業に勤める会社員も加入できるようになったことから、人によっては退職所得控除を上回ったり、受け取り方によって課税金額が変わったりするケースが生じています。受け取りの際にはどのような点に注意しておく必要があるのでしょうか。

確定拠出年金制度の法改正の流れと加入者数 

会社員のiDeCo受取方法は退職金と併せて検討を!
(画像=SB/stock.adobe.com)

人生100年時代を支える老後資産形成における活用方法の一つとして取り入れられている確定拠出年金制度については、2017年の法改正により個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入資格者が拡大し、企業型確定拠出年金加入者であっても、勤務先の規約で認められていればiDeCoにも加入できることとなりました。併用する際にはiDeCo掛金の上限額が自営業者と会社員で異なるものの、企業型と個人型で用意されている運用商品のラインナップが異なることや、掛金の額についても上限までの範囲内で自由に選択できるという点で、運用の幅が拡がるという意味からも加入者が増加し、2021年3月31日時点の加入者数は約194万人となっています。

iDeCoの受取時期および受取方法 

上記で述べたとおり、確定拠出年金には個人型(iDeCo)と企業型の2種類がありますが、受取時の取り扱いはどちらも同じです。

受取時期

企業型および個人型(iDeCo)は10年以上の加入期間がある場合、60歳になると受給権が発生します(60歳までに10年以上の加入期間がない場合は最大65歳まで延長されます)。受給権が発生すると、加入者は60歳から70歳までの間の任意のタイミングで資産を引き出せます。ここで注意しておきたいのは、60歳になったからといってすぐに引き出さなければならないということではありません。受給権が発生した後も運用を続けながら、自分の最適な運用結果が得られるタイミングで引き出すという考え方も大切です。

受取方法

資産の引き出し方法は「一括」、「分割」、そして「一括と分割の併用」の3種類が用意されています。そして引き出した資産は「会社を退職していなくても退職金扱いとできる」点と「公的年金を受給していなくても公的年金扱いとできる」点、つまり、受取時期や方法を自由に選択できることから、税制面で大きなメリットを受けられる点がポイントとなります。

受け取り方によって控除の対象が異なる

確定拠出年金は、受け取り方によって「退職所得控除」もしくは「公的年金等控除」の対象となります。それらの所得計算方法について、以下に詳しく説明します。

一括で受け取る場合

一括で受け取る場合は退職所得控除の対象となり、退職所得控除を差し引いた額の2分の1が課税所得となります。退職所得控除額は勤務年数によって以下のように異なります。

(退職所得控除額)

勤務年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)

退職所得については分離課税となることから、他の所得(例えば給与所得など)と合算されることはなく、税率を抑えられる点がメリットとなっています。

iDeCoの場合、その加入期間を勤続年数と読み替えます。そして、加入期間とは掛金を拠出した期間であり、運用のみを行う運用指図者の期間は加入期間とはなりません。退職所得控除は対象期間が勤続20年までは控除額が1年あたり40万円、20年超になると70万円と上がるためできるだけ加入期間は長い方が有利となります。さらに退職所得控除は1カ月でも1年と数えることから、所得控除の対象とならない運用指図者期間(掛金を拠出せず、運用のみを続けている期間)はできるだけ少なくすることをおすすめします。

分割で受け取る場合

iDeCoを分割で受け取る場合は、公的年金等控除の対象となります。65歳より前に特別支給の老齢厚生年金を受給している場合はその年金と合算されますが、男性は昭和36年4月2日以降、女性は昭和41年4月2日以降生まれの方は特別支給の老齢厚生年金の支給はありません。したがって、使われることのない60歳代前半の公的年金等控除の枠は、iDeCoを受け取ることによって上手に活用することがポイントです。

受け取り方を選ぶうえで押さえておきたいポイント

加入していた期間や受け取るタイミングによって、所得の計算方法や控除の適用が異なることから、気をつけておきたいケースを紹介します。

同時に受け取る場合は控除額が大きい方が優先される

60歳で会社の退職金とiDeCoを同時に受け取る場合、退職金とiDeCoの資金は合算されます。しかし退職所得控除の対象となる期間(勤続年数とiDeCoの加入期間)が重複する場合は、どちらか一方(控除額の大きい方)が優先されます。

たとえば、退職時60歳時点の勤続年数が30年で退職金が1,300万円、iDeCoの加入期間が15年でiDeCoの資金が500万円の場合であれば、期間が長い会社勤続の30年が対象期間となるため、退職所得控除額は1,500万円となります。

したがって、退職金1,300万円とiDeCoの資金500万円の合計である1,800万円から1,500万円を引き、その2分の1である150万円が課税額となります。

60~64歳は公的年金等控除をiDeCoで活用

iDeCoは一括と分割の併用受け取りが可能なため、退職所得控除と公的年金等控除を合わせて使うことができます。そのため上記で述べたとおり特別支給の老齢厚生年金の支給がない60歳から64歳の世代は、使われることのない60歳代前半の公的年金等控除の枠をiDeCoの受け取りに活用できます。

例えば、退職時年齢である60歳時点の退職金が1,300万円、そしてiDeCoの資金が500万円あった場合、iDeCoの資金の1部である200万円を一時金として受け取り、残りの300万円を60歳から毎年60万円ずつ5年間に分けて受け取ることで、非課税で受け取ることができます。なぜなら、65歳以下で年金を受け取る場合、60万円以下の場合の所得金額は0円になるからです。

退職が65歳ならiDeCoを先(60歳)に受け取る方法も

複数の退職金を4年以内に受け取る場合、退職所得控除の対象となる期間のうち、重複している部分は控除額の計算から除外されますが、4年超受取時期をずらすことでそれぞれの退職所得控除枠を受け取りの際に使えます。

例えば、65歳時点の勤続年数が35年で退職金が1,300万円、iDeCoの加入期間が15年でiDeCoの資金が500万円の場合、退職が65歳の場合は60歳の時に一時金としてiDeCoを受け取れば、iDeCoの加入期間である15年間に応じた退職所得控除が適用されるため退職所得控除額は40万円×15年=600万円となり、iDeCoの資金は課税対象となりません。そして65歳で退職金1,300万円を受け取る際の退職所得控除額は800万円+(35年-20年)×70万円=1,850万円となり、iDeCoの一時金および退職金どちらも課税されることなく受け取ることができます。

「退職金<退職所得控除」の場合は、みなし勤続年数の算出が必要

複数の退職金を受け取る場合、一般的には退職所得控除の重複期間は4年で調整されますが、iDeCoだけは受取時期を自由に選べるため、iDeCoを退職後に受け取る場合の退職所得控除の重複期間の調整は受け取り前の14年とされています。つまり退職金を受け取った後の61歳から70歳の間にiDeCoを受け取ると、退職所得控除は最低の80万円しか適用されないこととなります。ただし、退職時に退職所得控除が使い切れなかった場合は、みなし勤続年数を算出し、その分をiDeCoの受け取り時に適用することができます。そして、そのみなし勤続年数の算出方法は以下のとおりです。

(みなし勤続年数の算出方法)

前の退職金等の収入金額みなし勤続年数
800万円以下の場合収入金額÷40万円
800万円を超える場合(収入金額-800万円)÷70万円+20

例えば、60歳時点の勤続年数が30年間(退職金1,300万円)、iDeCoの加入期間15年(iDeCo資金500万円)の場合、61歳から70歳の間に一時金としてiDeCoを受け取ろうと思うと、(1300万円-800万円)÷70万円+20年=27年がみなし勤続年数となり、本来の勤続年数である30年との差である3年分の退職所得控除はiDeCoの受け取り時に適用されることとなります。

具体的には、60歳時点で受け取る1,300万円の退職金に対する退職所得控除は800万円+(70万円×(30年-20年))=1,500万円となり、この時点では課税対象となりません。ただし、その後のiDeCo受け取り時には40万円×3年=120万円が退職所得控除として適用され、その2分の1である190万円に対して課税されることとなります。

2022年からはiDeCoを後で受け取っても退職所得控除の対象になる場合も

現在の制度では、iDeCoは70歳までに資産の受け取りをすることになっているため、会社の退職金より後にiDeCoを受け取ると、上のケースで説明した「みなし勤続年数」が適用され、重複期間の退職所得控除が使えなくなります。しかし、2022年の制度改正によりiDeCoの受け取りが75歳まで可能になることで、60歳で退職金を受け取り、75歳でiDeCoを受け取るという方法を取ると、それぞれの退職所得控除枠を最大限活用して受け取ることができます。

2020年の制度改正も視野に入れながら受取方法と受取時期を考えることが大切 

確定拠出年金については、2020年の制度改正により2022年からiDeCoの加入は65歳まで、企業型の加入は70歳までと拡大されます。もちろんiDeCoは国民年金被保険者であることが加入の条件であるため、自営業者などの第1号被保険者は60歳以降の場合、任意で加入していなければiDeCoに加入できませんが、会社員などの第2号被保険者であればより長く積み立てを継続することが可能です。

また、勤務先の会社の規定にもよりますが、企業型確定拠出年金に70歳まで加入し続ける人も増えることが予想されると同時に、公的年金の繰り下げも75歳まで可能となることから、iDeCoの受け取りと合わせてより多面的に考える必要が出てくることになります。

確定拠出年金の受け取りについては、リタイア後のライフプランも考慮しながら、どのような方法が自分にとってベストなのか、早めに検討しておくことが大切だといえるでしょう。

(提供:Incomepress



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