老後のための資産運用の手段としてiDeCoが注目されていますが、原則として60歳まで引き出せないなどのデメリットから、利用する価値があるのかどうか迷っている人も多いと思います。そこで今回は、普通の証券口座で運用するのに比べ、iDeCoではどのぐらい利回りが期待できるのかをご紹介します。

iDeCoとは?

iDeCo,利回り,売るタイミング
(画像=PIXTA)

iDeCo(イデコ)とは、個人型確定拠出年金とも呼ばれることからもわかるように、年金制度の一種です。国民年金や厚生年金保険などすべての国民が加入しなければならない公的年金に対し、iDeCoは自分で加入するかどうかを選べる私的年金です。

iDeCoでは、加入者が毎月一定額のお金を積み立て(掛金を拠出するといいます)、iDeCoのために用意された定期預金・保険・投資信託といった金融商品を自分で運用し、60歳以降に年金または一時金で資産を受け取ります。

大きな特徴は税制優遇が受けられることです。iDeCoで受けられる税制優遇は以下の3種類です。

所得控除 拠出した掛金が全額「所得控除」の対象になり、
所得税、住民税が軽減される
運用益非課税 運用で得た定期預金の利子、投資信託の運用益が「非課税」になる
年金受取時 年金を受け取る時「退職所得控除」「公的年金等控除」の対象になる

iDeCoの利回りが有利になる理由

運用益が非課税で複利効果アップ

投資で利益が出ると、普通はその利益に対し20.315%の税金がかかりますが、iDeCoで運用するとその税金がかからず、運用で得た利益をそのまま受け取ることができます。単年で考えてもこの20.315%の税金がなくなるのは大きなことですが、iDeCoのように老後の資金形成を目的とした長期間にわたる投資では、さらに効果が上がります。

例えば、100万円の資産を5年間年利5%で運用できた場合を考えてみましょう。普通に投資した場合(20.315%の税金がかかる場合)とiDeCoで非課税で運用した場合、差は以下の表のように広がっていきます。

  1年後 2年後 3年後 4年後 5年後
運用益に課税
(20.315%)
103万
9,843円
108万
1,273円
112万
4,354円
116万
9,151円
121万
5,732円
運用益非課税 105万円 110万
2,500円
115万
7,625円
121万
5,506円
127万
6,28円
差額 1万
157円
2万
1,227円
3万
3,271円
4万
6,355円
6万
548円

運用益非課税の効果が年を経るごとに大きくなっているのがわかります。これは、運用によってついた利益にさらに利益がつくことにより、利益が雪だるま式に増えていくからです。これは「複利効果」と呼ばれています。

所得控除で実質利回りが上がる

運用益が非課税になる効果は比較的わかりやすいのですが、所得控除の効果は会社員の方にはわかりづらいかもしれません。

例えば、iDeCoで掛金を毎月2万円(年額24万円)拠出した場合、その人の所得税が10%、住民税が10%とすると、年間4万8,000円(24万円の20%)税金が軽減されます。税金が軽減されるということは、4万8,000円手取りが増えるということです。

この所得控除の効果のおかげで、実質年間に増える負担は24万円-4万8,000円=19万2,000円にもかかわらず、24万円分の投資ができることになります。

iDeCoは退職金制度が少ない会社員に重要

iDeCoをはじめとした私的年金は、老後のための資金を自助努力によって準備する人を応援するための制度です。iDeCoでは、国民年金の加入区分や会社の制度によって拠出できる掛金の上限が異なります。

表. iDeCo(イデコ)の掛金の拠出限度額

国民年金の加入区分 対象者 掛金の上限額
第1号被保険者 自営業者、フリーター 月額6万8,000円
第2号被保険者 会社に企業年金がない会社員 月額2万3,000円
企業型確定拠出年金のみに
加入している会社員
月額2万円
確定給付企業年金のみ、
または確定給付企業年金と
企業型確定拠出年金の両方に
加入している会社員
月額1万2,000円
公務員
第3号被保険者 専業主婦(夫) 月額2万3,000円

特に、国民年金第2号被保険者の会社員の方で企業年金がない会社にお勤めの方は、月額2万3,000円拠出することができます。企業年金がないこれらの会社員は、他の会社員の方より退職金が少ない、もしくはまったくないことが考えられます。こういう人こそiDeCoを利用し、老後資金の準備をしましょう。

iDeCoのデメリットは?

手数料が利回りを下げる要因になる

iDeCoに申し込むと、加入時に2,829円、運用時に運営機関に171円などの共通の手数料を取られる上、加入する金融機関に支払う手数料(口座管理手数料)が発生します。この金融機関ごとの手数料は2020年8月時点で0円から458円とかなり差があります。

これらの手数料は、預けているお金から差し引かれるので、毎年利益が手数料分だけ少なくなることを意味します。毎年300円程度の手数料がかかる場合、例えば定期預金などにばかりに掛金を拠出して利益が300円を下回れば、利回りはマイナスになってしまうことに注意しましょう。

60歳まで引き出せないが、ムダ遣いの防止にもなる

iDeCoの大きなデメリットの一つに、原則として60歳まで資金を引き出せないことがあります。もし突然の怪我や病気で仕事ができなくなった場合でも、それまで積み立ててきたお金は60歳まで使えないことは覚えておきましょう。

しかし、この60歳まで引き出せないという特徴は、無駄遣いすることなく確実に老後に資金が回るというメリットと捉えることもできます。

iDeCoのスイッチングと配分変更

スイッチングとリバランス

スイッチングとは、これまで積み立ててきた資産の商品構成などを変更することです。iDeCoは毎月一定額を長期的にじっくりと積み立てて運用していくものなので、頻繁な売買は必要ありませんが、ここではスイッチングを使ったリバランスを紹介します。

iDeCoを投資信託など損益が出る商品で運用していると、次第に掛金の配分と資産残高の配分が違ってきます。例えば商品A30%、商品B30%、商品C40%の構成で保有していたものが、商品Bの値段が下がり、商品A50%、商品B10%、商品C40%になったとします。

この場合、そのままにしておいてもいいですが、スイッチングをして資産配分割合を元の割合に戻すことで、商品Bが値上がりした時より大きなリターンが期待できるようになります。この資産配分割合を元に戻すことを「リバランス」といいます。

このリバランスは頻繁に行う必要はなく、1〜2年に1回などと時期を決めて行うことで、リターンを安定させることができます。

配分変更は年齢に応じて

既に保有している資産の配分を変更するスイッチングに対し、毎月の掛金で購入する運用商品の種類や配分割合を変更することを「配分変更」といいます。

一般的に、若い頃はリスク商品を、高齢になればなるほどリスクの少ない保険や預金を買うことが勧められます。これは、若い時には資産運用で一時的に損失が出ていても、後々運用成績が回復するかもしれないことや、例え損失が確定してもまだ収入でカバーできる可能性があるからです。

iDeCoも運用の一種ですので、運用期間が長くとれない50代を超えたあたりからは、リスクの高い商品ではなく徐々に安全資産に配分を変更していきましょう。

iDeCoの売るタイミングは?

暴落時に慌てて売るのはNG

iDeCoは長期的にコツコツと積み立てながら運用していく制度ですが、難しいのは「いつ投資信託を売却するか」です。中でも投資初心者の人は、商品が暴落した時に慌てて売ってしまいがちです。

商品の値が一時的に下がってしまったとしても、そのまま保有していればまた回復するかもしれません。また、商品の値が下がっている時というのは、同じ掛金でもその商品をより多く買える時期ということでもあります。

iDeCoではこうした価格が下がった時でも、「今は商品が安く買えている」と考え、慌てて売ることなく価格が回復するまで待つという心構えが大切です。

目標利回りや目標金額を持とう

投資初心者の人がやってしまうもう一つの失敗は、運用が十分うまく行っても、「もっと値上がりするかも」となかなか売れないことです。そうしているうちに価格が下がり、売るタイミングを逃してしまうのです。

売るタイミングを逃さないためには、「老後足りない金額は800万円だから、iDeCoの資産が800万円になったら売ろう」や「全体で運用利率が4%を超えたら売ろう」というように、目標を決めておきましょう。

iDeCoで高利回りの運用をするために

iDeCoは他の制度にはない大きな税制優遇が3つありますが、今回は特に運用益が非課税になることと掛金が所得控除になることが利回りにどのように影響するのかと、結果としてiDeCoでは高い利回りが期待できることをご紹介しました。また、今回ご紹介したリバランスや、売る時の目標設定などでiDeCoをさらに効果的に利用してみてください。

文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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