iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)は60歳まで掛金を拠出し、最長70歳まで自分自身で資産運用を継続するため、人によっては30年、40年というスパンで付き合っていかなければならない。長期資産形成で大切なことは定期的な運用商品の見直しだ。今回はiDeCoのメンテナンス方法とそのメンテナンスがお任せできるバランスファンドについて解説する。
iDeCoの配分変更の考え方
資産形成では分散投資が重要だということをお伝えしてきたが、投資先は一回決めたからといってそのまま放置しておくことはできない。経済状況の変化を考慮しながら、自分自身の資産配分を見直す必要性が出てくる。
株式市場が活況な時、債券市場は人気がなくなり、価値が下がる。債券とは固定金利商品なので、株がどんどん上がっている時はそこに期待感が高まり株にお金が流れるからだ。債券の本質的な価値が変わっておらず株式市場の変動により相対的に価値が下がっている債券は、割安となる。
そこで次月より債券への投資額を増やしたいという時に行うのが配分変更だ。
例えばこれまで月々2万円の掛金で、株式に投資をする投資信託Aを1万円、債券に投資をする投資信託Bを1万円買付していた人が、翌月の買付はAを5000円、Bを1万5000円とする指示を与える。これが配分変更だ。
配分変更をすると、これまで買ってきた投資信託AとBの残高はそのまま保有しながら、翌月からの積立額が変わる。これにより、株式の値段が高騰した時のいわゆる高掴みを避け、割安の債券を仕入れることができる。
配分変更はWEBサイトを通じて好きな時に行うことができるが、実行されるのは買付のタイミングであるので月1回だ。iDeCoの掛金は毎月26日に指定の口座から引き去りされ、翌月のおよそ20日前後に加入者が指定した運用商品の買付に充てられる。
したがって、配分変更はこの買付のタイミングに合わせて実行されることになる。運営管理機関によっては、買付実行日の数日前までを配分変更の締め切りとしているところもあるので、スケジュールはあらかじめ確認しておきたい。
iDeCoのスイッチングタイミングはいつがいいの?
これまで海外株式に投資をする投資信託Cを積み立てしてきたが、選挙の行方が不透明で場合によっては株式市場の大きな下げが起こるかも知れないので、いったん安全資産にお金を逃がしておきたい、というようなタイミングもあるだろう。
日本人にとって為替リスクもなく変動リスクも非常に小幅な日本国債に投資をする国内債券の投資信託Dはこういうケースでは恰好の逃げ場所にとなる。このような場合は、WEBサイトで投資信託Cの全売却を指示し、その資金で投資信託Dを購入するという指示を与える。これがスイッチングだ。
例えば選挙が落ち着き、経済の見込みも明るいとなったら今度はDを売却してCをもう一度購入するという、「スイッチング」を行うことも可能だ。もちろん全額を一度に買付せず、20%ずつ5回に分けてDを売却してCを購入するという指示を与えても良い。
スイッチングの指示は配分変更のように月に1回という制限はなく、何度でも可能だ。ただし、金融商品を売却した資金がすべて現金化したあと、その資金で指示された金融商品を買い付けるので、日数がかかる。通常投資信託の売却には現金化されるまで4営業日かかるのだが海外へ投資をする投資信託だとさらに数日かかる。休日をはさむとさらに伸びるので、自分の思ったタイミングで買付が終了しないことは覚えておこう。
また金融商品によっては、信託財産留保額といういわゆる解約ペナルティがかかるものがある。売却した残高に対し数パーセント差し引かれる商品もあるので注意をしよう。ただし、投資信託を買付する際にかかる販売手数料はiDeCoの場合全商品無料なのでここはメリットだ。
スイッチングはポートフォリオの変化を修正する「リバランス」にも利用できる。例えば、日本株、日本債券、海外株、海外債券のいわゆる基本の4資産に25%ずつ投資をしていたとする。しばらく円安株高が続き、ポートフォリオが日本株40%、日本債券、海外株、海外債券が20%ずつ変化してしまった。これは本来自分が望んだ資産配分とは異なっているので、許容するリスクも変化している。このようなタイミングで行うのがスイッチングである。
この場合、増えてしまった日本株15%分売却して、その他の投資信託を5%分ずつ購入するという指示を出していく。ここでも手続きの完了まで数日かかってしまうので、正確に25%ずつの配分にはなかなかならないが、それでも日本株40%というある意味いびつなポートフォリオの修正をすることができる。
しかし、悩ましいのはこのリバランスを「いつやるの?」という点だ。書店に並ぶ書籍では、一年に一度とか、ポートフォリオが5%程度崩れた時など指南するものも多いが実際スイッチングを実行するのは難しい。なぜなら、市場が活況であれば「もっと上がれ!」と思うのが心情だし、市場が下がれば損を確定したくないとなかなか踏ん切りがつかないのも人情だ。
またiDeCoのWEBサイトでスイッチングの指示を与える作業も結構面倒だ。運営管理機関の仕様にもよるが、売却する金額を指定するために投資信託の口数を計算したり、複数の売買が絡むときは1件ずつ指示を出すなどの手続きはなかなか分かりづらい。
iDeCo「バランスファンド」とは?
機動的に、資産配分を変えたり、スイッチングしたりということが難しいという方や、そのあたりは運用のプロにお任せし、世界経済の成長の果実を得たいという人が利用するのが「バランスファンド」だ。
投資信託A、投資信託B、投資信託Cを自分でチョイスし組み合わせるというのが、ビュッフェスタイルだとすれば、バランスファンドは、コース料理。黙っていても前菜からメインディッシュ、デザートまで出てくる。もちろん野菜や肉や魚といった食材のバランスも考慮され偏りのないようにプロが考えてくれているのがうれしい点だ。
よくあるバランスファンドのネーミングは、安定型、積極運用型などといった言葉が入っているものや、株式20、株式80など数字が入っているものが多い。これらは、バランスをとる際に、変動幅の少ない安定資産の債券と、ハイリターンは期待できるが大きく価格が下落する可能性もある株式への配分比率を意味している。最近は株や債券の他、不動産に投資をするREITといった投資信託を組み入れているバランスファンドもある。
債券への投資比率が高いバランスファンドは安定型などといった名前で表現されることが多い。株式20という場合は、株式への投資配分が20%で債券は80%という意味なので、これもまた債券への投資比率が高いバランスファンドであると予測することができる。
投資のスタンスは年齢によっても変化すると言われている。若い人は資産形成に費やせる時間がたっぷりあるのでリスクをとって株式への投資を多めに、反対に年齢の高い方は、リスクを抑えて債券中心のポートフォリオを推奨する考え方だ。
従って株式80は若い人向け、株式20は年配者向けと一般的には解釈され、運営管理機関でも年齢別モデルポートフォリオを示しているケースもある。ただし、バランスファンドは設定時に決めた投資配分は変更されない。株式80のバランスは、基本的に株式への投資は資産全体の80%としているため、適時リバランスを行いながらそのバランスを維持していく。
iDeCo「ターゲットイヤーファンド」も
先ほどのルールでいけば、20代で株式80を選んだ人は、30代になったら株式60へ、40代になったら株式40へ、50代は株式20へと徐々にバランスファンドを変えていかなければならない。これもまた人によっては、誕生日にスイッチングをしたら良いのかなどという質問も飛び出してくるほど、その変更のタイミングは悩ましい。
そこで最近はターゲットイヤーファンドというバランスファンドが注目されている。このファンドの特色は、名称に西暦が表されていることが多いことだ。例えば2025、2035、2045、2055などといった表記がある名前のバランスファンドはそこの記された数字が西暦を表しており、その年に60歳になる(あるいはiDeCoの資金を引き出す)ことをイメージして作られたバランスファンドだ。時間の経過とともに資産配分を株式中心から債券中心に自動的に変更していくのだ。
例えば「バランス2055」は、2055年に60歳になる人用とイメージができる。今22歳の若い人を対象とした資産配分なので当然株式比率が多い。先ほどバランスファンドはコース料理と例えたがこちらはずっと管理栄養士さんがその方の年齢や体の様子をみながら作ってくれる健康メニューといったイメージだろうか?
確かに年齢に合わせて資産配分を運用のプロが自動的に調整してくれるターゲットイヤーファンドはお得な感じがするが、そもそもなぜ「年齢によって」投資比率を変えるべきなのだろうか?
資産形成をゴルフに例える 60代はもうグリーンに乗っている
資産形成をゴルフに例えてみよう。ゴルフに詳しくない人であっても、ゴルフはどんどん玉を前に前に打って最終的に小さい穴(ホール)にその玉を入れるスポーツであることは知っているだろう。
さてこのゴルフであるが、玉を打つ「ゴルフクラブ」はそれぞれ玉を打つ部分にあたるヘッドの大きさやその角度が異なるゴルフクラブが何本も必要だ。一番最初に玉を打つことをティーショットというが、その時にはドライバーを使う。
これは最もヘッド(玉を打つ頭の部分)が大きくよく飛ぶのが特徴だ。なにしろゴルフははるか先にある小さな穴に玉を落とさないと終わらないので最初はとりあえず飛ばすことに専念していく。このドライバーは飛ばすには最適な道具なのだがいかんせん右に飛んだり、左に飛んだりする。
それでも玉を打ちながらグリーンと呼ばれる芝の美しいエリアに玉が近づくあるいはそこに玉が乗ると、今度は玉を飛ばすのではなく、玉を転がし穴に入れることが最重要課題となる。そこで登場するのがパターだ。ドライバーとは全く形状が異なり、遠くに飛ばすではなく、転がすのが目的の道具だ。当然グリーン上でドライバーを振り回すことはあり得ない。
ここでいうドライバーを株式だと思って欲しい。そしてパターは債券だ。年齢が若いということはティーアップした状態で、とりあえず前に前に飛ばしていくことが必要だ。ここでパターを持っていてはいつまでたっても上がれないのだ。
一方そろそろiDeCoの資産を老後資金として引き出して使いたいという50代、60代はもうグリーンに乗っている状態だ。従ってここでドライバーを振り回してはいけないのだ。パターで慎重に調整しながら上がる、これが資産運用においても基本になる。
iDeCoの商品選び バランスファンドに積立をするという選択肢
iDeCoの加入者はほとんど投資については素人だ。また大切な日常生活があるなかで、配分変更をしたりスイッチングをしたりしながら資産形成に費やせる時間はそれほど多くはない。また資産形成のために相当多くの時間を割くことは、資産運用を仕事としない普通の方にとって、人生の中での重要度はそれほど高くはないはずだ。
そう考えるとiDeCoでバランスファンドを選ぶというのは、合理的な選択肢であろうと考える。ただ気を付けなければならないのは、一言でバランスファンドといっても、その中身は異なっており、それにより将来の資産形成の結果が変わることを考えると、しっかりと中身を確認しなければならないということは一言付け加えておきたい。
例えば株式80という表記であっても、投資配分を見ると、そのほとんどが日本の株式に投資することになっており、世界に対する投資が非常に少ないバランスファンドもある。もちろん日本株を中心として資産配分をしたいという人が選ぶ分には問題ないだろうが、世界中の経済成長に投資をしたいと思っている人であればこのバランスファンドは選ぶべきではない。
バランスファンドに限らず、何をとっても「コレだ!」とピンポイントでお勧めできる投資信託はない。一つは確定拠出年金の法律で、個別の運用商品を推奨してはいけないとされているからという理由と、将来の運用成果などだれも分からないから、だれかが推奨すること自体が在り得ないという理由からだ。
しかし未来は分からないが過去は分かる。特にこれからiDeCoを始めようという人であれば、過去の運用成績が優れていて社会的にも評価されている投資信託に投資ができる運営管理機関を選ぶというのも一つだ。
例えば格付け投資情報センター(R&I)というところがある。ここは文字通り格付けを行っている会社なのだが、ここのファンド大賞に選ばれた投資信託も参考になる。
https://www.r-i.co.jp/jpn/ie/itr/fund_award/backnumber/2017.html
例えばここでの評価が高く広く国内外の株式に投資をするセゾン投信の資産形成の達人ファンドは、2014年、2015年、2016年、2017年と4年連続で最優秀ファンドを受賞している。このファンドは トムソン・ロイター リッパーファンド・アワード でも3年連続で最優秀ファンドを受賞している評価の高いバランスファンドだ。
債券へは投資をしていないので、積極的に世界の経済成長の恩恵を受けていきたい人向きだが、長期で高評価を受けているバランスファンドを選ぶのも一つではないだろうか。
ちなみにセゾン投信の資産形成の達人ファンドおよび債券へも投資を行うセゾンバンガードグローバルバランスファンドの2本のバランスファンドは楽天証券のiDeCoを通じて積立が可能だ。iDeCoの節税メリットを受けながら優秀なファンドで資産形成ができる、これもiDeCoの醍醐味だろう。
山中伸枝(やまなかのぶえ)
確定拠出年金相談ねっと
代表 ファイナンシャルプランナー(CFPR)
1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後メーカーに勤務。これからは自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、FPを目指す。著書:「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書(インプレス)ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本(翔泳社)他