マイナス金利政策に伴う運用難で、それまで銀行の窓販において主力商品であった「一時払終身保険」の販売に、急ブレーキがかかった。すでに昨年秋ごろから、ほとんどの保険会社は、円建ての同商品の販売を停止している。

代わりに貯蓄性保険商品の「個人年金保険」が代替え商品として売られているという。果たして、個人年金保険を選択する事が、最善の策なのだろうか。今回は、目的別に「個人年金保険」に加入すべきか否か、また他の方法があれば、合わせて考えてみよう。

罠その1:「月6667円」以上支払っても、税制の恩恵額は変わらない

個人年金保険
(写真=PIXTA)

そもそも個人年金保険とは、どのような商品だろうか。生命保険会社が販売する老後に備える貯蓄性保険で、「円建て」「外貨建て」「変額」の3種類がある。

一般的には円建てタイプを指し、60歳以降を受取り開始年齢にすることと、受取期間を10年以上の設計にすることで、生命保険料控除の中の「個人年金保険料控除」を使い、税制の恩恵を受けられるのが特徴だ。

所得税率20%の人であれば、4万円×20%=8000円に加え、住民税2万8000円×10%=2800円を加算することの、合計1万800円税金が安くなる。

しかしこの控除枠には、上限がある。保険料として年間8万円を支払った場合に所得から4万円控除されるが、所得税に関してはこの4万円が、住民税としては年間5万6000円以上の支払いで、2万8000円が個人年金保険料控除としての枠の上限になるため、年間8万円以上支払ったところで、控除の恩恵額は増えない。

所得控除が目的であれば、個人年金保険は、月7000円の保険料で十分だ。それ以上の金額は、掛金全額所得控除が可能な「確定拠出年金」を活用しよう。

罠その2:インフレに弱い

ポピュラーな円建て個人年金保険の最大の弱点と呼べるのが、「物価上昇時に資産が目減りすること」だ。運用の多くを日本国債で運用するがゆえ、確約した年金額を受け取れる。その代償に、インフレ時物価連動しないため、実質の受取額は目減りする。

そもそも30年や40年先の将来の為に、若い時に加入するのが一般的な商品。それだけ長期間の間に、物価が上昇しないとは考えにくく、長期預け入れ商品としてはいささか不安である。

インフレに強く、毎月積立型の商品=投資信託に振り分けよう。保険であれば「変額保険」でインフレ対応できるが、控除種目は「個人年金保険料控除」ではなく「一般生命保険料控除」となる。他に死亡保険などで同枠を使い切っていれば、保険で変額の要素を保有する必要は、特段ない。

罠その3:低金利の利率が固定されてしまう

マイナス金利政策で、受取額の確定された金融商品は、軒並み運用利率が低下傾向にあるのはもうご存知だろう。30年前のバブル終焉期であれば、貯蓄性の高い保険商品は、掛けた保険料総額の2倍になって戻ってきた、ということもあった。今となれば夢のような話だが、実際それが当たり前だったのだ。

先のことは誰にも分からないが、少なくとも今の「超低金利」時代に、30年後に受取る年金の運用利率を「確定」させてしまうのは、かなりのリスクと言えよう。

円建てよりも運用利率の高い外貨建てという選択肢もあるが、為替リスクを容認する必要がある。逆に為替リターンも望めるのに加え、「個人年金保険料控除」の対象だ。金利が変動型の商品を選ぶことで、低金利での固定をヘッジできる。個人年金保険料控除にこだわらないのであれば、外貨建て終身保険で、変動金利タイプ(最低利率保障あり)は存在する。(一般保険料控除)

罠その4:一時払いタイプであれば、相続対策以外は保険でなくていい

一時払い終身同様、一時払い年金も販売中止の会社が多いが、残る数社では一時払いを販売している。そもそもまとまったお金を保険商品にするメリットは、死亡時に受け取れる保険金が、現金で置いておくよりも多いことに加え、税制優遇制度あるからだ。

後者の一時払いタイプでの税制メリットは、「相続時の控除」で、500万円×法定相続人の数の保険金額に関してはみなし相続財産として、相続財産に加算されないのでその分、課税総額を圧縮できるメリットがある。これは「終身保険」であっても「年金保険」であっても変わらないので、年金保険でも意味がある事と言える。しかし相続対策が目的でないのなら、まとまった資金を運用する先は、他にもあるだろう。

さらに、前者「死亡時の保険金額」に関しては、「終身保険」と「年金保険」で死亡保険金設計の仕組みが全く違うため、死亡時の保障が目的の一部であれば、一時払い年金ではその目的を十分に解消できない。

相続対策でないのなら、同様の安全資産「個人向け国債」のほうが現状利回りがよい。相続対策であれば、500万円×相続人の数を大幅に上回る必要はない。ただし、現金よりも受取りがスムーズであったり、受取人を指定できたりするメリットは、保険の良いところで、活用すべきである。

佐々木 愛子 ファイナンシャルプランナー (AFP)、証券外務員Ⅱ種
国内外の保険会社で8年以上営業、証券IFAを経験後、リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。 FP Cafe 登録パートナー